亜美が・・・
乃菊と国也が、仕事を終え、作業場から母屋へ帰って来た。
「お疲れさま。お茶を用意しておいたから、座ってて」
雲江が、二人をソファに座るように言う。
「ありがとう雲ネエ。今日は、頑張り過ぎたから、身体に甘いものが足りなくなったみたい」
乃菊は、キッチンの雲江の横へ行き、お茶菓子の存在を確認する。
「ちゃんとありますよ。最中だよ」
雲江も乃菊の性格は、すっかり把握済みだ。
「じゃあ、座ってます」
そう言って、国也の横へ座る乃菊。
「どうぞ」
テーブルにお茶とお茶菓子を置き、二人の反対側に座る雲江。
「乃菊ちゃん、疲れてたら、無理しなくていいんだよ。国也の働きは悪いけど、私が居るから」
お茶を飲みながら、雲江が言う。
「ちゃんと、働いてるだろ!」
いつもの調子で、雲江と国也のやり取りがある。
「大丈夫です。今まで通り、大人少女23も、ここの仕事も、若女将として頑張ります!」
乃菊も、いつもの調子で返す。
「みんなとの絆も深まったようだし、とにかく明るく楽しく過ごそう」
国也が乃菊の手を取って言う。
「お前に言われなくても、私と乃菊ちゃんは、明るく楽しく過ごしてるよ」
雲江の話に、乃菊は、湯のみを持って移動し、雲江の横に座る。
「そうですよ、国也様。私たちが明るく楽しく過ごすためには、国也様の働きが大事になるんですよ」
雲江に便乗する乃菊。
「また二人でタッグを組むなんて、いつもこっちが悪者なんだよな」
そう言って、一人寂しそうにする国也。
「国也様は、国也様で頑張っていますよね。だから安心してついて行ってるんですよ」
今度は、国也の横に戻り、国也の手を握る乃菊。
「あらら、乃菊ちゃんは、どっちの味方なの?」
雲江が乃菊の変わり身の早さに、乃菊の最中を掴み取る。
「あっ、私は、いつでも雲ネエの味方です!」
そう言って両手を出し、雲江から最中を返してもらう乃菊。
「食べ終わったら、食事の支度の続きをするから、二人でお風呂に入りなさい」
雲江が、残りの最中を口に入れる。
「はーい!」
乃菊が元気に返事をする。
「あら、本当に二人で入るの?」
雲江がお茶を飲み干して言う。
「あ、その、一緒にではなく、その・・・」
顔を赤くして、答えに困る乃菊。
「いいから、先に入って来なさい」
国也に言われて、一気に口に最中とお茶を流し込み、着替えを取りに二階へ行く乃菊。
「国也、乃菊ちゃんが無理しないように、気を付けてあげてね」
雲江が国也に言う。
「わかってるよ。乃菊は、家の大事な宝だからね」
国也だけは、ゆっくりとお茶を飲んでいる。
「ジュリアちゃん、何か必要なものある?」
今日も亜美が、ジュリアの病室へやって来ていた。
「もうすぐ退院だから、大丈夫だよ」
ジュリアは、ベッドの上に座って、ファッション雑誌を読んでいた。
「それより、もう遅いから、帰っていいよ」
ジュリアは、亜美の方が心配だった。
「加納さんに、電話するから大丈夫です。ジュリアちゃんは、自分の身体のこと考えていてください」
すっかり、面倒見の良い同僚になっている亜美である。
「じゃあ、帰りますから、欲しいものがあったら、電話くださいね。用意してきますから」
花も差し替え、満足すると、亜美は、帰り支度をした。
「気を付けてね」
手を振るジュリア。
「はーい」
笑顔で出て行く亜美。それを見送るジュリアは、胸騒ぎがして、亜美の後姿を見ることが出来なかった。
「みおんちゃん、亜美が一人で帰ったから、事務所に居るなら、社長と一緒に送ってくれるかなあ」
病院から事務所が近くだったから、ジュリアは、すぐにみおんに電話をした。
「もしもし加納さん、今病院を出た所。えっ、あと十分くらい?じゃあ、角のコンビニで待ってます」
仕事に区切りがついた加納が、迎えに来てくれるようだった。
「加納さんに、ジュースでも買ってあげよう!」
亜美は、小走りにコンビニへ向かう。
「きゃっ!」
コンビニの目の前に来た時だった。急に現れた男に、口を塞がれ抱えられた亜美。
「ううっ、ううっ!」
そのまま暗い通りの奥へ連れて行かれた。
バタッ!
袋小路のビルの壁の前に、投げ飛ばされるように倒された亜美。
「何するんですか!?」
男のようであるが、目だし帽を被っていて、誰なのかわからない。
「これが、分かるか?」
壁に背中をつけ、腰を落としている亜美の目に、薄暗い外灯でも、男が持っているのが、ナイフだとわかった。
「大声出しますっ、うっ!」
ズッ。口を押えられた亜美の腹に、ナイフが刺さった。
「お前の死体を見て、乃菊が泣き叫ぶのが、楽しみだ・・・」
男が言った。
「の、のぎちゃんに、何かするつもりですか!?」
亜美は、痛みを堪えて、目的を追求する。
「怒り狂うあの女と、最後の闘いをするのさ。お前は、そのための生贄だ!」
男は、亜美の顔の前で、血のついたナイフをかざす。
「のぎちゃんに、手出しさせないんだから!」
お腹を押さえ、壁に背中をつけたまま、立ち上がる亜美。
「好きにしろ、生きていればな」
ズッ!
「嫌あああああっ!」
亜美のネックレスが光った。
「な、何だ!?」
強い光に、後ずさりする男。
「何をしてる!」
自転車に乗った警官がやって来た。
ドンッ!
男が、警官を突き飛ばして逃げた。
「待てっ!」
追おうとした警官だが、倒れている亜美に気づき、駆け寄る。
「大丈夫か、君!」
ワンピースが血に染まっている亜美を抱える警官。
「亜美ちゃん!」
ジュリアが、病院着のままやって来た。
「亜美ちゃん!」
警官に抱えられているのが、亜美だと気づき、駆け寄るジュリア。
「知り合いか?」
警官が聞く。
「はい!」
ジュリアが警官を押しのけて、亜美を抱える。
「救急車呼んでください!」
ジュリアが叫ぶ。
「あ、今すぐ呼ぶから!」
慌てて連絡をする警官。
「ジュリアちゃん、怪我人なのに、出歩いちゃ、駄目でしょ・・・」
自分も怪我をしているのに、ジュリアの心配をする亜美。
「何を言ってるの!、こんな目に遭って!話さなくていいから、救急車が来るまで待ってて!」
ジュリアは、涙を流していた。
「のぎちゃんも、みんなも、私が、守る、か、ら・・・」
そう言って、動かなくなった亜美。
「亜美ちゃん!早く、救急車を早く!」
ジュリアは、必死で亜美の傷口を押さえ、出血を止めようとした。
「嫌あああああっ!」
乃菊は、悪夢で目が覚めた。
「どうした?」
国也も目を覚まし、乃菊を見た。
「亜美ちゃんが・・・」
乃菊は、正夢でないことを祈った・・・。




