一人のジュリア
「お帰り!」
改札を抜けると、そこには国也がいた。
「ただいまあ」
乃菊は、すぐに国也の所へ行く。
「亜美ちゃん、お帰り」
加納もいた。
「どうして加納さんがいるの?」
亜美は嬉しかったが、みんなの手前、そっけない素振りをする。
「先輩、あ、お父さんに頼まれて来たんだ」
本当はそんな理由ではないが、それを知るのは、国也のみである。
「じゃあ、今日は、行って帰ってのスケジュールだったれど、無事東京での初仕事を終えられました。みんなのおかげです。これからも忙しくなると思いますが、頑張っていきましょう。とにかく、今日は遅くなってしまったので、ここで解散して家でゆっくり休んでください。
広い通路の真ん中で、大人少女23一行は、解散することになった。
「それじゃあ、二葉さん、真阿子と一緒にタクシー乗って、送り届けてくれるかな」
真阿子は、同じ方向へ帰る、マネージャーの二葉政菜と駅前のタクシー乗り場へ向かった。
「お疲れ様」
手を振る真阿子に、乃菊たちも手を振る。
「田沢さん、ジュリアちゃんを送ってください」
高速に乗ろうと思っている国也は、一人のジュリアを田沢に頼む。
「私は、一人で大丈夫です」
ジュリアは、遠慮する。
「駄目だよ、もう遅いから送ってもらいなさい」
心配な国也は、無理矢理ジュリアを田沢たちに預ける。
「僕たちも行きますので・・・」
加納は、亜美の荷物を持って歩き出す。
「のぎちゃん、みおんちゃん、ジュリアちゃん、おやすみなさい。社長もおじさんも」
亜美は、元気に手を振り、加納について行く。
「それじゃ気を付けて、みんなおやすみ」
国也も、乃菊の荷物を持って歩き始める。
「のぎちゃん、ゆっくり休みなさいよ」
みおんは、乃菊の手を握り、送り出す。
「おやすみ」
ジュリアは、小さく手を振る。
こうして一行は、解散した。
「社長、私、寄りたいところがあるので、ここで失礼します」
三人がタクシー乗り場まで来ると、ジュリアがそんなことを言い出す。
「駄目だよ、国也さんにちゃんと送るように頼まれたんだから」
当然田沢も、ジュリアを一人で行かせるわけにもいかない。
「何処に行きたいの?私たちも一緒に行くよ」
みおんも心配する。
「大丈夫だよ。それに私と一緒じゃ、遠回りになっちゃうでしょ」
そう言ってジュリアは、先にタクシーへ乗り込んでしまう。
「お疲れ様です」
ジュリアは、窓を開けて挨拶をする。
「じゃあ、気を付けて行くんだぞ。家に着いたらメールしなさい」
田沢は、念を押す。
「みおん、じゃあね」
手を振るジュリアを、不安そうに見送るみおん。
「大丈夫だよね・・・」
そう田沢に確認するが、みおんが見上げる田沢の顔も、不安げである。
国也と乃菊は、駐車場へ向かっていた。
「泊りでもいいんじゃないかな。強行日程で疲れちゃったなあ・・・」
荷物を持って前を歩く国也の後ろで、聞こえるように独り言を言う乃菊。
「たまには、ラブホテルでもいいかも・・・」
そこだけは小さな声で言う。
「そんなとこ行かないよ。疲れてるんだから、急いで帰るよ」
国也にしてみれば、乃菊の身体を心配をしているから、そんな話には乗ってこない。
「つまんない人。そんなんじゃ、若い奥さんに飽きられちゃうよ」
乃菊は、国也の横へ行って腕をつつく。
「乃菊は、飽きちゃうんだ。まあ仕方ないかな・・・」
国也は、そう言って進む。
「ねえ、飽きたりしませんから。国也様ったら・・・」
乃菊は諦め、国也を追いかける。
「どうした?どこか痛いのかい?」
駐車場で車に荷物を載せていた国也は、胸を押さえて立っている乃菊に気づいた。
「違うの。何か嫌な予感がして、胸が苦しくなったの」
そんな光景を、以前にも見たことがある国也は、急いで乃菊を助手席に乗せる。
「大丈夫かい?」
国也が聞くが、乃菊は目を閉じたままだ。
「そんなに遠くじゃない。行ったことがあると込みたい」
乃菊がそう言うと、国也はすぐに車を出した。
ジュリアを乗せたタクシーは、駅からそう遠くない裏通りを走っていた。
「そこで降ろしてください」
タクシーが停まり、ジュリアは支払いをして降りた。
「誰もいないな・・・」
通りは静かだった。ジュリアは急ぎ足になり、目的の場所を目指した。
「あっ・・・」
目的地へ着いたジュリアだったが、落胆の表情をして立ち止まる。
「こんなに遅いから、閉まってて当然よね・・・」
そう言って腰を下ろすジュリア。そこは、ダルビーの母の店、居酒屋みずえだった。
「星が奇麗だ・・・」
座って眺める空には、星がキラキラと輝いている。
「あれ・・・?」
ジュリアが通りの西側を見ると、妙な霧が立ち込めていた。そしてその霧は、しだいに近づいてくる。
「こんな時期に珍しいわね・・・」
興味を示したジュリアは、その霧の方へ向かってしまう。
「行っちゃ駄目!」
ジュリアの背中の方から、呼び止める声がした。
「菊野ちゃん!」
振り返ると、その声の主は、乃菊だった。
「どうしてここにいるの?」
ジュリアの所まで来た乃菊は、そう聞くジュリアの手を握り、反対方向へ連れて行く。
「あの霧の中に入っちゃ絶対駄目。もし、これからもそんなことがあったら、すぐに知らせて」
乃菊は、歩きながらジュリアに話をする。
「あ、おじさん・・・」
すぐに車が見え、そこには国也がいた。
「送っていくから、乗りなさい」
そう言って、ジュリアと乃菊を後部座席に乗せる。
「ねえ、どうしてここにいるってわかったの?」
ジュリアは、不思議でたまらないのだ。
「ジュリアのことだから、夜遊びするんじゃないかと、後をつけて来たの」
乃菊は、ジュリアにもわかるような嘘をつく。
「住所は?」
国也は、ジュリアの家の住所を聞き、ナビで検索する。
「疲れただろうから、すぐに帰ろう」
そう言って、国也は車を走らせる。
「あの霧は、何なの?」
ジュリアには、どれもこれもわけがわからず聞いてきたが、乃菊はそれには答えず、ずっとジュリアの手を握っていた。
そして車が去ったあの通りには、もう霧は跡形もなく消えていた。
ジュリアを家まで送り届けた乃菊と国也は、何事もなく一安心した。
「ああ、疲れちゃった。どこかで休んでいきたいなあ・・・」
また乃菊のわがままが始まる。
「飽きてもいいよ」
国也には、そんなことを聞き入れる気は更々ない。
「ホントに飽きちゃってもいいの?」
まだ諦めない乃菊。
「1時間もすれば、家で休めるだろ」
国也は聞く耳を持たない。
「ああ、もう倦怠期だなあ・・・」
さらに続ける乃菊。
「じゃあ、帰ったら一人で寝なさい」
国也は、怒ったふりをする。
「ごめんなさい。飽きたりしない、ずっと愛します!」
乃菊は、手を擦って謝る。
「国也様あああ・・・」
車が赤信号で停まる。国也は、乃菊の顎を捕まえて、そっとキスをする。
「着いたら起こすから、少し寝なさい」
乃菊は、一瞬にして大人しくなった。
「居眠り運転しないでね」
乃菊は、シートを少し倒す。
「油断しないようにするよ・・・」
勿論、居眠りもそうだが、国也は、これから起こりうる出来事にも備える気持ちで答えた。




