東京進出
みおんの自宅に泊まった乃菊は、早朝、みおんと田沢と一緒に名古屋駅へ向かった。
「マネージャー、みんな揃ってる?」
駅に着いた田沢が、マネージャーの二葉政菜に尋ねた。
「亜美さんとジュリアさんが売店に行ってますが、もう来ると思います」
そう言っている間に、紙袋を持った二人がやって来た。
「おはようございます!」
二人同時に挨拶する。
「じゃあ行こうか」
田沢を先頭に、改札へ向かう大人少女23のメンバー一同。
「迷子にならないでよ」
みおんが言う。まるで小学生の遠足のようだ。
「8号車ですから、間違えないでくださいね」
ホームで待つ間に、政菜が引率の先生のように指導する。
「政菜ちゃん、行きの座席は決まってる?」
亜美が聞く。
「はい、渡した切符がそうです」
亜美は、自分の切符を見て、隣にいた真阿子の切符も確認する。
「さあ乗るよ・・・」
ホームにやって来た新幹線に、メンバーと田沢、そして二葉政菜が乗り込む。
「菊野ちゃんは、東京は行ったことあるの?」
乃菊の隣に座ったのは、ジュリアだった。
「子供の頃、東京の近くに住んでたから、何度か行ったことあるよ。ジュリアは?」
乃菊は、手に持っていたコンビニの袋から、買って来たお菓子を取り出す。
「修学旅行以来かな、あ、ありがとう」
そう答えたジュリアに、乃菊はお菓子を渡す。
「修学旅行か・・・」
乃菊には、つらい修学旅行の思い出がある。すぐに切り替え、別の話をする。
「出演する番組って、全国放送だよね?」
普段、決まった番組しか見ないので、乃菊は、今回出演する歌番組を知らないのだ。
「当然でしょ。私毎週見てるから、自分が出るなんて信じられない」
ジュリアには珍しく、すでに緊張しているようだ。
「だったら、化粧いっぱいしないといけないね。私だってバレちゃうから」
乃菊がとんちんかんなことを言い出す。
「あれ、菊野ちゃん、誰かに追われてるの?」
そう聞いてきたジュリアを、乃菊は引き寄せる。
「実はそうなの。もう10年もバレないように生活してきたの」
小声で乃菊は言う。
「じゃあ、私が守ってあげるね」
ジュリアも小声で付き合う。
「ありがとうジュリア、大好きだよ」
手を握り合う二人。
「何よ!のぎちゃんは、私が守るんだから!」
後ろの席で、二人の話を、耳をそばだてて聞いていた亜美が、身を乗り出して言ってきた。
「出たな亜美ちゃん!菊野ちゃんは、絶対渡さないぞ!」
覗き込む亜美に、ジュリアがキツイ一言。
「こっちのセリフよ!」
亜美も対抗する。
「亜美ちゃん、座りなさい。二人で漫才してるだけじゃない」
真阿子が、亜美の肩を掴んで座らせる。
「わ、私も、二人に付き合っただけだもん・・・。帰りは、絶対私がのぎちゃんの隣に座るんだから・・・」
亜美は、ふてくされながら真亜子がくれたお菓子を食べる。
「私とじゃ嫌なの?」
真阿子も亜美に絡む。
「いえ、真亜子さんも大好きです・・・」
亜美は、自分のお菓子を真亜子に渡す。
大人少女23一行は昼過ぎ、東京にある中央関東テレビ本社ビルの前に立った。
「凄いわね」
その高いビルを見上げて、真亜子が言った。一同頷く。
「津森さんに会えるんですね」
亜美が喜んで言う。亜美は番組司会者、津森のファンなのだ。
「大御所だからね。パッシーさんとは格が違うから、失礼がないようにしなきゃね」
みおんが正直なことを言う。どこかでパッシーがくしゃみをしていそうだ。
「パッシーさんより有名なの?つ、も、りさんて方・・・」
乃菊は、番組どころか、芸能人もほとんど知らないのだ。
「とにかく入るぞ。今日は、みんなの東京デビューだ」
独立して芸能事務所を起こした田沢も、今回は初の大仕事だった。
「わあああ・・・、ホントに来ちゃったんだあ・・・」
真阿子とみおんが、人気番組のポスターやスターの写真を見て、東京のテレビ局に入ったことを実感する。
「あの、ブルーバーンさんも出演するんですよね」
ジュリアが、田沢の横へ行って聞く。
「一緒だよ。嬉しいのかい?」
田沢がジュリアを探る。
「い、いえ、そんなことじゃなく、久し、ぶり、だなって・・・」
顔を赤くして、離れていくジュリア。田沢は、普段大人ぶっているジュリアたちも、やはり女の子なんだと、様子を見て感じた。
「のぎちゃん、無理しないでね。まだ全快じゃないんだから」
みおんが、後ろにいた乃菊に気を遣う。
「大丈夫だよ。それに、私には歌う時、椅子がセッティングされるって、言ってたじゃない」
乃菊は、笑顔で答える。
「でも、無理しないでね」
あらためて、念を押すみおん。
「ありがとう」
乃菊は、みおんの隣に行き、みおんの頬にキスをする。
「心配しなくて、大丈夫だよ」
乃菊は、また後ろを歩く。
「ずるいよ、のぎちゃん!」
二人の様子を見ていた亜美が、乃菊の所へやって来て、腕をつかむ。
「私だって、心配してるんだから・・・」
そう言って、亜美はふくれる。
「ありがとう、亜美ちゃん」
乃菊は、亜美の頬にもキスをする。
「やったあ!」
亜美が、飛び跳ねて喜ぶ。
「こらこら、誰かに見られたらスキャンダルだぞ」
真阿子が、二人を注意する。
「楽屋に言ったら、私にもお願い・・・」
真阿子が、小声で乃菊に言う。
その夜、大人少女23の出演する、全国放送の歌番組が始まろうとしていた。




