もう一人の大蛇
霧の侍は、剣を鞘に戻す。
「申し訳ない。あんな者に操られてしまうとは」
霧の侍は、乃菊に頭を下げる。
「いいんです。でも今は、あなたの考えるような世の中ではありません。戻って静かに眠ってください」
乃菊は、霧の侍にも物怖じしないで言う。
「お前は、変わった女だ」
霧の侍は、そう言って下がる。
「のぎちゃん、大丈夫?」
亜美がやって来た。
「私は大丈夫、みおんとジュリアは?」
みおんとジュリアもやって来た。
「ジュリアが怪我してるの、病院へ連れて行かないと」
ジュリアがみおんに支えられている。
「大変、早くいかなきゃ」
乃菊もジュリアを支える。
「お前たちは、私を欺いた報いを受けてもらう」
霧の侍は、座り込んでいる久美と志穂に、切っ先を向ける。
「ごめんなさい。もう人を呪ったりしません!許してください!」
二人は、手を合わせて頭を下げる。
「待ってください。私たちの前で人を殺めてはいけません」
国也が止める。
「私からもお願いします。この人たちは、ダルビーさんのファンなんです。私を恨んだだけで、本当は、悪い人たちじゃないと思います」
ジュリアの言葉だった。
「お前を殺させようとした、この者たちを助けようと言うのか?」
ジュリアは頷く。
「お前たちは、みんな変わっている」
霧の侍は、また剣を収めた。
「そんな時代なんです」
乃菊が言う。
「では、この世の中の悪人退治は、お前に任そう。私の出る幕ではなさそうだ」
霧の侍は、そう言って霧の中へ入って行く。
「お前に助けが欲しければ、呼ぶがいい。いつでも参上する」
霧の侍は、乃菊を見て笑う。そして霧の中へ消える。
「司馬田さん、出番ですよ!」
加納が、司馬田の背中を押す。
「な、何をすればいいんだ。今のは、いったい何だったんだ!」
司馬田が頭を掻き毟る。
「とりあえず、その二人を連れて行きましょう」
加納が司馬田を突いて、二人を車に向かわせる。
「亜美ちゃんは、みんなと戻ってくれるかな。司馬田さんには、説明しておくから。でも、わかんないだろうな・・・」
そう言って、加納も司馬田と車に向かった。
「みんな、大丈夫!」
入れ替わりに、真亜子がやって来た。
「もう、終わりましたよ。一件落着です」
亜美が言う。
「あ、最上さん、お久しぶりです。どうして真亜子ちゃんと?」
国也が、真亜子の後ろからやって来た最上に聞く。
「あ、久しぶりに乃菊ちゃんに会いたくなって事務所に行ったら、真亜子ちゃんがここへ連れてってくれって言うもんだから」
最上は、嘘の説明をする。
「じゃあ、みおんとジュリアを、国也様の車で病院に連れて行くから、最上さん、亜美ちゃんを乗せて来てください」
乃菊がそう言って、みんなは車へ戻って行く。
「最上さん、あなたは、もしかして大蛇を操る方ですか?」
国也が最上の所へやって来て、耳元で聞く。
「そんなわけないじゃないですか。いったい、あの場所で何があったんですか?」
最上は惚ける。
「そうですか、じゃあ、いいです」
国也も、あの時の大蛇の煙が気になっていた。
「真亜子じゃないよね、あの大蛇。そんなわけないよね」
乃菊が真亜子の所へやって来て聞く。
「何のこと?大蛇って、何なの?もしかして、そんなのが出て来たの?」
真亜子も惚けている。
「そうよね。私みたいなの、他にいないものね・・・」
乃菊は、一人でぶつぶつ言いながら歩く。
「ジュリア、大丈夫なのかなあ?」
真亜子がそう言うと、思い出したように、乃菊はジュリアの所へ行った。
「ジュリアちゃん、大丈夫かなあ?」
病院のロビーで、亜美がウロウロしている。
「きっと大丈夫よ。彼女はグループで一番逞しいじゃない」
真亜子が言う。
「そうよ、落ち着いて座ってなさい」
みおんが言うと、亜美もソファーに座った。
「社長が来たわ」
田沢とマネージャーの二葉がやって来て、みおんが田沢の所へ向かう。
「国也様、私がみんなといると、みんなが危険な目に遭っちゃうよね」
乃菊が思い悩んでいるようだった。
「一緒にいなければ、守ることも出来ないよ。偶然出会ったとしても、そこには何らかの縁があるものだよ。乃菊がいることで、みんなの悪縁を切り、幸せな縁を結ぶんだから」
国也は、乃菊の肩を抱く。
「国也さん!」
ダルビーがやって来た。ちょうど名古屋公演の準備で、自宅へ来ていたところを、国也が知らせたのだった。
「ジュリアちゃんは、大丈夫なんですか?」
動揺している様子のダルビーを見て、乃菊と国也は、二人のためにも、役に立ちたいと思った。




