姫路再び
乃菊タチを乗せたバスが、姫路城へやって来た。乃菊と国也にとっての思い出の地でもある。
「着いたあ!」
前の席のカップルからバスを降りて行き、最後は、乃菊たちだ。
「国也様、早く!」
バスを降りると、乃菊は、国也の手を引き走り出す。
「ちょ、ちょっと・・・」
勢いよく引っ張られて、国也は、前のめりになりながらついて行く。
「卒業アルバムに載ってた門だよ!あそこにも国也様写ってた!」
皿に進んで行く乃菊。まるで遊園地へ来た子供のように・・・。
「のぎちゃん、ホントに懐かしいんだね」
みおんは、乃菊の純心さが羨ましかった。
「君も遠慮しないで、はしゃげばいいじゃないかな・・・」
田沢は、生真面目なみおんに、今回だけでも息抜きさせたいのだ。
「でものぎちゃんは、ああしていても何かを背負っているのよね・・・」
田沢も頷く。
「彼女が頑張っている姿を見ていると、みんなのために自分を酷使しているように見えてしまうよ・・・」
何年か乃菊と付き合って来て、田沢も乃菊が自分の運命と戦っているように見えていたのだ。
「だから君も、あんなふうにすればいいじゃないのかな・・・」
田沢が、みおんの手を握る。
「じゃあ私も、思いっきりわがまましちゃおうかな・・・」
みおんは、手を握り返す。
「そうすればいいだろ、受け止めてやるよ」
グループのリーダーとして、みおんがいつも自分に対して遠慮していることを、田沢は、申し訳なく思っていた。
「じゃあ、そうしようかな。・・・行こっ!」
みおんも田沢の手を引いて走り出した。
「加納さーん!」
赤信号を横断歩道の手前で待っていた亜美は、反対側に加納がやって来たのを見つけ、手を振った。
和菓子の片口屋から帰る途中で、加納から電話があり、駅で会う約束をしたのだった。嬉しくて仕方のない亜美は、赤信号を浮き浮きしながら待つ。
「早く青になって・・・」
大きな交差点で、車の往来も多く、渡ろうとしている歩行者も大勢いた。その先頭に立っている亜美を、加納もすぐに見つけた。サングラスをかけていても、アイドルの変装に慣れている加納にとっては、容易いことなのかもしれない。
車道側の信号が黄色に変わり、歩道の先頭に立っていた亜美は、スタートの準備が万端とたっていた。
「あっ!」
亜美の身体が車道へと飛び出した。
「亜美ちゃん!」
その姿を加納も確認した。
パワン、パワン!
黄色になっても交差点に入って来た車が、クラクションを鳴らす。
「危ない!」
亜美が倒れて、その前を車が猛スピードで走り過ぎた。
「亜美ちゃん!」
再び亜美の名を呼ぶ加納。青信号を確認して走り出す・・・。
「国也様、ここ憶えてる?私たちが写真撮ってるところで、ほら、ここを国也様が、シラッとした顔して歩いてたんだよ」
乃菊は、菱の門へ入る前の坂道で説明する。
「そうだったかなあ?」
国也は、そこまで憶えていない。
「そうだってば!」
乃菊は、また手を握って進む。
「この坂の下でピースしてるところを撮ってたら、国也様が、はの門に向かって坂道を歩いてたのよ」
ピースまでして説明する乃菊。
「どうしてそんなに、無関係な僕が写り込んでる写真が、アルバムに載ったんだろう・・・。偶然にしては、多いよね」
乃菊が腕を掴む。
「私が選んだからに決まってるでしょ!」
乃菊が満面の笑みを見せる。
「君が?」
まだ理解出来ない国也。
「私、アルバムの製作に関わったの。修学旅行を早引けしたから、みんなが特別に参加させてくれて、ここの分だけ選んだの」
にっこり笑う乃菊。そのまま坂を上がって行く。
「うわっ!」
乃菊は、突然後ろから国也に抱かれてビックリする。
「ビックリするじゃないですか、国也様・・・」
今度は、国也が乃菊の手を引いて歩く。
「こ、これは、にの門だよね。い、ろ、は・・・」
通って来た門を、振り返りながら数える乃菊。にの門、門の中が枡形になっている・・・。
「頭がぶつかりそうだね、あっ!」
角を曲がり、外へ出る前に国也が立ち止まる。。
「むっ!」
急に国也がキスをした。乃菊は、眼を丸くしたまま動かない。
「見られなかったかな?」
唇を離すと、国也は辺りを見回した。
「急にどうしたんですか?」
国也は、構わず門を出て、天守へ向かう。
「忘れない思い出を作るんだよ・・・」
国也は、こんなにも自分のことを忘れずにいてくれた乃菊を、愛おしくてたまらなかった。
「待ってください!」
乃菊は、国也を追いかける。
「あっ!」
乃菊が蹲る。
「どうした?」
国也が戻って来る。
「ちょっとお腹が痛くなって・・・。それより、今、急に顔が浮かんだの・・・」
乃菊の顔が曇る。
「もしかして、それって・・・」
乃菊は、国也の顔を見る。
「亜美ちゃん・・・」
二人は、同時に亜美の顔が頭に浮かんだのだった・・・。




