第二十一話:救援
一分経ったかも怪しいというのに、すでに五時間はその場にいた気がした。
「一体、何を要求しようと言うんだ?」
快はあくまでも冷静を装うと必死だった。隙をくれてやるわけにはいかない。一瞬の言動が仲間の命まで奪ってしまう。ピンチである時でこそ、それだけは肝に銘じておけと言われていたから……
「ほう、やはり義臣の教育は行き届いているようだ。いや、どちらかといえば夢乃に似ているか」
感心だと言わんばかりに氷堂尊氏は微笑を浮かべた。
「何、ガキに対して難しい要求はしない。風野博士、つまり翡翠、君の父親の研究データをこちらに提供してほしいだけだ。義臣が反対するなら盗んできてくれても構わん」
翡翠の父親は科学者だ。その研究内容は快達にも知らされていなかった。しかし、目の前にいるこの男が利用価値あるもの以外を欲しがることなどないだろう。
「研究内容を教えてくれないか? 科学者ならいくらでも論文を書いてるだろう?」
賭けだった。どのような反応を示すかの……
「そうだな、確かに知らなければ持ってはこれないだろう。『サイボーグ』とでも言えばわかるか?」
「サイボーグ? もう少し詳しく聞かせてくれないか?」
快はある程度の企みを理解していた。おそらく戦力の増強が狙いだろう。それこそ力を得ただけで義臣ですら手こずる代物に違いない。
「ああ、風野博士はこの掃除屋世界ではかなりの功労者でね。多くの殺戮兵器を生み出してきたんだ」
「えっ?」
翡翠にとってそれは初耳だった。自分の父親がそんなものを作っていたことなど知らなかったからだ。
「事実、私のこの左目の傷も風野博士がつけたと同じものだよ。あの兵器を義臣が使ったことで私は視力を失った」
「父さんが……?」
快はひとつ鼓動が強く打ったのを感じられた。義臣が殺戮兵器を好んで使うとは思えないが、そうせざるを得ない状況には追い込まれたことはあるのかもしれないとは思う。
「だが、やはり風野博士は甘い人物だった。戦いにおいて視力を失ったものに仮の目を作り出した。しかし、その目がただの目になるはずがなくてね、殺戮兵器としての目が出来上がったわけだ」
話が見えてこなくなった。自分の目を治すためならブラッドの科学班にでも出来たはずだ。それをわざわざ翡翠の父親の力を借りたいと何故に言うのだろう?
「その発明品の名は「デビル・アイ」。掃除屋界を滅ぼすこともできる代物だ。私はそれを手に入れたいのだ。義臣を滅ぼす力をな!」
「うっ!!」
三人はついに立てなくなった。覇気が三人の感覚を全て麻痺させたのだ。
『動けっ……!』
心の中で快は叫ぶが、指一本たりとも動かすことができない。
「さあ、これで私の話は終わりだ。もちろん引き受けてくれるだろう?」
さらなる恐怖が自分達を支配していく。このまま頷いてしまえば簡単だと分かっているのにそれが出来ない。
「どうするんだ?」
再度たずねられたその時、
「もちろん答えは決まってる」
屋根の上から二つの影が降りてきた。
「あっ!」
救援が駆けつけてきたのだ。
「『NO』だ! 兵藤尊氏っ!」
息子の氷堂仁と智子だった。




