名古屋と姫路の距離
横断歩道を渡る人波をかき分け、加納は、亜美の元へ駆け寄った。
「亜美ちゃん・・・」
立ち上がり、膝の汚れを払っていた亜美を見て、加納は、一安心した。
「無事で良かった。飛び出しちゃ駄目じゃないか」
子供に言うように優しく説教をする加納。
「飛び出したんじゃないんだよ」
亜美は、いつもの愛らしい表情のまま言う。
「でも、急に車道へ出たように見えたけど?」
加納には、そう見えていたのだ。
「誰かに背中を押されたみたいなの」
亜美は、淡々と言う。
「そう言えば、飛び出し方が普通じゃなかったわね」
横にいた婦人も、不自然さを口にする。
「それって・・・」
加納は、一抹の不安を感じる。
「この方が、手を掴んでくださって、轢かれずにすんだの。あ、ありがとうございました」
亜美は、婦人に頭を下げる。
「何事もなくて良かったわ。それじゃあ、失礼するわね」
婦人は、笑顔で言う。
「あの、どこかでお会いしたこと、ないですか?」
亜美は、その婦人の顔に見覚えがあるような気がしたのだ。しかし、どこの誰かを思い出すほどの記憶もない。
「ただの通行人ですよ」
婦人は、そう言うと、そのまま横断歩道を渡って行った。
「うーん、誰かに似てるような、会ったことがあるような・・・」
亜美は、腕を組む。
「どこにも怪我はないんだね?」
加納は、亜美の身体を見回した。
「ないですよ。そんなに心配したの?」
亜美は、覗き込むように聞く。
「・・・」
加納は、答えなかったが、そんなことは、加納の顔を見た時に明らかにわかっていた。
「私たちも行きましょ」
亜美が返事を待たずに、横断歩道を渡ろうとする。
「待って!」
加納が、亜美の腕を掴む。
「点滅してるから、次にしよう」
加納は、冷静を装って言う。
「ホントだ。もう一回待たなきゃね」
亜美が微笑みかけるが、加納は、辺りを見回している。
「まさか・・・」
加納は、乃菊や国也がこの名古屋にいないことが不安に思えた。
乃菊は、ホテルへ向かうバスの中で、外の景色を眺めていた。
「乃菊、どうしたんだい、具合が悪いのかい?」
隣に座る国也が、そんな乃菊に尋ねた。
「ううん、なんだか名古屋のことが気になっちゃって・・・」
乃菊は、国也の手を握る。
「亜美ちゃんのことかい?」
乃菊が頷く。
「大丈夫だよ、加納さんもいるし、ジュリアちゃんや真阿子ちゃんと一緒に遊んでるよ」
国也も気にはなっていたが、乃菊の前では、そんな素振りを見せないようにしていた。
「みおんや田沢さんはいるけど、亜美ちゃんたちとこんなに離れるのは、知り合ってから初めてだから・・・」
自分のことより、大事なメンバーや友達、家族を心配する乃菊の本領発揮である。
「僕たちが念じれば、みんな大丈夫だよ」
国也が笑顔で言う。
「じゃあ、一緒に念じましょ。みんなが無事でありますように・・・」
二人で手を握りながら目を閉じる。
「何してるの?ホテルに着いたわよ」
みおんが、手を握り合って目を閉じている乃菊と国也に声を掛ける。
「ああ、疲れたあ・・・。早くホテルで寝たいなあ・・・」
乃菊は、寝ていたようなふりをして、背伸びする。
「あら、大好きなお食事はしないの?」
みおんがあえて確認する。
「するよ、する!食事しなきゃ、お腹すいて眠れないよ」
乃菊は、すぐに前言を撤回する。
「彼女、結婚式の前に、少しだけダイエットしてたんだよ」
国也が秘密をばらしてしまう。と言っても、口止めされていたわけではないけれど・・・。
「だから、ホテルでいっぱい食べるんだって、楽しみにしてたんだよ」
これには、乃菊のキレてしまい、国也の腿をつねる。
「そうだったんだ。ちっとも知らなかった」
みおんも驚く。
「だって、お風呂で鏡を見たら、プチ妊婦さんみたいになってて、ドレスが着れなくなるって、国也様が脅したから・・・、あ、痛い!」
今度は、国也がつねった。
「脅したんじゃなくて、注意してあげたんだよ。暴飲暴食に運動不足が重なってたし、一応アイドルなんだから・・・」
乃菊が睨む。
「一応って、なんですか!?一級品のアイドルでしょ!」
国也が苦笑いをする。
「みんながいてのアイドルでしょ、休みが多いんだから・・・」
この国也の言葉に、乃菊が反撃する。
「私が世直ししてることくらい知ってるでしょ。役だ立たずの国也様が、名誉の負傷を軽く言わないで!」
乃菊の頬が膨れる。
「まあまあ、喧嘩しなくても・・・」
田沢が仲裁する。
「喧嘩なんてしてません。国也様に注意しただけです」
そう言って横を向く乃菊。
「僕だって注意しただけだよ」
国也も顔をそらす。
「仲がいいのか悪いのか?さあ、行きましょ」
みおんが二人の腕を掴んでバスを降りる。
「さあ、手を繋いで!」
みおんが二人の手を握らせる。
「しかたがないなあ、若い方が折れなきゃね」
そう言って、乃菊が国也を引っ張る。
「気の抜けないカップルだな・・・」
田沢が、二人を見送るみおんに言う。
「うん。幸せにならなきゃいけない二人だからね」
腕を組むみおん。
「さあ、行こうか」
田沢がみおんの肩を抱く。
「甘えさせてもらいます」
みおんが田沢の腰に手を回す。
「どうぞ、遠慮なく・・・」
乃菊と国也に続き、みおんと田沢もホテルへ入って行く。




