狙われるみおん
バスがターミナルに到着し、新婚カップルたちが、バスを降りて行く。
「じゃ、お元気で!」
仲良くなったカップル同士が、別れの挨拶をする。アドレス交換をする人たちもいた。
「じゃあ僕たちは、電車に乗って帰りますので、失礼します」
国也が田沢に挨拶をする。
「のぎちゃん、また仕事頑張ろうね」
みおんと乃菊は、名残惜しそうに話をしている。
「うん、いっぱい仕事しよ」
乃菊は、みおんの手を握って話をする。
「さあ、みおん、そろそろ帰ろうか。国也さんたちは、まだ電車に乗らなきゃいけないから」
田沢が、みおんのカバンを持つ。
「気をつけて帰ってね」
乃菊は、まだみおんの手を握っている。
「はいはい。私たちのマンションの方が、ここから近いんだから、のぎちゃんの方こそ、気をつけて帰ってよ」
乃菊は、うんうんと言いながら頷く。
「ちゃんと社長と一緒にいるんだよ」
乃菊は、帰省する娘を見送る母親のように言葉を掛ける。
「わかったわ。心配しないで、国也さんと仲良く帰ってね」
国也が乃菊の方を抱き、田沢とみおんを見送る。
「ずいぶん心配してたみたいだけど、何か気になってるのかい?」
国也は、乃菊がいつもと違うのを感じていた。
「ちょっとね・・・」
乃菊は、そう言いながら手を振る。
「あ、篝さん。お元気で・・・」
美紗緒たちが横を通り過ぎて、みおんたちと同じ方向へ歩いて行く。
「お気をつけて・・・」
乃菊は、美紗緒の顔を見て言う。
「さようなら・・・」
美紗緒は、そう言うだけで、すたすたと重い荷物を持つ夫の前を歩いて行く。
「あの女、今に思い知るわよ・・・」
一人の女が、ビルの陰から、ターミナルを出て来る新婚カップルを見て呟く。
「お前など、彼との幸せはない・・・」
その女の視線の先には、みおんの姿があった。
スーッと冷たい空気が乃菊の横を通り過ぎた。
「国也様、みおんのところへ行く・・・」
駅に向かう通路を歩いていた乃菊が立ち止り、国也の腕を強く握って引き止める。
「どうしたんだい?」
国也は、青くなっている乃菊の顔を見て、不吉な予感を感じる。
「みおんが狙われてるみたい。あの男の人に斬られるかもしれない」
乃菊は、今にも泣きそうな顔で言う。
「どうしてなんだ?あの男の人って誰だい?」
国也は、事情を聞きだそうとする。
「仇を討つって言ってた男の人が、みおんまで狙ってるみたいなの」
それでも訳がわからない国也だが、乃菊の言っていることに嘘があるはずもなく、状況を考える。
「じゃあ、とにかく荷物をコインロッカーに入れてくるから待ってろ!」
国也は、急いで乃菊の荷物と自分の荷物を担いで、すぐ先に見えていたコインロッカーのあるスペースへ、走って向かった。
「みおん・・・」
乃菊は、国也の言葉が聞こえなかったかのように、身体は、すでにみおんたちを追っていた。
篝美紗緒と夫の賢一郎が、泊まるホテルへ向かっていた。
「どこかで食事して行こうか?」
賢一郎が美紗緒を誘うが、美紗緒は、応えもせずホテルへ向かう。
「食事しないわけにはいかないだろう・・・」
二人の間には、何か溝があるのか、それとも喧嘩でもしているのか・・・?
「そこのコンビニで何か買って来て・・・」
美紗緒は、歩道にカバンを下ろし、タバコを取り出す。
「ああ、すぐに言って来るから、ここで待っててくれ・・・」
そう言って、賢一郎が一人コンビニへ言って行く。
コンビニの前に霧が現れてくる。
「なに・・・?」
あっという間に目の前が、霧に包まれる。美紗緒は、コンビニへ行こうとするが、それさえも叶わないほど、進む方向もわからなくなってしまった。
「篝、美紗緒だな・・・」
その声に聞き覚えがあった。美紗緒は、霧の中後ずさりする。
「仇討!」
霧をも斬り裂く光の筋が、声の方に振り向いた美紗緒の首筋を走った。
「ぐっ!」
瞬間で美紗緒の身体は、歩道へと崩れ落ちた。そして、その横をゴロゴロと何かが転がった。
「美紗緒、どこだ?」
霧が立ち込めるコンビニの外へ出て、賢一郎が美紗緒を呼んだ。
「えっ?み、美紗緒か・・・?」
しだいに霧は晴れ、賢一郎は、倒れている美紗緒を見つける。
「どうした美紗・・・、ううわああああっ!」
横たわる美紗緒の身体に、頭は無かった・・・。
「のぎちゃん、幸せそうだったね」
みおんは、マンションへ向かう帰り道で、しみじみ乃菊の幸せを喜んでいた。
「彼女の人生は、大野さんに会い、結ばれることが完結だったのかもしれないね」
田沢も、乃菊の幸せを祝福する一人だ。
「私だって、のぎちゃんに負けないような幸せな人生を送るんだから・・・」
みおんは、歩きながら田沢の顔を覗く。
「そうしなきゃな・・・」
田沢は、自分がその責を負っていることを自覚する。
「あら、なんだか霧が出てきたみたい・・・」
確かに、周りが少し靄っているのは事実だ。
「煙かな?」
田沢は、辺りを見回し、こんな星空の日に、霧ではないだろうと思った。
「えっ?」
みおんは、背中に突き刺さるような視線を感じ、ゾクッと震えた。
「どうした?」
立ち止っているみおんの肩に手をやる田沢も、何かを感じていた・・・。
気になっていた霧は晴れていたが・・・。




