怒る国也
「のぎちゃん!死んじゃ嫌だああああ!」
みおんは、気を失った乃菊を抱き上げ、泣き叫ぶ。
「みおん!どうした!?」
田沢が駆けつけて来た。
「のぎちゃんが、死んじゃったああああ・・・」
田沢は、乃菊の怪我を見て、すぐに携帯を取り出し、救急車を呼ぶ。
「みおん、何があったんだ?」
電話を済ませると、乃菊の怪我の具合を見ながら、みおんに聞く。
「私の身代わりに、刀を持った人に斬られちゃったの・・・」
刀?身代わり?田沢には、みおんの泣きながらの説明も、理解に苦しんだ。
「みおん、落ち着くんだ。国也さんは、いないのか?」
田沢は、乃菊が一人でいる状況も呑み込めていない。
「のぎちゃんが・・・、のぎちゃんが・・・」
みおんは、泣くばかりである。
ルルル・・・。着信音だ、それも乃菊のポケットの中だった。
「国也さん、大変です。すぐに来てください!」
田沢が携帯を取り出し、電話に出た。
「おじさん、ごめんなさい・・・」
みおんは、その電話にも泣いて謝っていた・・・。
“通り魔が刀で女性を殺害!あのアイドルも襲われ重傷!”
翌朝の新聞の1面に、乃菊とみおんも載った。
「ああ良かった、生きてたんだ・・・」
気がついた乃菊の第一声だった。
「どうしてまた無茶するんだ」
国也は、ベッドで横になっている乃菊を叱った。
「ごめんなさい。でも、私が助けないと、みおんが斬られちゃうんだもん・・・」
怪我人が謝っている。
「確かに、みおんちゃんに怪我がなくて良かったけど、自分の身体のことも考えなきゃ。別の自分に助けられることもあるだろうけど、絶対じゃないんだ。一つ間違えれば、怪我だけじゃ済まないんだぞ!」
愛があるからこそ、強い言葉で言う国也。
「・・・」
プイと、横を向く乃菊。
「ちゃんと聞きなさい!」
国也は、乃菊の態度に怒る。乃菊の顔を、自分の方へ向けて、説教をしようとする。
「ごめんなさい。でも・・・」
見る見るうちに、乃菊の眼から涙が溢れてくる。
「乃菊・・・」
こんな光景を、以前にも見たような気がする。
「私だって、怪我したくないし、死にたくない。でも、大事な友達や愛する人が危ない目に遭ってたら、じっとしてられないんだもん、我慢出来ないんだもん・・・」
乃菊が病室のベッドで横になり、国也は、その隣で椅子に座る。何度目だろう・・・。
「もういいから、泣かなくていいよ。確かに乃菊は、乃菊なんだから・・・。ただ、僕にとっては、乃菊は、この世で一番大切な人なんだから・・・」
乃菊は、手を出し、国也の手を握る。それだけで、お互いの心は、通じ合ったのだろう。しばらく二人は、そのまま時間を過ごした。
「そうだ、国也様。お願いがあるの・・・」
しばらくして、気持ちの落ち着いた乃菊が、話を始める。
「何だい?」
乃菊が、国也の顔を見て話す。
「昨日のことなんだけど、みおんの他にも襲われた人がいるかもしれない」
乃菊は、美紗緒のことも気になっていたのだ。
「そうらしいよ、君たちの他にも、もう一人殺されてしまった人がいるみたいだよ」
国也は、あえて名前を言わなかった。
「私たちは、殺されてないです。・・・殺されたって、美紗緒、さん?」
乃菊は、眼を閉じて、国也の返事を待った。
「どうして知ってるんだい?」
国也は、手術後からずっと寝ていた乃菊に、当然伝わる情報ではないと思い、不思議がった。
「国也様、あの人を調べて欲しいの。きっと悪い人じゃないと思うんだけど、ただ、何かの恨みを持った人の代わりに、その仇を討つような仕事をするために、どこかの世界からやって来た人だと思うの」
乃菊の、あの剣を持つ男の印象である。
「あの人って、誰だい?」
国也は、乃菊の言う、あの人には会っていない。
「気になる?妬けちゃう?」
乃菊のイタズラっぽい笑顔が復活した。
「誰だかわからないから、聞いてるだけだよ」
国也も、少し不機嫌な顔をしてみる。
「超常現象のあの人です・・・」
乃菊は、そう言って、今までにあの男と対面した時の出来事を、最初の城山から振り返って話をした。
「これは、加納さんにも相談しようかな」
国也は、この事件を解決しない限り、乃菊への心配は続くんだと、当然理解していた。
「ああ、またみんなに迷惑かけちゃうな・・・」
乃菊は、大人少女23の活動を、こんな形で半分以上休んでいることに、後ろめたさを感じている。
「田沢さんが何とかしてるよ。だから、ゆっくり休めばいい」
国也は、握った乃菊の手を、そっと包んだ。
「ありがとう国也様。でも、あの人は、危険だから気をつけてね」
乃菊には、最愛の国也を誰よりも心配する思いがあった。
「大丈夫だよ。僕は、雲ネエの息子だよ」
なんだか、そう言って国也が胸を張る。
「お母様の息子だから・・・?」
よく考えて見ると、乃菊は、雲江の実態を深く知らない。
「母さんは、ああ見えて、剣道、柔道、合気道の有段者なんだよ」
乃菊は、目を丸くする。
「そうなんだ。今度、弟子入りしようかな・・・。でも、ホントに気をつけてね」
乃菊は、それでも心配である。
「大丈夫だよ。君の大事な友達もきっと守るから」
国也の言葉は、今まで以上に、信頼できるものとして、乃菊に伝わっていた。
「良かった・・・。少し疲れたから、寝るね・・・」
乃菊は、そう言うとすぐに、静かな寝息を立てて眠ってしまう。
「話をするために、無理して起きてたんだな・・・」
国也は、乃菊の性格を理解していたが、それよりも身体のことが心配だった。
「僕が何とかするから、ゆっくり休みなさい・・・」
寝ている乃菊には、聞こえていないだろうが、国也は、諭すように言う。
乃菊が本当に休めるのは、病院のベッドなのかもしれない・・・。




