霧の中の迷い子・・・その2
キーン!刀と刀が当たる。
「やめるんだ!」
クロスした刀は、ジュリアの身体から離れ、その刀を持った二人が向き合う。
「お主は誰だ!」
霧の侍が力を入れたまま聞く。
「あなたが斬った乃菊の夫です」
光る刀を持っているのは、国也だった。
「お主たちは、なぜ私の邪魔をする?」
霧の侍は、乃菊と国也を只者ではないと認識したのだ。
「あなたのしてることが間違っているからです」
国也は、乃菊と同じように、この侍が悪霊だとは思えなかった。
「何を!」
霧の侍は国也を押し、離れて構える。
「私は、弱き者の敵討ちをしているのだ」
そう言って、斬りかかる侍。国也は、その刀を払い横に抜けて振り下ろす。それを鍔で受ける侍。
「その弱き者が、間違っているんです!」
国也は、上から押し込む。
「うわっ!」
霧の侍が力を抜いて横に動くと、国也は、勢い余って転んでしまう。
「それまでだな。なかなかの腕前だが・・・」
転んだ国也に、切っ先を突きつける霧の侍。
「おじさん!」
ジュリアが、国也の横に来て、侍を睨む。
「殺すのは、私でしょ」
そのまま国也の前に出るジュリア。
「あっ!」
二人と霧の侍の間を、煙の渦が通り過ぎる。
「何だこれは!」
渦を巻く煙の中は、携帯電話が回転している。
「わかってください、あなたは間違ってます」
携帯電話がしゃべる。当然、霧の侍は驚く。
「黙れ、悪霊!」
霧の侍は、携帯電話を切ろうとするが、煙の渦の中の携帯電話は、飛び回った後、国也の手元に落ちる。
「話を聞いてください。この子は、あなたの依頼主が言ってるような悪人なんかではないんです」
国也は、携帯を拾って立ち上がり、霧の侍と向き合う。もう刀は持っておらず、手に持っているのは、勾玉と石のペンダントだった。
「この子も、みおんちゃんも、人を傷つけるような人間ではありません。今回の依頼は、逆恨みによるものだと、私も妻も思っています。あなたの時代でも不条理なことが多くあったでしょうが、今の世の中でも、個人の望みが叶わないと、人を恨んで陥れようとすることが、当たり前にまかり通っています。その中で、あなたも敵討ち、仇討ちをして世直ししようと考えているのではないですか?だったら、もっと本当の人の心を見抜い頂かないと、あなた自身が不条理なことをしていることになってしまいます」
霧の侍は、じっと国也の話を聞いていた。
「ジュリアちゃん、間違った説明してないよね」
国也は、座っているジュリアに尋ねる。
「難しくてよくわからないけど、おじさんにしては、いいこと言ってるみたい」
ジュリアは、空飛ぶ携帯電話を見て、頭の中は、それどころではなかった。
「もう良い」
霧の侍は、刀を鞘に納める。
「確かに、その女の顔は悪人には見えない。今日の所は、このまま去ろう。しかしお主たちの言葉が間違っていれば、もう一度現れるだろう」
霧の侍は、そう言って霧の中へ消えて行った。
霧は、もうすっかり晴れていた。
「ありがとう、大丈夫だったよ。今からジュリアちゃんを連れて帰るから」
国也は、繋がっていた携帯電話の相手である乃菊に、現状報告する。
「・・・」
ジュリアは、まだ放心状態だった。
「ジュリアちゃん、乃菊の所へ行こう」
国也は手を出し、ジュリアを立たせる。
「おじさん、私、頭がおかしいかな?」
ジュリアは、立ち上がると、向き合った国也に聞く。
「酔っぱらってるだけでしょ」
国也はそう言うが、もうよっぽど酔いは、冷めているはずだ。
「あ、血が出てるじゃないか」
少しではあるが、ジュリアの首に切り傷がある。
「えっ?」
ジュリアは、首を触ってみる。やはり手に血が付いていた。
「うわあーん!死ぬかと思ったああ・・・」
ジュリアは、思い出したように泣き出し、国也に胸にくっ付く。
「もう大丈夫だよ」
国也は肩を抱き、安心させる。
「おじさん、ありがとう!」
ジュリアは泣きながら、国也の頬にキスをする。
「えっ」
国也は、呆然とする。
「あっ」
ジュリアも自分のしたことに気づく。
「うちに行くよ」
二人は気まずくなり、離れて歩く。
「さあ乗って」
国也は、後部座席のドアを開けて、ジュリアを乗せた。
「ああ、頭が痛い。早く行ってください」
ジュリアは、後部座席で横になる。
「は、はい」
国也はすぐに車を発車させる。
「頭痛い、気持ち悪い・・・」
本当だろうか・・・。




