第七話:嵐の前
「ええ〜〜っ!? また快ちゃん邪魔したのか!?」
「それと翡翠も本当に鈍感ね……」
一悶着あった帰り道。白真と紫織は相変わらずな友人達のやり取りにそれぞれの言葉をつむいだ。
「だろ? サッカー部の連中が一部始終を見てたらしいんだけどよ、いつも通り快が邪魔に入って翡翠を掻っ攫って行ったんだってよ」
サッカー部のメンバーからのメールを生は紫織に見せると、それぞれがいかにも可哀相だといった表情を浮かべた。
「快ちゃん……」
「はぁ……」
「可哀相に……、中松君も報われないわね……」
紫織は改めて中松に同情した。少なくとも彼女の情報では、中松が翡翠を好きになって約三年というところだ。
中学入学のころからだと思えばそれはかなり重たいものに違いない。
しかし、それを快がいつもの独占欲で水の泡にもならないほど砕かれたのだ。
「だけどよ、いくらなんでも今日当たりはさすがの快も告るんじゃねぇの?」
「それはないな」
冷静な声で修は完全に否定する。
「あいつに告る度胸も根性もあるが、翡翠にそれを理解する頭脳はない!」
「なるほど!」
三人はひどく納得するのだった。
「お〜い! みんな〜!」
「翡翠!」
噂の主はひょっこり現れる。そして、少々不機嫌な快も買い物袋片手にゆっくり歩いてきた。
「快ちゃ〜〜〜ん!」
白真は快に抱きついた。これも昔から「快ちゃん大好き!」の白真ならではの挨拶。
同い年に違いないのだが、どうも白真は子供っぽさが抜け切らないのである。真剣になるのは紫織の事のみに違いない。
「丁度よかった。これ持て、ポチ」
抱きついてきた白真を引き剥がすのも面倒だといわんばかりに、快は買い物袋を白真の手に引っ掛けた。
「それよりお前、また喧嘩しただろう。剣道部の連中から写メが届いたぞ」
そこには無惨な不良達の姿が写っている。しかし、白真はケロッとした顔で言ってのけた。
「ん? 普通だろ?」
全く悪びれた様子も見せないのは白真らしい。それだけ彼女の紫織が大切だということは、昔からの付き合いで嫌って程知らされてるので何も突っ込まない。
「あんまり面倒起こすなよ。うちもこんな奴等に構ってられるほど暇じゃねぇんだからよ」
「さすが跡取り息子だね」
自分の家の仕事内容と危険な芽を快は父親以上に見逃していない。
そうでなければ、TEAMは危険にさらされることにしかならないのだから……
家に帰れば、相変わらずお祭り騒ぎが大好きな大人達が大いに盛り上がりを見せていた。
「おかえりなさい!」
「快ちゃん! 早く来い来い!」
「急がないとお酒なくなっちゃうわよ!」
「未成年に酒ばかり勧めるな!」
やはりいつものこと。広い庭でのバーベキューは春から夏にかけて月二回は必ずやっている。
任務で参加出来ない者達もチラホラいるために二回はやるのだ。
「快、頼んでたもの買って来てくれたか?」
料理に打ち込んでいる大地は快の方を見ずに訪ねると、彼はスーパーの袋から大量の肉を出してテーブルに置いた。
「ああ、とりあえずこんだけ肉があれば少しは持つだろ」
「サンキュー。それより他の奴等は?」
快だけ帰ってきたことに少しだけ疑問に思うと、彼はあっさり答えた。
「修と翔はさっき料理長から追加を頼まれて買出しに行った。白は酒蔵から追加の酒を取りに行ってる。翡翠と紫織は花火がやりたいんだとよ」
「花火って……、いま春だろ?」
売ってるかどうかも怪しいものを翡翠はよくやりたがるのだが、彼女の性格上、お祭り騒ぎに関しては特に諦めるということを知らない。
「去年の残りでも使うんじゃねぇの? 母さんが去年大量に翡翠のために買ってたからよ」
自分の母親は、いや、TEAMの社員達は翡翠にとことん甘い! 我慢、という言葉を教えたのは間違いなく快に違いなかった。
「それよりあのお祭り馬鹿はどこにいるんだ?」
「お前、一応父親だろ……」
快の言様に大地は突っ込む。しかし、快と全く真逆の性格の持ち主にはぴったりの言葉と否定出来ないので、大地は一つ溜息を吐き出して答えた。
「後から来るってよ。なんか近いうちにでかい仕事が入りそうだって言ってたからさ」
「厄介なことにならなければいいがな」
「無理じゃねぇ? お前の親父だろ?」
大地の言葉に快は嵐の前触れを感じさせた。
とりあえず、この作品の登場人物の自己紹介をやっておきましょう!
この回は……
『篠原 快』(シノハラ カイ)
容姿端麗・成績優秀・沈着冷静・運動神経抜群の主人公。
出来ないことがこの世にあるのかと思われがちだが家事全般はほぼダメ。
ゴミ捨て以外出来ない不器用ぶり。
また翡翠や白真によく振り回されている苦労人。
部活はサッカー部、掃除屋「TEAM」では隊長を務める実力者だ。




