15話.森
「ライトセーバー!」
勇者――ハルトの放った魔法により、光り輝く剣がクマのモンスターに吸い込まれ、一撃の元にモンスターの命を奪う。
「大丈夫でしたか? シン」
「ああ、何とかな」
オレ達は今、ドド村の近くの森に来ていた。表向きは、森の調査をする為に。真の目的は、お互いに違うのだろうけど。幸いにも、ハルトからの不自然なアクションは今の所無い。オレの心配は杞憂だったのだろうか。
……いや、油断は禁物だ。
「思ったより戦えてますね、シン」
「いや、やっぱ勇者には敵わないよ」
今回はオレもモンスターとの戦闘に参加している。というのも、アッシュが誘拐された事件の後、盗賊の持っていた剣を拝借したのだ。だが、オレは剣についての知識は殆どない。精々地球にいた頃、体育で剣道の授業を経験したくらいだ。更に、剣道は刀を使う事を想定しているが、盗賊達の持っていた剣は両刃。剣道の知識が通用するとは思えなかった。
そんな訳で、自己流で今まで剣を使う練習をしていたのだ。いつ戦う事になるか分からないしな、分からないからと言って練習しない訳にはいかない。
だが、オレの剣は所詮は素人レベル。圧倒的に経験が足りていない。実戦経験を積める機会は貴重だ。
その為、ハルトの武器や戦術を調べるついでに、戦闘の経験を積んでいるという訳だ。
「それにしても、この森はモンスターが多いな」
「アハハ……。この森はモンスターが増えやすい条件が整ってますからね」
「そんな条件があるのか?」
モンスターが増えやすい条件があるなんて知らなかった。もしかしたらダンジョンに活かせるかもしれない。
「ああ、知らなかったんですか。結構、常識なんですけどね。モンスターっていうのは、魔王の手先です。つまりは闇の化身なんですよ。光が届かなければ、届かない程増殖し、強くなる生物達なんです。この森は木々の背が高く、光を完全に遮ってますよね? だから増えやすいって話です。因みに、ダンジョンの魔物とかはこの限りじゃ無いですよ?」
「ダンジョンの魔物はどう違うんだ?」
「ダンジョンっていうのは、それ自体が闇の塊です。深部に行けば行くほど、その闇は濃くなります。成長したダンジョンは深部のモンスターが強すぎて手に負えないんですよ。だから見つかり次第、討伐隊が組まれるんですけど」
――成程、やはりダンジョンの成長は優先して行う必要があるな。
それにしても、このハルトという勇者は強い。アルルとは違い、魔法を剣に纏わせて戦うタイプ。連撃では無く、一撃の重さに重点を置くタイプだ。こういうタイプはオレとは少し相性が悪い。
オレの戦闘は、数的有利を生かして戦うのが基本だ。スライムを召喚できるオレだからこそ、あらゆる戦闘で数の暴力を行使する事が出来る。
だが、一体一体の弱さは言わずもがな。このようなタイプと戦うには少し厳しいものがある。何せ、一撃で此方の数が減っていくのだ。
……まあ、やりようはある。あくまで、相性が悪いというだけ。ちょっと工夫すれば、勝つこと自体は十分に可能だ。
実際に、コイツの戦闘を見る事で対策を考える事が出来た。後、オレが知りたい事はたった一つ。
オレが、殺せる人間にコイツが入っているかどうかだ。
どんなに頑張っても、何もしていない人間を殺す事はオレには無理だ。絶対に、人を殺すには殺す理由がいる。理由なく、殺す事はオレには出来そうに無い。
だから、勇者を殺せるように縛りを付けた。勇者たる行動を取らない場合、ソイツを殺すと。それを判断する為にオレはずっと練習して来た。さあ、その成果を見せよう。
「シン! 危ない!」
ダンジョンマスターは、ダンジョンコアが壊れない限り死ぬ事は無い。どんな怪我を負ってもいずれ治る。ならば、オレ自身を犠牲に、この勇者の底を判断してやる。
木の影からスライムがオレを目掛けて突進してくる。オレからは見えず、ハルトからは見える位置から。
オレは今、自分のスライムに自分自身を攻撃させた。突撃してくるスライム。それに気付かないフリをする。もし、このまま直撃すれば、致命傷となるだろう一撃。
……さあ、この状況でどうする? 勇者。さっさと本性を見せろよ。
ズドン!
重苦しい音が辺りに響き渡る。数秒遅れで人影が一つ、地に沈んだ。
倒れたのは……ハルトだった。
「良かった……無事でしたか」
――何でだよ!? 勇者って奴はどいつもこいつも頭がおかしいんじゃねえの?
思考が纏まらない。混乱していて物事を上手く考えられない。
どうして、コイツらはこんなに自己を犠牲に出来るんだよ? おかしいだろ。なんで、持っている力を弱い者の為に使えるんだよ。
……勇者がこんな奴らばかりなら、オレはきっと勇者を殺せない。
「うおおおお!」
スライムに、心の中で謝りながら一撃を入れ、倒す。もう一度召喚すれば、コイツは復活する。かといって、良心が痛まない訳では無いけど。
――くそっ!
「大丈夫か!?」
「いえ、僕は大丈夫です。シンは、無事ですか?」
――くそっ!
「オレは大丈夫だ! それよりお前だよ! 村に戻るぞ!」
「アハハ、情けない所を見せちゃいましたね……」
――くそっ!
ダメだ。どうにも、ダメだ。
心の奥から聞こえてくる、殺せという声に従う事が出来ない。殺せば、全て終わるのに。この悩みも、苦しみも。
結局、勇者を殺すどころか、助けてしまう。
オレは、異世界でもどうしようも無い奴なのか? たった一つ、決めた事すら満足に出来ないのか?
自分の本心が、何処にあるのか分からない。
……オレは、こんなんで勇者を、殺せるのだろうか。




