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18話.自由

 目を開けると、辺りは漆黒の闇で覆われていた。流石にもう三回目だ。この空間に誰が居るのかなんて、分かりきっている。


「おいおい、そういう反応をされると面白くねえなあ。もっと驚けよ」


「邪神……様」


「様は要らねえよ。邪神でいい」


 こうして、邪神に呼ばれた理由についても検討が付いている。オレが、自分の中にある殺人衝動に必死に抗っているからだろう。それは、全勇者を殺すという邪神の目的に反している。


 ……何か、罰を与えられるのだろうか。もしくは、ここで死ぬのかもしれない。


「そんなに警戒するなよ、罰なんて与えねえから」


 オレの予想に反し、邪神は罰を与えないと言った。それなら、何でオレはこの場所に呼ばれたのだろうか。もう既に、心当たりが無い。


「そんなのは決まっているじゃねえか。お前がごちゃごちゃ悩んでいるからだよ。全く、煩わしい」


「悩んでいる……?」


「そうだ。殺すだの、殺さないだの、そんなのはどうでもいいじゃねえか」


 ……何でだ? 邪神は、勇者を皆殺しにしたいんじゃ無いのか?


「確かに、俺は勇者が嫌いだ。殺したくてしょうがないね。……何故だか分かるか?」


 邪神に問いかけられ、初めて気づいた。邪神が勇者を殺そうとしているのは知っていたが、その理由まで考えた事は無かった事に。物語の様に、勇者と邪神は敵対しあう物なのだと、先入観に囚われていた事に。


「それは、アイツ等が自由じゃねえからだ」


 そして、邪神はその理由を高らかに宣言した。心の中に響き渡る様な声で。

 

 ……自由?


「ああ、そうだ。俺達、闇の者は本能的に自由を好む。全ての命が、自分のやりたい事を好き勝手に行う。法も秩序も無い世界。そこで生まれる理想郷が俺達の目標だ」


「勇者達が、自由じゃないっていうのは」


「お前の気付いた通りだ。奴らは人を助ける事を強制される。自分では思考を強制されている事に気づいてないけどな。思考を縛られ、抑圧される。それは俺達が最も忌み嫌う物の一つだ。だからこそ、俺達は勇者を殺す。そして、最終的には勇者を作り出す神を殺す。神を殺すには、全勇者を殺す必要があるんだ。俺が勇者を殺せと言うのは、そういう事だ」


 ――成程。この邪神が、自由を愛している事は理解出来た。だが、それならオレの胸で蠢く殺意は何なのだろうか。このような感情を植え付けるのは、邪神の好む行為では無い気がする。


「察しがいいな。その通りだ。いいか? その殺意は俺達が埋めつけた物じゃない。お前達は、転生する時に人間を辞め、俺達の同胞として生まれ変わった。闇に生きる者が、勇者を殺したいと思うのは本能だ。抑圧された魂を憎む、俺の同士たる証だ!」


 ……本能? この、自分じゃ無いような場所から来る殺意が?


「お前はまだ、人間のつもりでいるな? 理性で本能に蓋をし、やりたい事から目を背けている。それじゃあ、ダメだ。折角転生させてやったんだ。もっと、自分自身に正直に生きろよ。勇者を殺したいという殺意も、そして殺したくないという欲望も、その全てが今のお前なんだぜ?」


「自分自身に、正直に……」


「その結果、どんな人生を過ごそうと、俺は一向にかまわねえ。お前が自分で、決めた事ならな」


 ……なんで、邪神はオレにこんな事を言うのだろうか。一言、殺せと命令してくれればオレはきっと勇者を殺せる。


 なのに、なんでその言葉を発しないのだろう。それは、邪神の目的から遠ざかる行為なのに。


「俺達は、誰よりも自由を愛する悪の者だ。だからこそ、強制的に従わせる行為はしねえ。それは、俺達が憎む神達のやり方だからな。……だから、悩むな。俺達は本能のままに、やりたい事をやればいい。それが正解だ。それこそが、俺達のやり方だ」


 ……何なんだよ、それは。


 つまりは、オレ自身で結論を出せってことか。自分自身で、責任をもって決めるのか。あの勇者達を殺すか、否か。


 いいや、ここで悩む事はこの邪神は望んで無いのだろう。もっと率直に、簡単でいいのだ。


 オレは、思ったことを口に出せばいい。行動に移せばいい。それだけだ。きっと、それだけで上手くいく。


「いい顔になったじゃねえか。……もう大丈夫そうだな。全く、世話がやけるぜ」


 暗黒に包まれた空間に、光が灯る。それは徐々に大きさを増していき、オレを包み込んだ。





 ………………。





「シン! 大丈夫ですか? もうトルト町に着きましたよ」


「……ああ、もう大丈夫だ」


 オレは、オレのやりたい様にやる。本能に忠実に、思ったことを形にしよう。


 ――殺せ! 殺せ!


 その為に、この煩い殺意を受け入れる事から始めよう。あの邪神の、アドバイス通りに。

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