歌アワー20時
出番を待つ乃菊たちが、スタジオのセット裏に待機していた。
「こんばんは、歌アワー20時です。さて今日のゲストは・・・」
司会の津森が、番組のスタートとを告げ、セットの扉からゲストが登場する。
「派手な衣装とパワフルな演奏がが注目の、キャウォルのみなさんです」
アシスタントの局アナ、舞島遥がゲストを紹介する。
「名古屋で人気急上昇、初登場の大人少女23のみなさんです」
何組か後に、乃菊たちも紹介され、並んで登場した。
「最後は、今日話題の新曲を初披露する、ブルーバーンのみなさんです」
ダルビーたちがしんがりで登場し、津森と舞島を中心に、出演者たちが勢ぞろいした。
番組は進み、最後の二組となり、先にトーク席へ大人少女23のメンバーが並び、その後ろにブルーバーンのメンバーが座った。
「続いて、大人少女23、ブルーバーンのみなさんです」
アシスタントの舞島が、乃菊たちを紹介する。
「初登場の大人少女23のみんなには、自己紹介をしてもらおうかな」
津森からトークのバトンを渡され、隣にいたみおんから、自己紹介を始める。
「名古屋から来ました、大人少女23のリーダー、皆賀みおんです。初めての出演ですが、精一杯歌いますので、よろしくお願いします」
マイクを持ちながら、何とか最初の紹介を終えたみおん。手を横に差し出し、隣の真阿子に繋ぐ。
「鈴木真阿子です。緊張してますが、頑張ります」
いつも落ち着いた感のある真阿子も、緊張気味に話した。
「左島ジュリアです。よろしくお願いします・・・」
ジュリアは、気にしているダルビーの姿が視界に入り、続く言葉を失ってしまう。
「緊張してるんだね」
津森が言葉を入れる。
「あ、はい、緊張してます」
そう言って、ジュリアは下を向き、亜美をつつく。
「はい、今堂亜美です。津森さんに会えて、とっても嬉しいです!ファンなので、あとでサインください・・・」
ジュリアの分まで、元気に自己紹介しようとした亜美、つい余分なことまで言ってしまい、周りから笑いが起こる。
「私のファンですか、サインあげましょう」
調子に乗る津森。
「あ、すみませんでした。今日は、仕事でした・・」
また余計なことを言ってしまい、津森の苦笑いを見て、顔を赤くする亜美。
「で、最後は・・・」
津森が乃菊の顔を見る。
「菊野乃菊です。みんな同い年です」
乃菊が簡単に自己紹介して締めくくる。
「へえ、みんな同じ年なんだ。大人っぽい子もいれば、子供っぽい子もいますよねえ」
津森が、手に持った資料を見ながら話す。
「実は、それがグループ名の由来みたいなもので、結成当時、みんな23歳で、大人の魅力と子供の愛くるしさを併せ持つというコンセプトで、大人少女23なんです」
ここは、打ち合わせ通り、真阿子が説明した。
「じゃあ、リーダー、東京進出の意気込みは?」
津森が、隣のみおんに聞く。
「あ、はい。私たちは、名古屋で生まれたグループですが、地元で応援してくれてるファンにも、そして、初めて私たちを知る全国の皆さんにも、元気な姿で歌う私たちを見てもらいたいと思っています」
緊張しながらも、みおんが一生懸命意気込みを伝えた。
「真面目に答えてくれてありがとう。それにしても、名古屋にもこんなに奇麗で可愛い娘さんたちがいるんですねえ」
津森が、改めてメンバーの容姿を見ながら言う。
「名古屋にだってかわいい子はたくさんいますよ。私は、名古屋出身じゃないけど・・・」
名古屋いじりをした津森に、乃菊がつい噛みついてしまった。
「乃菊ちゃんだったよね、じゃ、出身は何処なの?」
乃菊は、余計なことを言うと、さらに名古屋いじりをされるんじゃないかと思った。
「日本です」
周りから笑いが起こる。
「じゃあ、乃菊ちゃんは、日本人だね」
津森に軽くあしらわれた乃菊。我慢して横を向く。
「ところで菊野さんは、大怪我をされたそうですが、もう大丈夫なんですか?」
舞島が話題を変えた。
「はい、大丈夫です」
言葉短めに答える乃菊。
「そういえばダルビー君。この子たちと、合コンをしたという情報があるんだけど・・・」
ダルビーもブルーバーンのメンバーも、急に話を振られて動揺する。
「合コンなんてしてないです!」
みおんが、あわてて否定する。
「ジュリアちゃん、そうなの?」
津森は、大人しくしているジュリアに聞く。
「え、合コン、なんて・・・」
ジュリアは、平常心ではなかった。
「津森さん、勘弁してくださいよ。合コンなんかじゃなくて、一緒のライブの後、名古屋の後輩と打ち上げをしただけすよ」
ダルビーが事実を伝える。他のメンバーも頷いた。
「そうなのかい、面白くないねえ」
津森はそう言いながら笑う。
「それでは、大人少女23のみなさんから、曲を披露していただきますので、スタンバイお願いします。先ほどもお話ししましたが、菊野さんは、怪我の後と言うことで、椅子に座ってのパフォーマンスとなります」
舞島の進行で、乃菊たちは移動する。
「なんであの女が、私たちのダルビーさんと一緒に出るのよ」
体格のいい女が、缶ビールを口にしながら言う。
「そのうち天罰が下るわよ。私たちが何年追っかけやってると思ってるのよ、あんな女に横取りされるなんて、絶対許せないんだから・・・」
ソファで横になり、テレビを見ながらさきいかをつまむ、眼鏡の女。
「今度、彼の前をうろついてたら、ただじゃおかないわよ」
空いた缶を握りつぶす、体格のいい女。
生放送が終わり、東京発進出を終えた大人少女23の一行は、早速、最終の新幹線に乗り込んでいた。
「私たち、全国区になっちゃったのかなあ」
亜美が笑顔で言う。
「まだだよ。これから何度も呼ばれなきゃ、東京へ行っただけってことでしょ」
ジュリアは、浮かれていない。
「でも、放送局の外にファンの人がいたじゃない、少しだけど・・・」
その光景を、思い浮かべながら言う亜美。
「まだ、調子に乗っちゃいけないよ」
やっぱり慎重なジュリア、いつもと違う。
「ところで、どうして帰りも、のぎちゃんの横じゃないんですか!」
思い出したように、立ち上がって悔しがる亜美。
「私が横じゃ不満なの?」
いつものジュリアだ。
「いえ、光栄です・・・」
亜美は、座ってお菓子を食べ始める。
「のぎちゃん、疲れてない?」
真阿子は、隣でウトウトしだした乃菊を見て、自分のジャンパーを乃菊の膝に掛ける。
「うん、ちょっとね。真亜子先生は、私の身体の調子がわかるみたいね」
乃菊は、ジャンパーの中に手を入れる。
「そりゃあ、乃菊ちゃんのことは、私なりにグループに入ってから、ずっと見てたんだから・・・」
実際真阿子は、他のメンバーほど乃菊との交流はなかったが、ことあるごとに、気を配ってくれていた。
乃菊にとっても、真阿子の存在は、不思議と身近に感じていたのだった。
「なのに私は、怪我ばかりで、いつもみんなに迷惑かけてるね・・・」
乃菊はうなだれる。
「迷惑なんて、誰も思ってないよ。乃菊ちゃんの存在があるだけで、みんな幸せなんだよ」
真阿子は、そう言って、ジャンバーの下の乃菊の手を握る。
「肩、使っていいよ・・・」
真阿子は、乃菊の頭を自分の肩に寄せる。
「ごめんね・・・」
乃菊は、真阿子の肩に頭を乗せ、目を閉じる。
「いいんだよ、乃菊ちゃんは、みんなを守るために一緒にいてくれてるんだから・・・」
真阿子は、目を閉じている乃菊の顔を眺めながら、心の中で呟く。
「何か言った?」
乃菊は、目を閉じたまま聞く。
「何も言ってないよ。いいから着くまで寝てなさい」
真阿子は、乃菊の頭を優しく撫でる。
「何だかお姉ちゃんみたい・・・」
一人っ子の乃菊は、姉妹のような暖かさを感じているようだった。
「乃菊ちゃんの方が、誕生日早かったでしょ」
目を閉じたまま微笑む乃菊。ジャンバーの下の真阿子の手を両手で握り、その温かさを深く感じる。
「そうだったかなあ・・・」
そのまま眠りにつく乃菊。
新幹線は、乃菊たち大人少女23の一行を乗せ、国也たちの待つ名古屋へと走った。




