浮気?
「菊野ちゃん、出てこーい!」
国也に抱えられて車から降りて来たジュリアが、玄関先で叫ぶ。
「まあまあ、元気がいいこと」
雲江が出迎えた。
「酔っぱらってるんだよ」
国也は、雲江に手伝ってもらう。
「国也、ここ・・・」
雲江は、国也の頬を指さす。
「ジュリア、いらっしゃい」
玄関を入ると、乃菊が待っていた。
「国也様、ご苦労、様、でした・・・」
乃菊は、国也の顔を見て、言葉が詰まった。
「さあ、上がって」
とにかく、ジュリアを居間に連れて行く。
「雲ネエ、とりあえずジュリアに水でも飲ませてください。国也様、ちょっと・・・」
ジュリアをソファに座らせると、乃菊と国也は、二階へ上がった。
「ジュリアちゃんにも、参っちゃったな」
国也も、乃菊以外で、酔っ払いの相手をするのは初めてだった。
「ちょっと待って・・・」
乃菊は、鏡台から手鏡を持って来て、国也に渡す。
「何?」
国也は、何のことだか分らなかったが、とりあえず自分の顔を見てみる。
「あ、これは・・・」
乃菊の顔を見ると、頬っぺたを膨らませている。
「あ、いや、これは、助けた後ジュリアちゃんが、泣き出して、その、ありがとうって・・・」
何だか、しどろもどろの言い訳をする国也。
「浮気した?」
乃菊の目が、鋭く国也を睨む。
「何を言ってるんだよ、そんなことするために行ったんじゃないだろ」
国也は、当然否定する。
「じゃ、キスして」
乃菊が言う。
「どうして?」
国也は戸惑う。
「いいから」
そう言われて、国也は乃菊にキスをする。
「ヨシ、唇は奪われてないな」
一人で納得する乃菊。
「信用してないのかい?」
国也はガックリである。
「そりゃ、国也様だって男だし、それなりにいい男だからね」
乃菊は、腕を組みながら言う。
「そりゃないよ・・・」
国也は、ベッドに腰掛ける。
「そんなことより、かなり腕の立つお侍さんだね」
乃菊は、話を変える。それが本題だったから・・・。
「うん、危なかったよ。だけど、君の言う通り、彼はそんなに悪い人間、あ、幽霊?まあいいや、悪い人ではないようだね」
国也も、少しは人を見る目がある。
「おそらく、あのお侍さん、ダルビーさんのファンが呼んだんだと思う。ジュリアはそのファンのことで悩んで、一人でお酒なんか飲んでたのよ」
最近の流れでは、そう予測できるだろう。
「とにかく、無事でよかったよ」
国也は、とりあえずホッとする。
・・・何に?
「そうね、とりあえずジュリアの相談に乗らなきゃ、縁結びの神様!」
乃菊は、皮肉っぽく言う。
「ごめんなさい・・・」
乃菊と国也が居間へ戻ると、ソファでジュリアが小さくなって謝った。
「私は、朝早いからもう寝るからね」
雲江は気を利かして、自分の部屋へ引っ込んだ。
「まだ頭が痛いかい?」
国也は、向かい側に座って聞いた。
「もう、大丈夫です。実は、車に乗る前から覚めてました」
ジュリアは、また小さくなる。
「いいのよ、気にしないで。私たちは、ジュリアが無事だったことだけで嬉しいの」
ジュリアの隣に座った乃菊は、肩を撫でるように抱く。
「だけど、あの人は何なの?菊野ちゃんも、おじさんも知ってる人なの?」
ジュリアは、自分に起こった出来事が、現実なのか夢なのか区別がつかない様子だ。
「あ、そうだ、首を怪我してたよ」
国也は、思い出したように話を変える。
「え、大変。救急箱!」
乃菊はそう言いながら、ジュリアの首を見る。
「すぐ取ってくるよ」
国也は、急いで救急箱を取りに行く。
「菊野ちゃん、おじさんは悪くないからね。私が動揺してたから、つい・・・」
ジュリアは、おそらく雲江から、国也の頬にキスマークがついていたことを聞いたのだろう。
「わかってるよ、そんなこと気にしなくていいよ。とにかく無事でよかった」
乃菊は、ジュリアを抱きしめる。
「ところで、ダルビーさんとは、上手く行ってないの?」
乃菊は、本題に入る。
「私なんて、ダルビーさんと付き合う資格なんてないのよ・・・」
ジュリアは、淋しそうに話し出す。
「私よりずっと前から、ダルビーさんのファンになってる人は、そうよ、いっぱいいるの。私なんて、たまたま仕事が一緒になって、ファンだって伝えたばかりなんだ。だからもっと相応しい人が他にいると思う・・・」
本心ではない、ジュリアの悲しい本心である。
「ジュリア、あなたがなぜ資格がないの?好きなら好きだって言うことを、自分に正直に生きなきゃ。ダルビーさんは、ジュリアを選んでくれてるんだよ。ファンはファン、恋人は恋人。それを区別してあなたを選んだの、だから何も気兼ねすることなんかないのよ」
乃菊は、二人をちゃんと見ていたのだ。
「でも、ファンの人たちから非難されたら、ダルビーさんに迷惑が・・・」
ジュリアの気兼ねは、ここにある。
「本当にファンなら、ダルビー君の気持ちを大事にするはずだよ」
救急箱を乃菊に渡し、第三者として考えを言う国也。
「そうだよ、ジュリアなら許してくれるよ、ダルビーさんのファンなら・・・」
乃菊は、ジュリアの首の傷を手当しながら言う。
「もしそうじゃないファンがいたとしても、乃菊がダルビー君から縁を切ってくれるよ」
国也が乃菊を持ち上げる。
「そして、国也さんがダルビーさんとジュリアの縁を結ぶ。で、ハッピーエンドだよ、ジュリア」
乃菊は、ジュリアを抱きしめる。
「私たちを信じて。ジュリアに悲しい思いはさせない」
乃菊は、そう決心した。
「のぎちゃん、て、呼んでいい?」
ジュリアが言い出す。
「うん、いいよ」
乃菊が答える。
「二人は、いったい、何なんですか?」
乃菊を抱きしめながら、ジュリアが聞く。
「ジュリアの友達だよ」
「そうだよ」
乃菊と国也は、そう答えた・・・。




