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ラーメンの味

数日後、ジュリアは、事務所にやって来て、乃菊を待っていた。

「おはようございます」

乃菊が、元気よく挨拶をして、事務所に入って来た。

「おはようございます。乃菊ちゃん、応接室でジュリアが待ってるよ」

マネージャーの二葉政菜が、書類の整理をしながら言う。

「はい。ところで政菜さんは、今日現場に来るんですか?」

乃菊が聞く。

「ごめん。これからみるくちゃんのオーディションに同行なの」

政菜が答える。

「じゃあ、現場解散でもいいわね・・・」

乃菊は、手帳にメモをしながら、応接室へ向かう。

「いいんだけど、無理しないで早く帰りなさいよ」

政菜も、乃菊の心配をしてくれる。

「わかりました」

乃菊は、そう言って応接室へ入る。

「おはようございます!」

入れ違いに亜美が、やはり元気に入って来た。

「のぎちゃんは?」

事務所を見回し、乃菊を捜す。

「おはようございます。入ってくるなり、のぎちゃんは?ですか、来てますよ」

毎回のことだが、亜美はすぐに乃菊を捜す。政菜も呆れているのだ。

「どこです?」

見えないので聞く。

「応接室」

政菜も、一言で済ませる。

「わかりました・・・」

と言いながらも、急に声が小さくなる。

「のぎ・・・」

亜美は、応接室の扉を静かに開けようとしたが、途中で止める。


「菊野ちゃん、この前のこと聞いてもいい?」

応接室のソファに並んで座っている、乃菊とジュリア。ジュリアは、乃菊の手を取って聞く。

「この前って?」

乃菊は、惚ける

「彼女たちを投げ飛ばしたのは、菊野ちゃんなの?」

ジュリアはかなり動揺していて、あの日の帰りに聞くことが出来なかったのだ。

「見た通りだよ」

簡単に答える乃菊。

「見た通りなら、菊野ちゃんはスーパーマンでしょ。そうじゃなくて、どうやって・・・」

何を聞いているのか、聞きたいのか、ジュリアもわからなくなってきた。

「とにかく、ジュリアが無事だったから、私はそれでいいの」

乃菊は、ジュリアの手を握り返す。

「あんなスーパーマンなのに、怪我ばかりしてるじゃない。私のために怪我してほしくないの」

ジュリアの気持ちだ。

「だけど、ほっとけないのが、私の性分なの」

本当に、乃菊の性分なのだ。

「菊野ちゃん、私の知らないことがあるんだよね・・・」

いつも笑顔でメンバーと接する乃菊だが、事故に遭ったり、事件に巻き込まれたりを繰り返しているし、ジュリアにとっては謎が多かった。そして今、自分に及んでいる危険を知っているかのように現れている。

「私のために怪我しないでね・・・」

ジュリアには珍しく、しんみりとしている。

「大丈夫ですよ。のぎちゃんは、不死身だから。私のスーパーマンなんだから」

急に亜美が入って来て、ジュリアに言う。

「亜美ちゃん、おはよう」

乃菊は、ジュリアを立たせる。

「今から、亜美ちゃんとロケなんだ」

知っていると思ったが、あえて話を変えるために言った。

「行ってらっしゃい・・・」

ジュリアは、応接室を出て行く乃菊を見送った。


「お疲れさまでした」

乃菊は、番組スタッフに挨拶をして、ロケ現場から一先ずロケバスへ向かった。

「お疲れ様です」

亜美も挨拶を済ませ、乃菊を追いかける。

「のぎちゃん、ラーメン食べに行こ!」

亜美は乃菊に言った。

「ラーメンかあ・・・」

考えるふりをする乃菊。

「嫌いですか?」

亜美は残念そうに聞く。

「亜美ちゃんは好きなの?」

乃菊が逆に聞いてみた。

「私の家族はラーメン屋さんに行かないから、憧れがあるんだ」

お嬢様育ちの亜美らしい答えである。

「じゃあ、ラーメン屋さんへ行こう」

乃菊がロケバスへ乗って、荷物の整理をする。

「わーい、のぎちゃんとラーメン屋さん・・・」

鼻歌を歌いながら、亜美も同じ行動をする。

「何処にしましょうか?」

当然、亜美にラーメン屋の知識などない。

「乃菊ちゃん、国道沿いの店で良かったですね」

ロケバスの運転手が、乃菊に聞いた。

「はい、帰りはタクシーで駅まで行きますから」

乃菊は、ロケ後の予定を計画していたのだった。

「出発します」

スタッフも揃い、ロケバスは出発した。10分もかからず国道へ出て、しばらく走ると道路沿いに数件の店が並んでいる場所があった。

「ここでいいですね」

運転手が聞く。

「はい」

ロケバスが停まる。

「お疲れさまでした」

挨拶をして、乃菊と亜美はロケバスを降り、すぐにロケバスは去って行った。

「あそこだよ」

降りたところの数軒先に、乃菊の目的のラーメン屋があった。

「嬉しいな・・・、楽しいな・・・」

亜美は、やはり鼻歌を歌いながらついて行く。

「入ろうか・・・」

乃菊は店の前で、帽子もサングラスもとって入ろうとする。

「のぎちゃん、誰かに気づかれちゃうよ・・・」

亜美は、有名人としての自覚がある。

「いいの・・・」

乃菊は、そのまま入って行く。店に入るとお昼の時間が過ぎていたので空いていた。

「あっ!」

乃菊に気づいた店員が、声を出そうとしたので、乃菊は人差し指を口に当て、手を振ったので、店員も黙った。

「のぎちゃん、この店知ってたの?」

亜美は聞いてみた。

「あ、亜美ちゃんと行こうと思って、調べておいたんだ」

乃菊は嘘を言う。

「ふーん」

亜美も乃菊と、それなりに付き合いが長くなったので、用意周到でここへ連れてこられたことに、何かの理由があるのではないかと思う。

「いらっしゃいませ。ご注文は?」

店員が水を持って、乃菊たちが座ったテーブルに来た。

「バターラーメン、お願いします」

乃菊はそう言って、店員にウインクする。

「私もバターラーメン!」

また同じものを頼む亜美。

「他のでもいいよ」

乃菊が言う。

「いえ、バターラーメン。最初から決めてたんです」

嘘である。

「バターラーメン二つ!」

店員が、調理場の店長に向かって言う。

「可愛いお嬢様に、バターラーメン二つですね!」

乃菊は、思わず笑う。

「変な店長さんですね」

亜美は、そう思ったのだ。

「ほら、芸能人が来てるんだこの店」

亜美が、壁のメニューの横に、何枚か色紙が貼ってあるのに気づいた。

「サインなんて、なんて書いてあるのかわからないから、誰なのかわからないよね」

亜美は、覗き込むようにサインを見ている。

「ああ、あの番組で来てるんだ。それと、ん、あれ・・・」

何かに気づいた亜美が、急に席を立ち、色紙の貼ってある壁の前へ行く。

「ああっ!のぎちゃんじゃない!」

亜美が大きな声を上げる。

「誰と来たのよ、のぎちゃん。私に内緒で来たんでしょ、もお!」

怒っている亜美。

「あれっ?」

色紙の隅に、もう一人の名前が書いてあった。

「いつ来たんですか?」

亜美は席に戻り、国也の名前が書いてあったので、今度は小さな声で聞く。

「いつだったかな・・・?あ、日にち書いてなかった?」

乃菊は、たまたま今回の職人さんのロケで、思い出の場所の近くまで来たので、最初から帰りに寄ろうと思っていたのだ。

「お待ちどう様、可愛いお嬢さん」

カウンターにラーメンが並べられ、店員がそれを乃菊たちのテーブルに持ってきた。

「あ、それじゃあ、店員さんも知ってたんだ。て言うことは、店長さんも・・・」

亜美がカウンターの向こうにいる店長を見ると、笑顔でこっちを見ている。

「いいから、食べなさい」

乃菊は、この店のラーメンの味が忘れられなかったのかもしれない・・・。










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