縁結び?
「どうして、あなたなんかが彼を奪って行くのよ!」
顔の見えない女が、ナイフを握って近づいて来る。
「言ってる意味がわかりません。彼は、ずっと私といたんです」
みおんは、後ずさりする。
「あなたさえいなくなれば、あなたさえ・・・」
みおんは、ビルの壁に背をつけ、もう後ろへは行けない。
「死んでちょうだい!」
ズッ!
「うっ!」
みおんの腹に、顔の見えない女の握るナイフが、深く刺さった。
「嫌、やめてください。私たち、結婚したばかりなんです・・・」
涙を流し懇願するみおん。壁にもたれ掛かったまま動けない。
「それも、今日で終わりよ」
ズッ!ズッ!
「や、やめて・・・」
みおんは、膝の力が無くなり、腰を落とした。
「早く、彼の前からいなくなりなさい・・・」
顔の見えない女は、苦しがるみおんの止めを刺すべく、みおんの首に向かってナイフを振った。
「キャッ!」
ソファから落ちそうになったみおんは、床に手をついて起き上がった。
「ああ、なんだ、夢だったんだ、良かった・・・」
ピンポーン!
「羽流希さんだ!」
みおんは、立ち上がって玄関へ向かう。
「お帰りなさい!」
みおんは、チェーンを外して扉を開ける。
「ただいま・・・」
出張帰りの田沢が玄関に入って、扉を閉めて振り向くと、みおんが飛びついて来た。
「羽流希さん、ずっと一緒だよ・・・」
あまりにもきつく抱きしめるため、田沢は、前に進めない。
「どうしたんだ、みおん?さあ、お土産だよ」
それでもみおんは離れない。
「先に、キスして」
みおんは、首に巻きつけた手を離し、半歩下がる。
「よしよし・・・」
田沢は、顎を上げているみおんの口に、そっとキスをする。
「ほら、おがた家の牛丼だよ」
いつもは寄れない、駅前のおがた家に、みおんの好きな牛丼を、寄って買ってきたのだ。
「お風呂先にする?」
みおんが聞く。
「お腹すいてるだろ、先に食べよう」
さっきまでみおんが居眠りしていたソファに座り、テーブルにお土産を置く。
「デザートも買って来たよ」
田沢は、仕事で疲れているみおんを気遣って、時々家事を減らしてくれる。
お土産は、そのためなのだ。
「缶チューハイでいいよね」
みおんは、キッチンで手を洗い、冷蔵庫から飲み物を取り出す。
「何かあったのか?玄関で急に抱きついたりして・・・」
田沢は、ちゃんと気になっていた。
「何でもない。たまにはいいでしょ、新婚らしくて・・・。それより、手を洗って、うがいをしてください!」
心配させたくなくて、あえて夢の話はしなかった。
「わかりました、奥様・・・」
田沢もキッチンへ行き、手を洗う。
「みおん・・・」
今度は、おぼんを持って行こうとするみおんを、田沢が後ろから抱き締めた。
「愛してる?」
みおんが聞く。
「愛してるよ」
もう一度二人は、キスをした・・・。
「あ、来てたんですか、ダルビーさん!」
ジュリアが、奥から出て来た。
「やあ、久しぶり・・・」
ダルビーが緊張気味に挨拶をする。
「あ、こちらは・・・」
ジュリアが、国也にダルビーを紹介しようとする。
「今、話をしてたところだよ」
紹介は、もう必要がない。国也が、ジュリアの言葉を遮る。
「うん、いろいろとジュリアちゃんのことを聞いてたんだ」
ダルビーが笑顔で言う。
「私のこと?おじさん、余計なことを言わなかったでしょうね?」
ジュリアが、そう言いながら、国也の隣へ座る。
「褒めてただけだよ」
国也も少し飲んでいたが、もうすっかり醒めている。
「本当ですか、ダルビーさん?」
ジュリアが、国也越しに聞く。
「そうだよ、何か気にしてることがあるのかい?」
ダルビーも、国也越しに聞き返す。
「ないです・・・」
ジュリアが、瑞恵から出されたチューハイを飲む。
「それよりおじさん!菊野ちゃんを泣かせないでしよ。怒ったり、泣いたり、大変だったんだから、眠るまで添い寝したんだよ」
ジュリアが捲し立てる。
「何も泣かせるようなことしてないけど・・・」
国也には、身に覚えがない。
「やっぱり、大野さんと乃菊ちゃんは・・・」
ダルビーも瑞恵も、直感が当たったのではないかと思った。
「え、あ、違うんです!おじさんのところの仕事で、いろいろあったから・・・」
ジュリアが、苦し紛れに話をすり替える。
「あっ、そうか、この前、うちの仕事で失敗したから、つい怒っちゃった時のことか・・・」
国也もその話に乗り、二人の疑念をかわす。
「ただでさえ、あっちもこっちもで、大変なんだから、菊野ちゃん。気をつけないと辞めちゃうぞ」
ジュリアは、すり替えた話で、国也を叱る。
「わかりました。気をつけます・・・」
しかし、国也には、本当の理由がまだわかっていない。
「そうだったんですか・・・」
ダルビーも瑞恵も、一応二人の話を信用した。何とかかわした国也とジュリアは、二人でホッとする。
「でも、どうしてわざわざ、大野さんのところで働いているんですか?アイドルだけで充分なのに・・・」
また難題を突き付けるダルビー。
「そ、それは・・・。あの、彼女、ああ見えて、古いタイプの考えを持ってて、何と言おうか、一宿一飯の恩義って言うような考えがあって、そもそも、アイドルになる前に、住み込みで働いていたから、着物が好きなんですよね・・・」
まあ、そんなところでしょう。ジュリアも納得する。
「ところで、僕が間でない方がいいんじゃない?」
国也は、さっきから、ダルビーとジュリアの間に居ることが、窮屈でたまらなかったのだ。
「そんなことないですよ、おじさん、気にしないで・・・」
ジュリアは、そう言うが、国也には、二人の間の空気を感じていた。
「それに、どこかのホテルにでも泊まらないといけないから、もうそろそろ・・・」
国也は、立ち上がろうとするが、ジュリアが腕を掴んで引き止める。
「それじゃあ、私も・・・」
ジュリアは、思ってもいないことを言う。
「どうして、ジュリアちゃんは、ダルビーさんと話をしなくちゃ!」
つい、大きな声で言ってしまう国也。
「おじさん・・・」
ジュリアは、恥ずかしそうにして、国也の腕から手を離さない。
「今日は、そのまま泊まっていけばいいわ。あの様子じゃ、もう起きられそうもないから」
瑞恵が国也に言う。
「そうだ。今夜は、何とか、この二人の縁を、少しでも強く結ぼう・・・」
国也は、二人の間に座ったことで、自分の使命と考えようとする。
「いいんですか?」
国也は、一応すまなさそうに言う。
「でも、一部屋だけなんだけど、大丈夫かしら」
一応、気を使う女将。
「おじさんなら、心配いりません。私も菊野ちゃんも、相手にしませんから」
それでも気を使ってるつもりか、とジュリアを見る国也。
「ジュリアちゃんも、停まってくだろ?」
ダルビーが言う。
「はい。だから、おじさんと菊野ちゃんが、二人だけじゃ、心配ですから」
さっきは、心配いらないと言ったじゃないか、と国也は思う。
「家に電話しなくちゃ・・・」
調子のいいジュリアである。
「お母さん、心配しないかしら・・・」
瑞恵の方は、ちゃんと気を使う。
「菊野ちゃんと一緒だって言えば、大丈夫です」
早速、電話をかけるジュリア。
「ご迷惑をお掛けします・・・」
国也は、みんなの分も頭を下げる・・・。




