選択?
「お前はこの先、分かれ道にたどり着き、どちらかを選択して進まなくてはいけない」
突然乃菊の前に現れた大蛇は、砂漠の真ん中に座っている乃菊の周りを回りながら言う。
「なぜですか?」
乃菊は、不満そうに聞き返す。
「なぜではない、そういう運命なのだ」
大蛇も素直に聞かない乃菊に、苛立ちを覚える。
「そして、その分かれ道のどちらかを選び、お前の大事なものの一つと別れ、大切な一つを残すことになるだろう」
乃菊は腕組みをする。
「じゃあ、大切な一つを残せばいいんですね。簡単なことじゃないですか」
そう言って、納得する乃菊。
「それを選べば、お前は、死ぬことになるだろう」
乃菊は、大蛇に砂を投げつける。
「何をする!」
乃菊は、逃げようとする大蛇を追いかけ、砂をかける。
「何を勝手なことばかり言うんですか!私は死にたくないし、大事なものとも別れない。大切なものも残して見せますよおだ!」
乃菊の投げる砂は、石に変わっている。
「よさぬか!そんなことをすると罰が当たるぞ!」
逃げる大蛇。追いかける乃菊。
「罰が当たるのは、あなたです!私は、罰の当たるようなことしてないんだから!」
乃菊に執拗に追いかけられた大蛇は、雲の中へと隠れた。
「もお!」
そう言って起き上がった乃菊は、目の前にいる国也を見て驚く。
「あ、国也様に言ったんじゃないんです。あの・・・」
国也が手を握ってくる。
「夢を見てたんだろ、うなされてたよ」
そうだ、夢なんだ、と乃菊は思い、少しほっとした。
「みおんは?」
眠る前は、みおんが看病をしていてくれたのを思い出す。
「今日からライブの練習があるから、昨日の夜帰ったよ」
うなだれる乃菊。
「そうだったね。また私は不参加になっちゃう・・・」
国也がうなだれる乃菊の顔を起こしてキスをする。
「またいつだって、みんなと歌えるようになるよ」
涙をこぼす乃菊。
「ありがとう、国也様。でも今度のライブは、楽しみにしてたんだ・・・」
すがるような眼をする乃菊。
「何とかならないかな?」
国也は、乃菊を寝かせる。
「ちゃんと治ってからでないと、みんなに迷惑かけちゃうだろ」
横を向く乃菊。
「何とかならないかな・・・」
またそうつぶやく乃菊。
「・・・」
国也は、腕組みをして考える。
「早く治しなさい・・・」
乃菊の返事はなかった。
「もうすぐライブなんだろ?」
駅近くの喫茶店の片隅で、帽子を目深に被ったダルビーが、向かい側に座っているジュリアに聞いた。
「うん、原豊で。菊野ちゃんがいないんだけどね・・・」
大きめの眼鏡をかけたジュリアが、寂しそうな顔をしてそう答える。
「たいへんだったね、乃菊ちゃん。大丈夫なのかい?」
ダルビーが身を乗り出して尋ねる。
「彼女は不死身だから大丈夫。そう思ってるんだけど、すごく不安です。あんな事件ばかりに遭遇して・・・。大好きだから、余計に心配なんです」
ジュリアを見つめながら話を聞くダルビー。
「私、グループに入ってから、菊野ちゃんと仕事をしながら、彼女の魅力の虜になって、一緒にいるととっても幸せなんだ。こんな私でもいろんな話をしてくれるし、相談にも乗ってくれるし・・・。」
乃菊のことだと、話が長くなるジュリアである。
「ふーん。俺と乃菊ちゃんとどっちが好き?」
ダルビーが声のトーンを抑えて言ってきた。
「そ、そんな、比べられないです。ダルビーさんと菊野ちゃんは、比べたりする対象じゃないです」
本当に困った様子のジュリア。それを見てダルビーも自分の軽々しい質問に、少し後悔する。
「ごめん、少し妬けちゃって・・・。確かに乃菊ちゃんは、不思議な魅力がある人だね、いい人だし・・・。あ、そうだ。大野さんも同じだよね。二人ともいい人だ・・・」
ダルビーは、正直な気持ちでその場を取り繕った。
「うん、二人とも素敵です。それにダルビーさんだって・・・」
声が小さくなり、ダルビーが身を乗り出す。
「なんだって、俺が何?」
そのことばに、思わず下を向いてしまうジュリア。
「どうした?」
ジュリアは、コーヒーカップを手にして、下を向いたまま飲む。
「何か聞こえました?」
一息ついてから、ジュリアは答えた。
「まあいいや。こうして君といられるだけで、俺は十分楽しいからね」
そう言ってダルビーもコーヒーを飲む。
「迷惑じゃないんですか?私となんて・・・」
恥ずかしくても、ダルビーの顔を見ているジュリア。
「何言ってんだよ。誘ってるのは俺の方なんだから、迷惑なんて思うはずないだろ」
少し興奮気味のダルビーだったが、声が大きくならないように気を遣う。
「君は、迷惑なのかい?」
あえて聞いてみる。
「・・・」
ただ首を横に振るジュリア。
「良かった・・・」
ダルビーは、ほっとしてまたコーヒーを口にする。その時、ポケットの携帯からメール音が聞こえてきた。
「あ、マネージャーからだ。もう行かなきゃ」
ダルビーは、コーヒーを一気に飲み干し、テーブルの上の会計伝票を握る。
「また時間が出来たら、連絡するよ」
ジュリアが頷く。ダルビーは、携帯をポケットに入れながら立ち上がり、レジへ向かう。遅れてジュリアも立ち上がる。
「ごちそうさま」
ダルビーは、レジで女店員に、会計伝票と千円札を差し出す。
「あのお、ひょっとして、ブルーバーンのダルビーさんじゃないですか?」
女店員が、目を輝かせながら尋ねる。後ろには、用もないのにもう一人店員が立っていた。
「あは、よく言われるんだよね。でも、その人知らないんだよ」
ダルビーは、お釣りを受け取るとすぐにレジを後にする。
「絶対そうだよ!」
女店員は、後ろにいた店員の手を握り、飛び跳ねて喜んでいる。
「ひょっとして・・・」
もう一人の店員が、ダルビーの後をついていくジュリアを見て言った。
「マネージャーかと思ってたけど、大人少女の・・・」
二人は、ジュリアの後姿を見ながら呆然とする・・・。
「ああ、バレてたかな・・・」
ダルビーは、そう言いながら背伸びをする。
「気を付けて・・・」
ジュリアは、その姿を見ながら、控えめに言う。
「君もね。じゃあ、行くから」
ダルビーは啓礼のように手を上げて、ジュリアに挨拶すると、ポケットに手を入れながら駆け出して行った。
「行ってらっしゃい・・・」
また小さな声で言って、ダルビーを見送るジュリア。
「ん?」
ジュリアは、強い視線を感じて振り返る。
「気のせいかな・・・」
誰もいない。
「あっ」
携帯が鳴り、電話に出るジュリア。
「うん、済んだよ。そうだ、菊野ちゃんの好きなもの、買って行こうか・・・」
電話で話しながら、また振り返るジュリア。
「・・・」
やはり誰もいない。
「すぐ行くから・・・」
歩きながら携帯をバッグの中に入れ、真阿子との待ち合わせ場所へ向かう。
そして、そのジュリアの姿を追う視線が、ビルの陰にあった・・・。




