居酒屋みずえ
「どこへ行くの?」
乃菊は、ジュリアに聞いた。
「うん、ちょっと知り合いのところ・・・」
駅でジュリアと合流した乃菊は、案内されるままについて行く。もちろん、おまけの国也も一緒だ。
「ジュリアとプライベートでお付き合いなんて、初めてだよね」
乃菊は、ジュリアと並んで歩く。
「ホントは、もっと早く二人で話をしたかったんだよ。だけど、菊野ちゃん、みおんや亜美と仲良しでしょ、それにおじさんもいるし、私の入りこむところがないなと思って・・・」
少しさびしそうに言うジュリア。
「そんなの気にしなくていいのに。私は、誘ってくれれば、誰とだってOKだよ。それに、ジュリアのことだって好きだし、仲間だし、友達だと思ってるよ」
乃菊は、いつもと違うジュリアを見ているようだった。
「うれしいな。実は、私、いじめられっ子だったの。こんな顔だし、背は高いし、普通じゃないいから、仲間外れにされて・・・。だけど、喧嘩したら強くて、いじめられなくなったけど、ホントの友達は、一人もいなかった・・・」
乃菊は、ジュリアの手を、そっと握った。
「同じだよ。私も、変な子だから、ずっと友達がいなかった。でも、今は、みんながいるし、夕衣さんもいるし、着物のお付き合いで、知り合いもたくさん出来たし・・・」
握った手を振りながら歩く二人。
「ねえ、菊野ちゃん、聞いてもいい?」
ジュリアが、何か聞きたいらしい。
「何?」
乃菊は、ジュリアの顔を見る。
「何だか、後ろの人の話が出てこないけど、喧嘩でもしてるの?」
国也は、一人で数メートル後ろを歩いている。
「あ、忘れてた。でもいいよ、気にしなくて」
乃菊は、なぜか、今日は、国也に冷たい・・・。
「ん・・・?」
乃菊は、後ろを振り返る。すると、国也も後ろを振り返っていた。
「どうしたの、菊野ちゃん?」
ジュリアも、気になって振り返る。当然、国也がいるだけだが・・・。
「やっぱり、おじさんのことが気になるんだ」
ジュリアは、ホッとする。
「違うよ・・・」
乃菊は、手を離して、後戻りをする。国也の横も通り過ぎる。
「乃菊・・・」
国也が呼び止める。
「誰かいなかった?」
乃菊が聞く。
「僕も何だか気になって、振り向いてみたけど、誰もいなかったよ・・・」
国也が答える。
「国也様も・・・」
と言いかけた乃菊。
「あ、そう。じゃ、先に行くからついてきて・・・」
プイと振り返って、ジュリアのところへ戻り、そのまま歩きだした乃菊。
「何かあったの?」
ジュリアが聞こうとすると、乃菊は、すぐにまたジュリアの手を取って歩きだす。
「何でもないよ」
実際には、誰かにつけられているような感じがして確認したのだが、乃菊は、それよりも、嫌な思いをした。
「ああ、普通に話をしようとしちゃった・・・」
独り言を言いながら歩く乃菊。
「着いたよ」
ジュリアが案内して来たところは、居酒屋の前だった。
「居酒屋、みずえ・・・。ジュリア、常連なの?」
乃菊は、ジュリアの顔を見る。
「違うよ、一度来ただけ」
恥ずかしそうに言うジュリア。
「入ろう・・・」
ジュリアが先頭で入って行く。
「ジュリアちゃん、いらっしゃい!」
女将がジュリアに声をかける。
「やっぱり常連なんだ」
乃菊がジュリアの肩を叩く。
「違うってば・・・」
国也も内装を見ながら入って来る。
「まだ誰もいませんね」
ジュリアが嬉しそうに言う。
「今日の第一号よ。さあ、座って」
女将の勧めで、カウンターの真ん中に並んで座る。
「こちら、ひょっとして、ジュリアちゃんと一緒のグループの・・・」
乃菊の顔を見て、察しがついた女将。
「あ、はい、菊野乃菊です。よろしくお願いします。いつもジュリアがお世話になてるみたいで・・・」
そう言うと、ジュリアがすぐに否定する。
「だから、違うってば。2回目だよ」
ジュリアが否定するのを見て、女将が助け船を出す。
「本当ですよ。でも、個人的な縁が出来たので、ジュリアちゃんは、もう常連さんと同じよね」
笑顔で言う女将に対して、余計にわからなくなった乃菊。
「え、それ、どういうことですか?やっぱり、常連って言うこと?いつの間に女将さんと、そんな関係になったの?」
乃菊は、ジュリアと女将の顔を交互に見て言う。
「まあ、それは、後でもいいから、何か注文して。お酒は、飲むでしょ」
ジュリアがはぐらかす。
「まあ、話しは後で聞くとして・・・。今日は、やけ酒が飲みたい気分なの。だから、日本酒にする。冷でいいです・・・」
乃菊は、やはり機嫌が悪いようだ。
「乃菊ちゃん、仕事で何かあったのかい?」
国也が聞く。
「おじさんなんか、知らなくていい!」
キツイ言葉である。
「あら、お若いおじさんなのね」
女将にもそう見える。
「あ、ええ、まあ・・・」
理由はあるけれど、長くなるので通過。
「本当は、ご夫婦だったりして・・・」
乃菊もジュリアも、そして、当然国也も驚いた。
「ま、まさか、女将さん・・・」
ジュリアが否定する。
「あら、冗談ですよ。菊野さんもアイドルですものね」
三人は、ホッとする。
「ター君、あと2時間くらいで来ると思うわ」
女将が、ジュリアに小声で言う。
「あ、はい、大丈夫です・・・」
ジュリアは、はにかみながら答えている。
「ター君?誰のことなのかな?今日は、その件で連れて来られたのかなあ・・・?」
乃菊と国也は、ジュリアの顔色を窺う。
「まあ、いいじゃない。さあ、飲みなさい、やけ酒・・・」
ジュリアが、女将から出された冷酒の入ったグラスを、乃菊の前に差し出す。
「これも、食べてみて」
女将が、お酒と一緒に出したお通しを、乃菊に勧めるジュリア。
「女将さんが、みずえ、さん、なんですか?」
乃菊が聞いてみた。
「そうよ、よろしくね」
女将が笑顔で答える。和服にカッポウ着姿と、笑顔が素敵な美人女将である。
「みずえさんと、ター君か・・・。ああ、美味しい!」
美味しいものには、反応が早い乃菊である・・・。




