呪いの墓?
数日後、乃菊の復帰後初仕事が決まった。
「国也様、東京のテレビに出るよ」
駅からタクシーで帰って来た乃菊は、作業場の扉を開け、勢いよく入って来た。
「えっ?」
そこには、国也も雲江もいない。
「どこかへ行ったのかしら?夜まで仕事してるって言ったのに・・・」
母屋も灯りが点いていない。
「用事があるならちゃんと言ってよね・・・」
べそを掻きそうな顔をしながら、母屋の玄関に入り、居間の扉を開けた。
「おめでとう!」
灯りが点いて、テーブルにケーキや料理が並んでいた。国也が乃菊の肩を抱き、テーブルに向かわせる。ソファには雲江が座っている。
「驚いたかな?」
国也は、呆気にとられている乃菊をソファに座らせた。
「・・・」
声も出ず、座ったままの乃菊。
「乃菊ちゃんの仕事復帰と、東京進出を祝うために用意したんだけど、驚かせ過ぎちゃったかな」
雲江がそう言うと、涙が出そうになる乃菊。
「ううん、ありがとう、嬉しいです」
その言葉にホッとする国也と雲江。
「ケーキが・・・」
乃菊が呟く。
「そっちなのかい」
国也は、乃菊の甘いもの好きに呆れる。
「だって、東京行きのこと知ってるなんて悔しいでしょ」
乃菊は、ふくれっ面で言う。
「田沢さんが祝ってあげてっておっしゃたのよ。驚かそうと考えたのは、私だけどね」
雲江が舌を出す。
「もお、雲ネエがそんなこと考えるなんて・・・」
乃菊はふくれたままだ。
「ごめんよ。さあ、お腹空いたでしょ、いただきましょ」
雲江がケーキを取り分ける。
「シャンパンもあるよ」
国也がグラスにシャンパンを注ぐ。
「クリスマスみたい」
喜ぶ乃菊を見て、国也も雲江も微笑む。
「二人とも、私が東京へ行ってくる間、淋しいでしょうけど、お土産買ってくるから我慢しなさいね」
家族3人の、一足早いクリスマスの夜になった・・・。
翌日、東京行きの打ち合わせのために、名古屋のみおんの自宅へ泊ることになった乃菊を、蒲橋駅まで送った国也は、加納と落ち合う場所へ向かった。
一山超えて高速道路へ入り、最初のパーキングエリアへ・・・。
「どこかな・・・」
パーキングへ入ると、国也は加納を捜したが、車の脇に立っていた加納を程なく見つけ、そのまま隣に車を停めた。
「さあ、行きましょうか。呪いの墓を見つけに・・・」
加納がそう言うと、国也は加納の車へ乗り込んだ。
車は、岐阜県に入っていた。
「随分田舎まで来たね」
国也も城巡りで通過したことはあったのが、この辺りの高速出口からは、降りたことがなかった。
「ネットで調べましたが、この辺りは、僕でもナビがないと来れないですよ」
確かに国也でも、どこへ向かえばよいのか、見当もつかない場所である。
「いろいろな考えがありますが、この辺りも日本のへそと言われてたことがある地域なんですよ」
加納は、ネットで調べた目標地点を、ナビを見ながら確認する。
「もうすぐだと思います」
町から少し離れた山道を走る。少し開けたところに小さな田んぼがあった。
「この辺りなんですけど・・・」
加納は車を停める。
「降りてみよう」
二人は車を降りて、辺りを見回す。
「田んぼの脇の道を、神社に向かって歩いて行くように、書いてあったんだけど・・・」
東側だろうか、小さな鳥居が見えた。
「あそこに神社があるみたいだけど」
国也が歩き出す。
「神社の手前の小川沿いに、右へ・・・」
資料を見ながら、加納も向かう。
「こんなところまで、恨みを晴らしたい人が来てたんだろうか?」
歩きながら、そう考える国也。
「そこをそのまま小川沿いに行ってください」
言われた通りに、国也は進んだ。
「あれかな?」
林の手前に、不揃いの石が積んである場所が見えた。
「言い伝えだと、仇討ちをしようとここまで追い詰めて来た武士が、相手に買収された村人の罠にはまって、返り討ちに遭ったらしいです。その後、村には疫病が流行り、何人もの村人が亡くなったそうで、それを武士の怨念のせいだと思った村人たちが、ここに墓を建てたそうです」
建てたと言っても、形の良い石を積み上げたくらいにしか見えないが・・・。
「何だかわかる気がするな・・・」
国也は、その話を聞きながら、いくつかある墓を見て回る。
「え、何がですか?武士の怨念ですか?」
一つの墓の前で、国也は立ち止まる。
「ひょっとして、国也さんも武士ですか?」
冗談を言う加納。
「そうですよ・・・」
国也が答える。
「えっ?」
キョトンとしている加納。
「冗談ですよ。僕も現代人ですから」
国也は笑う。
「冗談に聞こえなかったですよ。仕事は着物関連だし、祖先が武士なんでしょうね、きっと・・・」
国也は腰を下ろす。
「この燃えカスだけど・・・」
墓の前の台石の上に丸い石が置かれており、その下に燃えた紙があった。
「じゃあ、その墓でしょう。恨みを持った人間が、相手の名前と住所を書いて燃やすと、その恨みが晴らされるということらしいです。まあ、あくまでも都市伝説ですが・・・」
と言いつつ、背筋に寒さを感じる加納は、墓に向かって手を合わせる。
「ここから武士が現れて、仇討ちの代理になるということか。馬鹿げてる」
国也は、少し腹立たしかった。
「どうしました?」
燃え残った紙を手にした国也は、立ち上がってその紙を加納に見せる。
「ジュリア・・・?まさか・・・」
国也は、当然左島ジュリアのことだろうと思った。
「なぜだ、なぜジュリアちゃんまで・・・」
立ち上がり、墓の前から移動する。
「どうして、彼女たちが恨まれるんでしょうね。何かしてしまったのかなあ?」
加納も納得いかない様子だ。
「恨みを持っている者が、必ず正しいとは言えないでしょう。そんなあやふやな恨みを、頼まれたからって、ただ晴らそうとするなんて、考えが足りないでしょ」
他の墓を見て回る国也。
「でも、その武士が出てきて仇討ちするなんて、そんなことが、実際にあるんですかね・・・」
加納には、当然半信半疑のことだが、国也は、すでに肯定している。
「これは?」
別の墓の前にいた国也が、目に留まったものを確認するため腰を下ろした。
「堂、亜、美・・・」
黒焦げになった石だが、三文字だけが読み取れた。
「加納さん・・・」
寄ってきた加納に、国也は石を手渡す。
「えっ、これって、亜美ちゃんのことじゃ・・・」
加納は、続く言葉出てこなかった。
「もしこの墓も、何かの恨みを持った人間が願いをする墓であれば・・・」
国也は立ち上がり、加納の顔色を窺う。
「何か心当たりでも?」
手に持つ焼け焦げた石を、強く握りしめている加納。
「以前、亜美ちゃんが、交差点で誰かに押されて、事故に遭いそうになったことが・・・」
加納の顔から血の気が引いた。
「絶対に阻止しなきゃいけない」
国也は、みおん、ジュリア、そして亜美にまで危険が歩み寄っていることを知り、当然乃菊のためにも、みんなを守らなければいけないと思った。
「行こうか」
立ち竦む加納に、一声をかけて歩き出す国也。
「絶対に亜美ちゃんを守ります!」
加納は、そう言って国也を追いかける。
「とにかく東京から無事に帰ってくるように祈ろう。今は、それを願うことしか出来ないからね」
加納は、歩きながら頷く。
「帰ってきたら迎えに行きます」
国也も頷く。
「相手は手強いから、とにかく一人にさせないことが必要だと思います」
二人は車に乗り込み、すぐに走り出した。




