逆恨みの連鎖
数日後、体調の良くなった乃菊を連れ、国也は岐阜の山村へ向かった。
「こんなところまで来るなんて、そんなに恨みに思ってるのかなあ」
車を停めて、森まで歩く乃菊と国也。
「人間は、そう思いだすと、どんどんその思いが大きくなってしまうんだろうな」
国也は、乃菊の様子を見ながら、墓へ案内する。
「ここだよ」
案内された場所を眺める乃菊。そこには、ただ乗せただけの石積みがあったり、多少墓石に見えるものも並んでいる。その中に、少し大きな台石に、小さな石とともに、焼け焦げた紙のかけらが散らばっている墓があった。
「こうやって、みおんやジュリアを殺してほしいって、拝んだんだよね。悲しいな、本当に悪い人もいるんだろうけど、罪もない人が殺されていたとしたら、許されることじゃない」
乃菊は、墓の前で腰を下ろし、手を合わせる。
「お侍さん、もう出てこないでください。もし誰か仇を打ちたい人がいたら、私が何とかします・・・」
とんでもない願い事だが、乃菊は、あの霧の侍と、闘うことを避けたいのだ。
「羽琉樹さん、片付けが終わったので、お弁当買ってから事務所に行きます」
そう言って、電話を切るみおん。身支度をして家を出た。
「さあ、今日も頑張るぞ!」
マンションを出て、みおんは大きく背伸びする。
「何処で買って行こうかな・・・」
駅までの道のりに、何軒かコンビニがある。田沢の好みと自分の食べたいものを考えながら、店も選ぶのだ。
「すみません。駅はどちらへ向かえばいいですか?」
しばらく歩くと、後ろから声をかけられた。
「えあ、駅は・・・」
みおんが振り向こうとすると、急に後ろからハンカチの様なもので、口を押えられた。
「う、むぐ・・・」
抵抗しようとするが、しだいに意識がなくなっていく。
「さあ、開けて!」
体格のいい女が、みおんを抱きかかえるように、道路脇に止まっていた車の後部座席に乗り込む。
「早く、出して!」
眼鏡をかけた女は、後部座席のドアを閉めると、運転席に乗り込み、車を発進させた。
「あら、ジュリアちゃんじゃないの?」
家を出て、事務所へ向かっていたジュリアは、道路脇で、車に寄り掛かって電話をしていた女に、声をかけられた。
「あ、あの、どちら様でしょうか?」
ジュリアにとっては、見たことのない顔だった。
「あ、そうね。あなたは知らないと思うけど、私は、田沢さんと仕事してたことがあるのよ」
あのみおんを狙っていた、志野田遊里だ。
「そうなんですか。じゃ、テレビ局の方ですか?」
ジュリアは、怪しくも思わず聞いた。
「今は、そうじゃないのよ。だけど、あなたにちょっと用事があって・・・」
遊里は、携帯をポケットに入れ、ジュリアに近づく。
「何でしょうか?」
そう聞いたジュリアに、手が届くところまで遊里が寄ってくる。
「うっ!」
ジュリアは、痛みでお腹を押さえる。
「何するんですか!」
ジュリアの目の先には、ナイフを持った遊里の手が、自分のお腹に触っている。すなわちナイフが刺さっているのだ。
「ちょっと用事があるって言ったでしょ」
腰を落としそうになったジュリアを、無理矢理腕を掴んで、車の後部座席に放り込み、運転席に乗り込む遊里。
「痛い、病院に連れてってください」
ジュリアは、起き上がれず逃げることもできない。
「何言ってるのよ。人を刺しておいて、病院に連れて行くわけないでしょ。大丈夫よ、それくらいの傷なら、すぐには死なないよ。て言うか、死んでもらっちゃ困るからね」
遊里は、人を刺しても平然と話しをする。
「ど、どうしてこんなことを・・・」
痛みに耐えながら、ジュリアは訳を聞く。
「あの女を始末するための、人質なんだよ、お前は!」
遊里はルームミラーで、ジュリアを確認しながら運転する。
「あの女・・・」
ジュリアは、意識がなくなりそうな状況で考える。
「いつも邪魔する、あの女だよ!」
遊里は、スピードを上げる。
「こっちへおいで」
国也が乃菊を呼び、気になるもう一つの墓を見せる。
「ここに、亜美ちゃんの名前が残っていた石があったんだ」
乃菊は腰を下ろし、何かを感じるか目を閉じてみる。
「亜美ちゃんにも、何か危険が迫っているような気がしてるんだ」
国也がそう言っている間に、昼間だというのに辺りが暗くなってきた。
「どうしたんだ?」
周りを見回すと黒い煙が漂っている。しかも、それを辿って行くと、今乃菊の目の前にある墓から出ている。
「うううっ」
乃菊の身体が震えている。
「大丈夫か?」
国也も警戒する。
「何かが、私に乗り移ろうとしてる」
乃菊が両手に力を籠めると、乃菊の身体から、大蛇の形をした煙が現れ、乃菊を囲むように回っている。
「退散!」
国也も、勾玉と石のペンダントをかざして、黒い煙に向ける。
「はあ・・・」
黒い煙が消え去り、乃菊は尻もちをつき、国也に支えられる。
「何か悪い予感がする」
乃菊は、再び具合が悪くなる。
「とりあえず、帰って休もう」
国也は、歩けそうもない乃菊を負ぶって、車へ向かった。
「道のりが長いから、途中で亜美ちゃんにでも電話すればいい」
乃菊を背負いながら、国也が言う。
「うん・・・」
乃菊は、一先ず安心して眠り始めた。国也は車へ着くと、乃菊を助手席に寝かせ、運転席に回った。
「行くからね」
乃菊の返事はなかった。




