第十九話:津波
「がはっ!」
「翔!」
ブラッドの幹部数十人に囲まれていた修と翔は、自分達の力全てを使い切っていた。修の時空魔法で逃げ切りたかったが、それをさせない速さが目前の敵の特技らしい。
「おいおい、もうくたばったのか?TEAMのガキだったらもう少し位楽しませてくれよ」
首根っこを筋肉質の男に持ち上げられたが、翔は反抗した目を決して崩さなかった。
それを見て、卑下された笑いが二人の空間に立ち込める。
手を出してはいけない、そんなことは分かっていた。子供ながらにも「ブラッド」の名は脅威の存在だと知っていたから。
だがそんなことより、翡翠が無事なことだけを願っていた。だからこそ、最後まで反抗したかったのである。命乞いをして死ぬことだけはしたくなかった。
「可愛そうなことしてやるなよ。一思いに殺してやりな」
「殺し屋の癖して母性本能でも働いてるのか?」
さらにこの空間は笑いに包まれる。
「やるならやれよ。こっちはプロのバスターとしての誇りがあるんだ。てめぇらみたいなカスに情けなんか掛けられても嬉かねぇんだよ!」
血の混ざった唾を翔は男の顔に吐く。その態度に周りは笑い出すが、首根っこをつかんでいた男は激怒した!
「クソガキがぁ!!」
手に鋭い刃が召喚される。水を滴らせているあたりこの男は「水」を扱う剣士なんだと理解できた。
「そんなに死にたければ今すぐ楽にしてやる!」
「やらせるか!」
修は男に全力で体当たりした! そしてその体勢が崩れたところで翔も男の顔に蹴りを一発入れる!
「すまない、修」
「礼は後だ。とにかくここから逃げることを考えろ。援軍なんて絶対来ないんだからよ!」
「そのようだな」
男は立ち上がる。そして二人は最悪の光景を見た。男が召喚した剣に水がまるで生き物かのようにうごめいてる。
「俺も遊びには疲れた。後二人侵入者もいたようだしな。そいつらに期待するとしよう……」
そして切っ先をスッと二人に向ける。
「終わりだ」
「うわあああ!!!」
二人は真正面からその攻撃を受けた! 流れ出る大量の血が彼らの死を物語っていた……
だが、本当の悪夢はここから始まったのだ。
「幻術はこの程度でいいか?」
「なっ!」
そこには水でずぶ濡れになった二人を抱えている男がいた。
「うちの息子達が随分と世話になったな、猿柿さんよ」
二人を殺したはずだった男は自分の名前を呼ばれ青ざめる。それは周りにいた幹部達もだ。
「と、と……時枝脩三!!」
「何だって!!」
そこにいたのは黒ずくめの格好をした時枝警視総監こと、時枝脩三が立っていた。
「水が好きなようだな」
にやりと笑ったその顔はとても普段は温厚な父親だとは思えない。それに畏怖を覚えた者達はガタガタと震え始めた。
「命だけは……!!」
「そうだな。だが……」
大量の水がこの空間に召喚される。そして、それは津波のようなうねりを上げて幹部達に襲い掛かった!
「この空間から消えろ……!」
断末魔の声は一瞬、幹部達は津波に飲まれたのである……




