スターと国也
午後10時を過ぎた頃・・・。
「ごめん、遅くなって!」
居酒屋みずえに、勢いよくダルビーが入って来た。
「あれ、ジュリアちゃんは?」
数名の客はいるが、ジュリアの姿がない。その店内を見て、ダルビーが、女将で、母親の瑞恵に聞いた。。
「今、奥に行ってるわよ」
優しい笑顔で、瑞恵が答える。
「すみません、乃菊ちゃんが酔っぱらっちゃって、今、寝かせに連れて行ってくれたところです」
国也が訳を話す。
「あなたは・・・?」
初対面の国也に聞く。
「あ、そうですね。えーと、僕は、乃菊ちゃんの、んー、アイドルじゃなくて、働いている所の、経営者、の、息子です」
不自然ではあるが、何とか、差し障りのない説明が出来たと思っている、国也である。
「それじゃあ、以前、噂になってた人ですね」
そこを知ってるのか、と思う国也。
「あ、はい、そうです・・・」
国也は、出来る限り動揺しないようにしている。
「でも、ホントは、付き合ってるんでしょ!」
国也は、ドキッとする。
「そ、それは、ないですよ・・・」
すぐさま否定する国也。
「すみません、冗談です。ところで、僕のことは、知ってますか?」
ダルビーが聞いて来る。
「確か、ブルーバーンのダルビーさん、ですよね・・・」
飲み会のことを聞いているし、そもそも、国也でも、ブルーバーンのことは、普通に知っていた。
「はじめまして。ここは、母の店なんです」
ダルビーは、自然に明かして来る。
「えっ、ダルビーさんのお母さんだったんですか、女将さん・・・」
国也もビックリである。
「そうなんです」
瑞恵が笑顔で答える。
「乃菊ちゃんは、そんなに飲んだんですか?この前は、そんなに飲まなかったのに・・・」
ダルビーが乃菊のことを気遣ってくれる。
「何だか、やけ酒とか言って、かなり飲んでしまって・・・」
国也には、その理由がわかっていない。
「喧嘩したんですか?」
ダルビーが、そんなことを言う。
「誰とですか?」
国也は、質問の意味がわかっていない。
「まさかね。夫婦でもないのに、アイドルと喧嘩は、ないですよね・・・」
ダルビーは、二人の関係を疑っているのかもしれない。
「おじさまが、連れないからじゃないですか?」
今度は、瑞恵がイタズラっぽく言う。
「おじさま?」
ダルビーに?マークが・・・。
「この方、乃菊ちゃんに、おじさんて、呼ばれてるのよ」
瑞恵が、笑顔で話す。
「は、はい・・・」
頭を掻くしかない国也である。
「そうなんですか。ところで、お名前は?」
やっと名前を言える時がやって来た国也である。
「大野国也です。よろしくお願いします」
瑞恵から出されたチューハイを手に、国也に挨拶をするダルビー。国也もグラスを合わせる。
「今日は、乃菊ちゃんと一緒に来るって聞いてたんですけど、おまけがいるって言ってたのは、大野さんのことだったんですね」
国也の扱いは、みんな同じだ。
「はは、おまけですか・・・、ジュリアちゃん・・・」
苦笑いをする国也。
「ところで、大野さんは、ジュリアちゃんのことをどれくらい知ってますか?」
ダルビーが、真面目な顔をして聞く。
「ジュリアちゃんのことですか?」
なぜそんなことを聞くのだろうと、国也もダルビーの顔を見る。
「はい。僕は、テレビで時々見て知ってたんですけど、会ったのは、この前が初めてなんです」
ダルビーは、国也より3,4才下のようだが、ロックバンドのイメージとは程遠く、普段は、真面目そうな好青年である。
「それで、ジュリアちゃんの何が知りたいんですか?」
芸能界の荒波の中で、10年以上スターダムにいるこの青年が、なぜ、1,2年のアイドルに興味を持つのか、国也も慎重に考えた。
「この前の飲み会の後、ジュリアちゃんを誘って、ここに来たんです。以前からジュリアちゃんのことが気になってたんですけど、イベントで会ったから、どうしても話がしたくて・・・」
そう話すダルビー。国也も誠実そうなダルビーに好感を持つ。
「ダルビーさんとは、今日初めて会って、生意気ですが、好青年だなって思いました。ただ、それでも、ジュリアちゃんは、乃菊ちゃんの大事な仲間で、僕なんかが、どうこう言える立場じゃありません。それでも、ジュリアちゃんがここへ連れてきたのは、それなりに、僕や乃菊ちゃんにも、あなたを知ってもらいたいって言う、サインなのかもしれません・・・」
ダルビーも国也に好感を持ち、しっかりと聞きいる。
「だから、知っていることは、少しでも話しますけど、それ以上は、あなたとジュリアちゃんが、これから交流する中で、聞いて行ってください」
国也は、一先ず、チューハイを口にする。
「ありがとうございます・・・」
ダルビーが礼を言う。
「まあ、僕もそんなに知っているわけじゃないですけど、ジュリアちゃんとは、大人少女23が出来た時の顔合わせで、僕が乃菊ちゃんの保護者として、テレビ局で会ったのが最初です。ジュリアちゃんは、いつも明るく、レッスンも一番元気に取り組んでいましたし、乃菊ちゃんが、入院していた時も、いつも明るく接してくれた、見てて頼りになる女の子だと思っていました。ハーフだってことは、最初から知ってましたけど、見た目とは違って、世話好きで、乙女チックなところもある、可愛い子です・・・」
国也も、デビューから大人少女23のメンバーとして、乃菊とともに頑張って来たジュリアを、軽く言ってはいけないと、精一杯話した。
「大野さん、マネージャーさんみたいに、ジュリアちゃんたちと付き合って来たんですね」
ダルビーは、自分が大人少女23のメンバーにとっては、まだまだ薄い存在なのだと思う。
「いや、僕は、乃菊ちゃんに同行する時々に、みんなと会うだけで、個人的なことは、メンバーに比べたら全然知りませんよ。だから、ジュリアちゃんとは、これから付き合うことで、知って行けばいいじゃないですか・・・」
瑞恵が、新しいグラスを差し出す。
「付き合うって言うのは、進みすぎでしたかね」
国也は、自分で話を進め過ぎたと、反省をする。
「いや、そんなことないです。事実、付き合いたいんです、僕は・・・」
国也は、驚く。
「そう言っても、芸能界では、難しいことでしょ。特に。あなたのようなスターが、交際するってことは・・・」
国也にも見に憶えがあることだ。
「それより、ジュリアちゃんが、僕みたいなのは、好みじゃないかもしれない・・・」
そんなことはないだろう、と国也は思う。
「どうしてですか?」
国也は、聞いてみる。
「僕みたいな、女性ファンが主体のバンドは、女の子に不自由がないように思われてるんじゃないかと思って・・・」
またチューハイを飲む国也。
「じゃあ、ジュリアちゃんも、あなたのファンなのかもしれないでしょ。そうじゃなかったら、会ってすぐに、ジュリアちゃんが、ここに来るはずがないですよ。ジュリアちゃんは、そんなに軽い子じゃないと思うから・・・」
国也は、いつの間にか、ダルビーを応援している。
「私も、ジュリアちゃんは、慎重な女の子だと思うから、ター君が自分の地位を笠に着てたら、すぐに去って行くと思うわ。だから、気をつけてね。ジュリアちゃんは、私の大事なお客様でもありますからね」
瑞恵も一目で、ジュリアのことが気に入ったらしい。
「わかってるよ。彼女なし歴、15年だからね・・・」
天下のダルビーも、大人二人の間では、小さくなるしかない。
「焦らずに、本音で付き合いたいと思います・・・。大野さん、よろしくお願いします」
ダルビーは、また国也とグラスを合わせる・・・。




