複雑な新婚さんたち
・・・ホテルで食事をする。
一次会は、参加者全員での会食。各テーブルに三組ずつ座り、乃菊たちとみおんたちは、違うテーブルになった。
「篝賢一郎と申します。よろしくお願いします。建築会社の専務をしています」
三十そこそこで専務とは、おそらく経営者の息子だろうと、国也は思う。
「妻の美紗緒です」
美人だ、乃菊は、そう思った。
「澤田平治郎です。個人病院の院長をしております。新婚と申しましても、見ての通り私は、60過ぎの年寄りですわ、ははは・・・」
と言われても、一緒には笑えない国也たちである。
「澤田、もも香です。院長の病院で看護師をしております」
まだ、夫の、と言えず、院長の、と言ってしまうもも香。あの年の差カップルである。
「大野国也です。自営業ですが、経営者は、母です」
謙遜で言っているのではなく、事実だ。
「菊、あ、大野乃菊です。時々、国、あ、夫の仕事を手伝っています」
乃菊もまだ、夫婦の実感がないのかもしれない。・・・依然、恋人気分だろう。
「奥さん、時々ですか?」
看護師もも香が、乃菊に聞いた。
「あ、はい、副業をしてますので」
とっさに、そう答える乃菊。
「副業?何をなさってるんですか?」
さらに、院長の平治郎まで聞いて来る。
「え、あ、広告、の、モデルみたいな・・・」
本当のことを言えない乃菊。苦し紛れの返答である。
「モデルですか。可愛らしいから、売れるといいですね」
もも香がそう言ってくれて、乃菊は、少しホッとする。
「乃菊さんは、お幾つ?」
今度は、美紗緒が聞いて来た。
「あ、はい、25、です・・・」
大人少女23の菊野乃菊も、もう25歳になっている。当然、美紗緒より若い乃菊ではあるが、なぜ年齢を聞くのかが気になって、美紗緒の表情を窺った。
「そお、もっとお若いかと思いましたわ」
どういうこと?子供に見えたの?と思う乃菊。
「それなら、そのメガネでもいいかしら・・・」
含みのある言い方である。
「メガネですか?」
乃菊は、また窮地に立ったような気分である。伊達メガネ、いや、変装のためのメガネだから・・・。
「気にしないでね。私、正直だから、あなたのメガネが、可愛らしさを隠しちゃってるような気がして・・・」
そうなんです、隠してるんです。それが、乃菊の真実である。
「そうですか、違うメガネを試してみます」
笑顔で答える乃菊。
コース料理が運ばれて来た。
「・・・」
普通、またまた笑顔になる乃菊だが、優しそうでもあり、棘のある性格のようでもある美紗緒の顔を見て、何か不吉な予感がしてしまい、料理に気が向かなかった。
「さあ、頂きましょう」
平治郎が音頭をとり、皆が料理に手を伸ばし始めた。
「頂きます・・・」
乃菊たちも食べ始めた。
「私たちのこと、どう思います?」
もも香が、急に聞いて来た。
「お年の差はあるようですが、素敵なカップルだと思いますよ」
国也が答えた。
「お気遣い、ありがとうございます。でも、周りの人は、財産や地位が目当てだって思ってることは、十分わかってるんです。だけど、私は・・・」
そこまで言うもも香を、夫の平治郎が止める。
「妻は、周りの目を気にし過ぎるんですよ、愛し合って結婚したことに、間違いないんだから・・・」
もも香を諭すように、平治郎が言う。
「そうですよ。私たちだって、10違うんですよ」
乃菊も、もも香を応援する。
「違うんでしたら、堂々とすればいいですよ。財産や地位が目当てだなんて思うのは、貧乏人のやっかみですから」
こんなアドバイスをするのは、当然美紗緒である。こちらの金持ちは、実に堂々としている。
「愛は、お金じゃないんですから・・・」
乃菊も主張する。
「でも、お金がなかったら、一緒に生活していけませんよ、奥さん」
これは、美紗緒である。
「私は、大丈夫です。お金が必要になったら、私が頑張りますから・・・」
美紗緒の言葉に、ヒートアップしだした乃菊。
「ご主人、健気な奥様を、大事にしてあげなさいね」
乃菊よりも上手である。
「大丈夫です。うちは、不思議と不自由したことがないので・・・」
案外こんな時でも、国也は、落ち着いているのだ。
「負けた・・・」
乃菊は、自分が一番未熟だと感じて、心の中で呟いた。
2次会は、参加自由のカラオケバーへ移った。
「んんん・・・!飲むぞ!歌うぞ!」
少し乱れ気味の乃菊である。
「のぎちゃん、どうしたんですか?」
みおんが、国也の脇を人差し指でつつきながら聞く。
「同席の女性に、差をつけられた気分なんだろうけど、僕は、乃菊の方が素敵だと思うから、気にしなくていいのにね」
腕を組んで答える国也。
「まだ国也さんには、女心が読めないんですね・・・」
そう言いながら、みおんは、乃菊の腕を掴んでバーに入って行く。
「さあ、のぎちゃん、一緒に歌おう!」
同席する乃菊たちだが、男性陣は、注文を聞くだけで、乃菊とみおんは、さっそくマイクをカラオケのリモコンを持ち、曲を選択している。
「好きに歌いなさい」
田沢の許可が出て、アイドルだと言うことを隠して参加している、乃菊とみおんもマイクを独占する勢いで歌った。
「次は、何にしよう?」
次々に曲を選ぶ二人。周りは、カラオケよりも、お酒を飲みながら、新婚旅行の夜を、乃菊たちの歌をBGMにして、ムードを楽しむ落ち着いたカップルが多かったのだろう・・・。
「こんなに好きにさせていいんですか?」
国也は、田沢に聞く。
「今夜くらい、いいじゃないですかね。みおんも乃菊ちゃんも頑張って来たから・・・」
田沢は、みおんを見つめながら言う。
「そうですね・・・。」
国也も、乃菊の笑顔を見て、ホッとしているのだった・・・。




