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第八話:バスタークラス

 昨日の疲れも何のその、風野翡翠は相変わらず元気である。同じクラスのTEAMのメンバーは爆睡していても、彼女の授業中の態度はいたって真面目である。


 そんな彼女はただいま職員室に呼び出しを食らっているところである。ただし、指導を受けることはまずないが……


「失礼しました」


 合気道部の顧問から職員室に呼び出されていた翡翠はようやく解放されて教室に戻るところだった。一年生ながらも次の試合に出られることになったのである。


 しかし、翡翠がバスターの任務を請け負っていることは職員達に知れ渡っているため、都合の良い日程を聞かれることになったのだ。

 それだけ翡翠は強いのだから……


「ご飯〜! 試合〜!」


 上機嫌になりながら翡翠は彼女を待っている友人達の下へ急ぐ。しかし、その行く手を遮る者達が現れた。


「風野翡翠だね。ちょっと顔かしてくれない?」


 突如かけられた声に翡翠はクエッションマークを飛ばしながら翡翠はついていくことにした。

 普通なら「リンチだろ! 気付けよボケ!」と間違いなく快に突っ込まれそうな形相をした女子達に……



 体育館裏はまさにいじめの絶好のスポットだった。着いた途端、翡翠は壁に突き飛ばされる。


「いたいなぁ」


 バスターとして鍛えているためそこまで痛いわけでもないのが、翡翠はとりあえず言う。


「あんた、快君の彼女なんでしょ! それなのに何? 修君や翔君だけに止まらず白真君にまで手を出すの?」


 一体どこをどうすれば快の彼女になってしまったんだろうか? だが、それ以前に修と白真には立派な彼女がいるので、まずそれはないと翡翠はきちんと訂正しておいた。


「出さないよ、白ちゃんも幼馴染なんだもん」


 彼女に言わせればまさに事実である。しかし、快達のファンクラブがそれで納得するわけがない。


「ちゃん付けが馴れ馴れしいんだよ! だいたい、高校生にもなって男の子にちょっとちやほやされてるからって調子に乗ってるんじゃないわよ! だから女の子の友達がいないんじゃないの?」


 女子達の高飛車な笑い声がこだます。しかし、翡翠はグッと堪えた。自分が本気を出せば、十数人の女子ぐらい簡単に殺してしまえるからだ。何より我慢を教えてくれた快に申し訳ない。


「本当のこと言われて言い返せないでやんの! かわいそうな子だね!」

「それ、俺達を敵に回したい発言ととってもいいよな?」


 女子達の背後に仁王様も青ざめるような眼光をして快は立っていた。その登場にその場にいた全ての者達が驚く。


「快!」

「か、快君!」


 言葉を発したと同時に快は翡翠の腕を掴んで自分の方に引き寄せた。そして怒る。


「翡翠、こんなアホどもに関わってるんじゃねぇよ。それに傷付く必要もない。お前は俺達の仲間なんだ。一人じゃねぇし、女友達がいないわけでもないだろう。

 少なくとも俺のクラスの女子どもがこれを知ったらお前達生きて帰れねぇぜ?」


 その瞬間、その場は史上最低の温度が到来した。クラスメイトの女子達が、タッグを組んでやってきたからである。


「翡翠に何か用?」


 そこにいたのは紫織をはじめとする体育会系の女子達だった。全員が恐ろしい眼光でファンクラブの女子を睨んでいる。


「翡翠を連れていったって聞いたからまさかと思ったけど、こんなバカなことをやっていたなんてね。回し蹴りと踵落とし、好みの方をお見舞いしても良いけど?」


 キレた紫織は怖い。翡翠が絡むと特に怖い。幼馴染の快はそれを良く知っていた。

 さらにクラスの女子達はほとんどが体育会系である。敵に回すと命はまずないのだ。

 しかし、快はそれを気にも留めず翡翠の肩に手を回して促した。


「それじゃあ、行くとするか」


 後のことは露知らず、快は翡翠をその場から連れて行った。



 教室に戻る途中、翡翠は申し訳なさそうな表情を浮かべながらも快に礼を述べた。


「快、ありがとう」

「どういたしまして」


 少しだけ快は不機嫌だ。特に表情を見せないときは話し掛けるのも妥当ではないと翡翠は知っている。

 だが、それでも翡翠は尋ねた。


「ねぇ、快。私やっぱり馴れ馴れしいのかな? 高校生にもなって男の子にちゃん付けなんて。それにさっきの子達だって快達のファンだから私が目障りなんだよね」

「ほっときゃいいんだよ、そんな奴」

「良くないよ。みんな快達が好きだからあんなこと言ったんでしょ?」


 涙目になる翡翠に快はポンと頭の上に手を置いた。そして、優しく頭を撫でてやる。


「翡翠、お前はお前のままで良いんだよ。変わる必要なんてない」

「だけど……」


「翡翠、俺達はあいつらとは違う絆がある。それをお前が壊す必要は無い。お前はここにいて良いんだ。お前じゃなきゃダメなんだ。分かってるだろう?」


 バスターは信頼がものをいう。掃除屋という職業柄、チームメイトとの信頼関係は絶対だ。お互いの命を預けることだって少なくはないのだから。


「それによ、お前が篠原君とか色鳥君なんて言ってる方がよっぽど気持ち悪い。修は間違いなく眩暈起こして倒れるぜ?」


 想像がつくだけに快は絶対やめてもらいたいと思った。翡翠一人の言動が回りすべてを混乱させることなど、幼いころから知っている。

 事実、それが今のTEAMだがら……



 箒星学院バスタークラス。それは掃除屋を営む者達で編成されたクラスだ。

 このクラスが作られたのも、バスターではない者達の授業妨害にならないために学院側が配慮したからである。


「おっ? 翡翠、大丈夫だったか?」

「お前の彼女が出張ったんだから平気だろ」


 紫織の空手の腕前を知っているからこそ、修は逆に呼び出した女子達を哀れんでいた。手加減してはいると思うが……


「翡翠ちゃん! こっちに美味しい菓子があるからいらっしゃい!」


 文科系クラブの女子達が翡翠を呼ぶと、翡翠はパアッとした笑顔を浮かべた。


「食べる〜!」


 子犬のように翡翠は飛んでいくのを見て、修は眉間にシワを寄せてポツリと呟いた。


「あいつのどこを見れば女友達がいないってなるんだ?」

「さぁな。女子は分からん」


 むしろクラスのマスコット的存在に「友達皆無」という言葉ほど似合わないものはない。


「ただいま」

「おっ! おつかれさん、紫織」


 気分爽快、といったような晴々とした表情で戻ってきた紫織に白真が手を上げて出迎えた。


「で、一体何してきたんだ?」


 翔が興味本位で尋ねると紫織はにっこり笑って答えてくれた。


「知りたいの? 女子のドロドロな関係」

「遠慮しときます」


 翔はその笑みだけで全てを拒絶した。


「しーちゃん! お菓子食べない?」

「いただくわ!」


 バスタークラスは実に平和だった。




では、人物紹介第二回目は……


『風野 翡翠』(カゼノ ヒスイ)

天然・鈍感のふわふわした心優しき女の子。

快のことが好きだがずっと片思いしている。

男子にも女子にも愛されるクラスのマスコット的存在なのだが、恋愛方面は快が毎度邪魔しているためひどく疎くなった。

部活は合気道部、趣味は甘いもの食べつくしである。




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