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真阿子と事務所で

東京から帰って数日、乃菊は休養をもらい、今日も朝からベッドの上だった。

「事務所へ行ってくるから、大人しく寝てるんだよ。何かあったら、母さんを呼ぶんだよ」

乃菊の保護者である国也は、乃菊のスケジュールの相談で、田沢と会う予定になっている。

「大丈夫です。小学生じゃないんだから、自分のことは自分で出来ますう・・・」

枕を抱いて、ゴロゴロしながら話をする乃菊。

「何か持っていこうかなあ・・・」

国也は、手土産を気にしている。

「お仕事いっぱい入れてもらってね」

乃菊は、枕を抱きながら、ストレッチをする。

「みんなお菓子がいいよね」

近所の和菓子屋へ、先に寄って行こうと思う国也。

「みんなに、乃菊ちゃんは元気だって言ってね」

疲れてダイノジになる乃菊。

「仕事はできる限り、少なくしとくよ」

珍しくネクタイをする国也。

「お菓子なんて、子供じゃないんだから、ビールにしなさいよ」

そう言いながら、乃菊は国也の着替えを覗く。

「お歳暮じゃないんだから・・・」

かみ合っていないようで、かみ合っていそうな二人の会話である。

「じゃ、行ってくるからね」

ベッドに近寄る国也。

「雲ネエのお手伝いしようかな。国也様がいないと、忙しいでしょ」

乃菊は横になりながら、ベッドの横に腰を下ろした国也に言う。

「大丈夫だよ、パートさんを雇ったんだから。大人しく寝てなさい」

乃菊のオデコを指でつつく国也。

「早く帰って来てね」

乃菊は唇を突き出す。

「わかりました」

国也は、その唇にキスをする。

「行って来ます」

そう言って立ち上がり、部屋を出る国也。

振り返ると、乃菊は電池の切れたおもちゃのように、身動きせずに寝ていた。


「こんにちは・・・」

そう言って、国也は事務所の扉を開けた。

「あ、おじさん!」

椅子を引いて声をかけたのは、パソコンを見ていた真阿子だった。

「真亜子先輩のおじさんですか?」

そう聞いたのは、隣に座って資料を見ていた、十代だと思われる女の子だった。

「違うよ。乃菊ちゃんが住み込みで働いていたところの、社長?専務?」

真阿子は、国也の顔を見る。

「肩書なんてないよ。これみんなで食べて」

国也は、和菓子の入った紙袋を渡す。

「ありがとうございます。この子は、うちの新人だよ」

隣の新人は立ち上がる。

「小間宮みるくです。よろしくお願いします」

深々と頭を下げた後も、みるくは、国也の顔を食い入るように見る。

「田沢さん、いる?乃菊のスケジュールの相談に来たんだ」

国也が、真阿子に聞く。

「聞いてるけど、今ラジオ宙京に行ってます。でも、もうすぐ帰ってくると思いますよ」

真阿子は、しっかりしている。

「あ、そうだ。今、下で映画監督をしてる同級生に会ったんだ。でもね、彼はホラー系の映画が多くて、苦手だからほとんど見てないんだ・・・」

頭をかきながら話す国也。

「お知り合いだったんですか、じゃあ、相談に乗ってもらおうかな」

真阿子は、腕を組みながら考えて言う。

「相談?」

国也が聞くと、真阿子が頷く。

「応接室で待っててください。お茶、用意しますから」

そう言って、真阿子は、国也を応接室へ押し込む。

「私がお茶入れますよ」

みるくが寄ってきて言う。

「そう、じゃあお願いするわ」

真阿子は、机から資料の入った封筒を取る。

「真亜子先輩、あの人、乃菊先輩の何なんですか?」

みるくは、当然事情も知らず、小声で聞いてきた。

「うーん、専属のマネージャーみたいなものね」

上手く答えた真亜子。

「へえ・・・」

みるくは、それでも納得できないようだが、給湯室へ向かった。

「乃菊ちゃんは、どうですか?」

応接室へ入って来た真阿子は、さっそく乃菊の様子を聞く。

「やっぱり疲れてるみたいで、毎日、半日は寝てるよ」

その通りである。

「そうだよね。あまり無理させないでね」

真阿子も、やはり心配していた。

「でも、当人はじっとしていられない性質だからね。無理しちゃうんじゃないかと、気が気じゃないよ」

国也が、そう言うのも無理はないと、真亜子は思う。

「優しい旦那様は、大変ですね」

そう言って真亜子は笑う。

「失礼します」

ノックをして、みるくが入って来た。

「どうぞ、おじさま。真亜子先輩も・・・」

みるくは、テーブルに湯のみを置きながら、国也の顔を覗き込む。

「ありがとう・・・」

そう言いながらも、おじさまって言うのは、ちょっと違うんじゃないかと、言いたい国也であった。

「で、相談って、何?」

みるくが出て行くのを確認して、国也が切り出した。

「あ、そうだ、私、あの監督さんから、映画のオファーがあったの」

国也の同級生の、あのホラー系の監督である。

「そうなんだ、良かったじゃない!」

仕事が入るのは良いことである。当然、国也も喜んだが、少し考えてみた・・・。

「もしかして、ホラー映画?」

嫌な予感がしながらも、とりあえず確認する国也。

「うん、ホラー。準主役みたいな役なの」

喜んでいいのか悪いのか、戸惑う国也だが、祝福すべきことだろうと思う。

「良かったじゃない」

そう言ったが、真亜子は、そんなに嬉しそうでない。

「実はね、最後は殺されちゃう役なの」

準主役だから、そういうケースはありうる。

「そうなんだ。真亜子ちゃんが殺されるシーンなんて見たくないなあ・・・」

複雑な心境である。

「殺されちゃうのは、いいんだけど・・・。お風呂場でなんだ・・・」

お風呂場?まさか・・・。

「お風呂場でって・・・?」

聞いてみた。

「そうなの、裸で殺されちゃうの」

真阿子が顔を赤くする。

「駄目だよ!断りなよ。アイドル歌手が裸なんて、絶対駄目だ!いや、僕があいつに言って、そんなシーンはカットさせるよ。そ、それに、田沢さんがそんな仕事許すわけがないだろ・・・」

国也には珍しく、興奮して矢継ぎ早に言葉を発する。

「社長の了承は得てるんだって・・・」

下を向く真亜子。

「何考えてるんだ、田沢さんは!」

さらに興奮しだした国也。

「今から話してあげるよ。そんなことさせちゃいけないって・・・」

国也は、拳を握って立ち上がる。

「ごめんなさい」

真阿子が、国也の腕を掴む。

「嘘です。お風呂場の話も、裸で死ぬってことも・・・。

国也は呆然とする。

「え、嘘なの。どっきりカメラ?」

テレビではないから、そんなはずもない。国也は腰を下ろす。

「本当にごめんなさい。国也さんが、こんなに怒るなんて思わなかったから・・・」

真阿子は、国也の腕を掴んだまま謝る。

「ホラーはいいとして、裸は無理だよね。真亜子ちゃん、いい演技だったよ・・・」

国也は、まんまと騙された自分が、情けなかった。

「でも、国也さんがそんなに怒ってくれるなんて、何だか嬉しい・・・」

さっきから真亜子は、国也さん、と言っているのに気づく。

「あれ、おじさんじゃなくて、国也さんになってるよ・・・」

そう言ってみたが、何だかドキドキしているのを感じる国也。

「映画なんて初めてだから、最初に、国也さんに聞いてもらいたかったんだ」

笑顔で言う真阿子だが、また、国也さん、になってると思う国也。

「まあ、とにかく頑張りなさい」

とりあえず応援しようと思う。

「はい、頑張ります。ホラーでも見てくださいね、裸のシーンもあるかもしれないし」

また笑顔で言う真阿子。

「またそんなことを言う。真亜子ちゃんの裸なんか見たら、こうして会えなくなっちゃうよ」

生真面目な国也らしい、返答である。

「どうしてですか?」

そんなことを聞く、国也の心の声である。

「どうしてって・・・」

答えられない国也。

「乃菊ちゃんの裸を見てるでしょ。私のだって一緒だよ、みせてあげようか」

平然と言う真阿子。

「何を言い出すんだよ。あっ」

携帯電話が鳴った。救いの神である。

「あ、はい、そっちへ行きます」

田沢からだった。

「ごめん、もう行かなきゃ。外で話すって・・・」

見え透いた言い訳である。

「残念だけど、また今度、相談しますね」

また笑顔を見せる真亜子。それを見て、すぐに国也は立ち上がる。

「乃菊ちゃんによろしく」

そう言って立ち上がった真亜子の顔を見て、国也は呆然とする。

「の・・・」

国也は途中で言葉を止め、頭を振る。

「何ですか?」

真阿子がまた笑顔で聞く。

「あ、いや、何でもないよ・・・」

国也は、急いで応接室を出て行く。背中に真亜子の視線を感じながら・・・。


髪型は違うが、真亜子の顔が、乃菊に見えてしまったのだ・・・。











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