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11話.力を

 足元の魔法陣から立ち昇る光がその輝きを徐々に失い、宙に霧散する。光の発生場所には、オレの相棒とも言えるモンスターが……いなかった。


「モンスター召喚だあ!? おいおい! あれだけ派手な事をしておいて何もなしか!?」


 ――馬鹿が、んな訳ねえだろ。


「ぐはっ!」


 オレの強い殺意によって強化されたスライムの一撃が片腕の盗賊を吹っ飛ばす。確かにオレはスライムを召喚してはいない。

 いや、してはいないと言うと語弊がある。正確には、出来ない。オレのダンジョンのレベルは一。これ以上のモンスターの召喚は今のオレには不可能だ。


 だからこそ、初日に召喚した相棒の力を借りる。相棒の力が発揮できる戦場を整える。


 モンスター召喚のエフェクトは派手だ。兎に角、目を引く。追い詰められた人間が使う起死回生の一手だと思わせるには十分だろう。案の定、奴らの視線は釘付けになった事だしな。その瞬間に、潜伏させておいたスライムの突進を直撃させるのは、決して難しい事じゃない。


 嘘つき? 卑怯? ……何とでも言えよ。  


 先程も言ったが、オレは邪神の手先。その性質は悪だ。卑怯に、最低な手段で敵を屠る。正々堂々? そんな言葉はすぐそこで寝ている勇者にでも掛けておけばいい。オレは勇者じゃない、ダンジョンマスターだ。ダンジョンマスターが卑怯で何が悪い?

 

 オレとスライムの間に言葉は必要無い。魂で繋がっている。此方のやりたい事を的確にスライムは見抜いてくれるし、その逆も然り。


 スライムは片腕の盗賊を、オレの目論見通り吹っ飛ばした。――クマのいる方向へ。


「はああ!?」


 今更驚いても、もう遅い。クマはその大きな腕を既に振りかぶっている。もう何をした所で、アイツは助からないだろう。


 そして、その凶器は振り下ろされる。真っ直ぐに、男の元へ。


「ぎゃああああああ!」


 男の断末魔が辺りに響き渡ろうが、クマはその腕を何度も何度も振り下ろす。かつて盗賊だった男の原型が無くなろうと、クマがその攻撃の手を緩める事は無い。正にモンスター。


 ――人の死体を見るのは初めてだが、意外と動揺は無かった。まだ一人だ。後二人、敵は残っている。


「良くやった! いい演技だったぜ! おかげであのムカつく勇者と、バカな盗賊団。皆殺しにする事が出来る!」


 絶え間なく、途切れない様に嘘を重ねる。相手は一人死んだ。今の状況は二対二対一。クマは何方にも属さぬ第三勢力だ。野生のモンスターであるが故に懐柔も不可能。だからこそ、向こうがクマに抱く印象を偽らさせる。


 オレが先程口にしたモンスター召喚という単語。そして明らかにオレに攻撃する気配の無いスライム。何より、たった今仲間をクマに殺されたという事実。


 ――これだけ条件が揃えば、誤認するだろう? クマはオレの味方だってね。


「畜生! 追い詰められたのは、こっちだったって訳か……!」


 武器を構え直す盗賊のボスと下っ端。場の流れは此方に傾いた。後はクマが第三勢力だとバレない様に、立ち回りを注意するのみ。


「――なーんてね」


 ……え?


 何が起こったのか、理解できない。唯、理解できたのはクマがその生命活動を終えたという事実。クマが盗賊のボスに突進した次の瞬間、クマは三枚に卸されていた。


「勘違いしてる様だから言っとくけど、俺達は割と名が売れている盗賊団だ。当然、実力に覚えもある。こんな雑魚モンスター、倒せないようじゃこの業界ではやっていけないのさ。二対三? 確かにヤバいねえ。最も、雑魚モンスターが二匹に、口だけが取り柄のにーちゃん。お前らじゃ全く負ける気がしないけどな。俺には分かるぜ、にーちゃん。アンタ、剣を振った事すらねえだろ。いや、戦った事すらねえな。分かるんだよ、死線を潜り抜けてきた俺にはな」


 ……おいおい、嘘だろ。


「まあ、その思考力は褒めてやるよ。現に俺は、こんな雑魚モンスターが原因で部下を一人失った。……当然、報復される覚悟はあるんだろうな? 唯では死なせねえぞ、卑怯者」


「ボス、あっしも参加させて下せえ! アイツの仇を取りたいんでさあ!」


「勿論だ。さあ、覚悟はいいな? 生きていることを後悔させてやるよ」







 ――何度も殴られ、蹴られ、そして踏まれた。目の前にはボロボロのスライム。遠くには倒れ伏すアルル。


 オレは一体何をしているんだろう。油断して、足を引っ張って。何の為にここまで来たのだろう。


「おいおい、まだ休ませねえぞ!」


 盗賊のボスの放つ蹴りがオレの腹に直撃する。最早、痛みすら感じない。いいや、既に身体の感覚すら無い。


 ――勇者の一人すら殺せず、その勇者に助けられ、挙句には勇者の足を引っ張り共に死ぬ。


 死因は別に何でも無い普通の理由。盗賊に殺された。それだけ。


 ……運が無い? 敵が強かった?


 違う。絶対に違う。


 前世のオレには特別な力が何も無かった。スポーツでも、勉強でも何をやっても人並。だからこそ、強い奴の力を借りた。日々を楽しく生きる為に、弱者である事を隠す為に。


 今のオレはダンジョンマスターだ。絶対的強者である勇者を殺す為に転生した。そんなオレが三下の盗賊に負ける?

 

 前世と違って、力を持っているのに、持たざる者に負ける?


 力を持った所で、所詮オレは凡人なのか?


 ……ふざけるなよ。


 そんなのは、オレが認めない。認めたくない。考えろ、どうすればコイツ達を倒せる?


 考えろ、考えろ。どうすればいい。どうすれば……!


 …………!



 そうだ、力が足りないなら、増やせばいいんだ。


 ――なあんだ、簡単な話じゃないか。


「おい、何をやってやがる!」


 オレの中から何かが吸い取られ、スライムを形成する物に注ぎ込まれているのが分かる。同時に、スライムの持つ力が強大な物になっていくのも。


 脳の奥で、止めろと叫ぶ声がする。そこから先は、もう取り返しがつかないと。

 

 ……知った事か。オレは力が欲しいんだよ。


 スライムの持つ力はドンドンと上昇する。もう既に、あのクマ程度なら一撃で倒せるだろう。


 ――もっとだ、もっと。こんなんじゃ全然足りない。もうオレはどうなってもいい。力を。唯、力を。単純な暴力の化身をここに顕現させろ!


「へ?」


 刹那、としか表現しようの無い時間だった。少なくとも、オレの視界にはその過程は映らなかった。オレが知覚出来たのは、ソレを成したモンスターと魂で繋がっていたから。


 気の抜けた声と共に、かつて下っ端だった者の首は宙を舞う。鮮やかに切断された断面からは、血すら噴き出す事は無い。


「何なんだよ!? ソイツは――!」


 赤黒い身体をしたスライム。まるで地獄を体現したような、完全なる暴力の化身。此奴は、オレが望んだスライムの姿なのが分かった。


 スライムの暴力は一瞬で下っ端を滅ぼす。そしてそれは、ボスですら例外じゃない。


 宙を舞うボスだった者の首と、余った胴体を嬉しそうに捕食する赤黒いスライム。


 ……オレの意識が続いたのは、ここまでだ。

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