三銃士
間奏になり、乃菊は、四人の後ろに回って、みんなの踊りを見ている。
「うっ!」
乃菊は、急に吐き気を感じた。
「中部の舞い星」と言う番組に出演して、曲を披露している最中だった。
「頑張らなくっちゃ・・・」
みおんやジュリアの背中がぼやけて見える。
「やだ、どうしたんだろう・・・?」
そう考えながらも、自分の担当のソロパートが来て、何とか歌いだした乃菊。
「のぎちゃん・・・」
みおんは、乃菊の様子がおかしいのに気づいた。
「ありがとうございました!」
全員で挨拶をして、スタジオの観覧者たちに手を振り、スタジオ内から退場する。
「ちょっと、先に行く!」
乃菊が走って行く。
「のぎちゃん!」
亜美がついて行こうとすると、みおんが引き止める。
「私が行くから、みんなは、楽屋に戻っていて」
そう言って、みおんが乃菊の後を追う。
「ううっ!」
トイレの中で、乃菊がお腹を押さえ、横の壁にもたれかかって座っている。
「のぎちゃん、大丈夫?」
みおんが、扉を叩いて聞く。
「何でもないよ」
乃菊は、何事もなかったように、中から出て来た。
「でも、苦しそうだったよ」
洗面台のところへ行き、鏡を見る乃菊。そして、すぐに目を閉じる。
「みおん・・・」
乃菊は、振り向くとみおんに抱きつく。
「のぎちゃん、どうしたの?身体が震えてるよ・・・」
確かに、乃菊の身体は、異常に震えながらみおんを抱いている。
「必ず、助けるから・・・」
「のぎちゃん・・・」
乃菊は、今の自分の身体の異常が、不吉な出来事の予知であると考えていた。
「楽屋に行こう・・・」
乃菊は、みおんの手を握って歩きだす。
「誰もいないんだ・・・」
乃菊とみおんが楽屋に帰ると、中にメンバーの姿がなかった。
「座ろう・・・」
みおんは、椅子を引いて、乃菊を座らせる。
「ありがとう・・・」
みおんは、テーブルを挟んで反対側の椅子に座る。
「ねえ、本当に大丈夫?」
「何ともないよ、心配しないで・・・」
向かい合って話をする、乃菊とみおん。
「私、羽流希さんと結婚したい。でも、この仕事をしてる以上、簡単には出来ないでしょ。だから、いろいろと葛藤があって、辛いんだ、今・・・」
乃菊に心情を吐露するみおん。
「そうなんだ、みおんも辛いんだ・・・」
乃菊には、みおんの田沢に対する気持ちが、手に取るようにわかっている。
自分が多少なりとも、みおんの悪縁を切ることに関わっているから、結ばれることを望んでいる。
「そうだ、のぎちゃんの方こそ、国也さんと結婚したいんじゃないの?」
みおんは、乃菊が4才の時から、国也のことを思っていることを知っていたから、以前から二人が結ばれるものだと思っていた。
「うん・・・、実は、結婚しようって、言ってくれたんだ」
「やったじゃない!」
みおんが笑顔で祝福してくれる。
「でも、おじさんは、一般人だから、当然迷惑かけちゃうし、みおんの言う通り、自分が思ってるより、アイドルって、自分の自由にならないものだって、痛感している最中なの・・・」
みおんも頷く。
「三人にも迷惑かけちゃうしね・・・」
乃菊は、亜美や、ジュリア、真阿子のことも気にかけている。
「ヤッホー!ジュリアだよ」
ジュリアが、ロッカーの陰から現れる。
「いたんだ、ジュリア」
乃菊もみおんも驚く。
「結婚しちゃいなよ。世間には知られないように、ホントの内輪だけでしちゃえばいいんだよ」
ジュリアが、みおんの肩に手をやり、乃菊を見て言う。
「聞いてたんだ。でも、ジュリアがそんなこと言ってくれるなんて、うれしいよ・・・」
ガガガ・・・。椅子を二人の顔が見れる、テーブルの端に置いて座るジュリア。
「菊野ちゃんも、みおんも、ずっと我慢して来たんだから、もしも知られたって、ファンだって許してくれるよ。いつかは、バレルか、発表するかだと思うけど、それまでは、誰にも邪魔されずに、静かに一緒に暮らせばいいじゃん!苦労するかもしれないけど、それくらい耐えていけるだけのパートナーでしょ、二人とも・・・」
熱弁するジュリアは、そう言いながら、二人の手を握る。
「ジュリア・・・」
乃菊とみおんは、ジュリアの手を握り返す。
「そうだよ、結婚しちゃいなさいよ」
真阿子も、衣裳掛けの後ろから現れた。
「のぎちゃん、結婚してもいいよ」
亜美まで、姿見の後ろから顔を出す。
「私たちが準備してあげるから、田沢さんとおじさんをその気にさせなさい」
ジュリアと真阿子、そして亜美が並んで立つ。
ここに、結婚準備三銃士が揃った・・・。