第四十四話:鼓動
快の部屋に行くのにこれほど気が重かったことはない。どんなに大きな喧嘩をしても、自分が悪いと思えば謝りにいっていた。それにどちらかといえば、快がすぐに折れてくれたことの方が多かったかと思う。
だが、今回はいつもとは違う。自分達が現場に着いた時には既に戦いは終わり、快は重傷だった。自分の父親が造ったものが大好きな人を傷つけたのだから……
「翡翠、そこにいるなら入ってこい」
快の部屋から声が聞こえる。いつもなら遠慮なしに入るが、今日は会う勇気がない……
「快……、私は……」
謝っても許されることではない。分かってる分だけ辛い。言葉は続かなかった。
「翡翠、お前は治療兵だろ。隊長命令は絶対だ。入れ」
そしてそっと翡翠は快の部屋に入った。快の纏う空気はけっして翡翠を責めるものではないが、ただ、顔は上げられなかった。
「快……」
一言発しただけで翡翠は泣き始めた。それに快はいつになく慌て始める。
「おい、泣くな! お前を泣かせたりしたら殺される!」
快は本気でそう言った。この「TEAM」の暗黙の掟は「女子を泣かす可からず、泣かせたものは死刑」である。
「快! 本当にごめんなさい! お父さんがあんなもの造るから皆を傷つけて……!」
ついに翡翠は泣き崩れた。ずっと思っていたことだろう。たとえ風野博士が兵器としてデビル・アイを造るつもりじゃなかったとしても結果は結果だ。多くの怪我人を出してしまったのだから……
「翡翠、本当泣くな。誰の性でもないんだよ。お前が責任を感じることもないんだ」
「だけど皆が!」
次の瞬間、快は翡翠を抱きしめた。それはさらに翡翠の涙を流させることなったが、多くの言葉はいらなかった。ただ、快は一言呟いた。
「大丈夫だ。大丈夫だからな」
二つの鼓動が少しだけ近づいていた……




