ジュリアの誘い
初夜の翌朝・・・。
「ん、これは?」
腕に当たった柔らかいもの、それは・・・。
「これは、まずい・・・。アイドルを襲ってしまいそうだ」
国也は、裸で寝ている乃菊にしっかり布団を掛け、ベッドから抜けだす。
「この可愛らしい寝顔を見ているだけで、僕は、幸せだよ・・・」
国也は、ベッドの横に座って、寝ている乃菊の顔を見る。
「本当に、この子と夫婦になったんだ・・・」
まだ信じられない。一緒に暮らすことには、もう慣れていたが、こうして同じ部屋のベッドで、これから毎日、夜を共にするなんて、未だに信じられない国也である。
目の前にいる、大人のようで、少女のような娘は、テレビにも出演して、CDも売り出していて、マスコミの標的にもなる、アイドル歌手なのだ。
「大事にしなくちゃ・・・」
国也は、布団に隠れている身体を想像することもなく、ただ、特権である、欧米式の挨拶をするため、上半身を乗り出し、乃菊の頬にキスして、部屋を出て行く。
「では、また来週!」
パッシー銀砂が締めて、番組が終了。出演者たちが、スタジオを出て行く。
「パッシーさん!」
乃菊がパッシーに声をかける。
「あ、何?」
乃菊に声をかけられ、人目を気にしながらソワソワするパッシー。
「この頃、食事に誘ってくれませんね」
パッシーは、苦笑いする。
「あ、はは、ちょっと忙しくてね・・・」
パッシーの足は、この場からすぐにでも退散したいように、落ち着きがない。
「じゃ、また暇だったら、誘ってくださいね」
乃菊は、残念そうに言う。
「あ、ああ、暇だったらね。ちょっと急いでるんで、またね・・・」
そそくさと行ってしまうパッシー。
「なんだ、つまんない・・・」
乃菊は、一人取り残されてしまった。
「のぎちゃん!」
みおんだった。
「何、パッシーさんとデートの約束?それって、浮気じゃないの?」
みおんがイタズラっぽく言う。
「食事に誘ってくれないかなって、思ったんだけど、断られちゃった」
記事のことをほとんど気にしていない乃菊、パッシーとは、大違いだ。
「そりゃあ、マスコミにこっ酷く叩かれたから、無理もないでしょ。のぎちゃんと付き合うには、相当な覚悟がないと・・・」
「そうなの?残念だなあ・・・」
その言葉に、みおんは驚く。
「それじゃ、やっぱり浮気じゃないの。のぎちゃん、どうしたのよ?」
みおんは、冗談のつもりだったが、そうはいかない状況である。
「別に・・・」
乃菊は、歩きだす。
「国也さん、来てるんでしょ。そうか、もちろん国也さんと一緒にって思ってたんだよね」
みおんは、乃菊について行く。
「おじさんとなんか、一緒に行かないよ・・・」
乃菊の返事に、やったな、と思うみおん。
「もう夫婦げんかしてるの?」
みおんは、追及する。
「してないよ、あんな鈍感な人と・・・」
乃菊は、明らかにふくれっ面である。
「どうしたのよ、あんなに一緒になりたかった相手なのに・・・」
夫婦喧嘩は犬も食わない。とは、済ませられないみおん。
「まあ、何があったかは聞かないけど、早く、仲直りしなさいよ・・・」
そう言って、乃菊の顔色を見るみおん。
「ねえ、みおんは、田沢さんと、あれ、した?」
何のこと?みおんは、乃菊の質問の意味がすぐにはわからなかった。
「あれ・・・?」
乃菊は、みおんに耳打ちする。
「ええ、エッチ!?」
思わず大きな声を出してしまうみおん。乃菊は、慌ててみおんの口を塞ぐ。
「そんな大きな声で言わないでよ・・・」
乃菊は、辺りを見回す。
「したの?」
乃菊は、再度聞く。
「・・・」
みおんは、手を離すように合図する。
「あ、ごめん。こんなこと聞いちゃ、駄目かな・・・?」
乃菊は、手を離して言う。
「私たちは、もう付き合い長いから・・・」
乃菊は、みおんを凝視する。
「そんなに見ないでよ。正直、結婚する前からだよ・・・」
恥ずかしそうに言うみおん。
「ううう・・・、羨ましい!」
乃菊は、泣いたふりをする。
「まあまあ、のぎちゃんたちは、そんなことだけじゃなく、もっと強く結ばれてるんだから、とにかく、国也さんを大事にしなきゃね。だから、他の人と遊んだりしちゃいけないよ」
みおんは、いいアドバイスが出来たと、一人満足する。
「そんなこと、じゃないよ!私は、早くエッチがしたいの!」
今度は、みおんが慌てて乃菊の口を塞ぐ。
「コラ、誰かが聞いてたらどうするの・・・」
みおんは、乃菊の手を掴んで楽屋へ連れて行く。
「あああ・・・ん、したいよ・・・」
みおんの足が速くなる・・・。
「菊野ちゃん、これから暇?」
楽屋を出ると、ジュリアが声をかけてきた。
「うん、暇、暇!」
乃菊は、喜んで誘いに乗る。
「おじさんも一緒だったよね。連れて来ていいよ」
今日の乃菊には、余計な気遣いだった。
「えっ、おじさんも?私だけでもいいよ」
本音を言う乃菊。
「駄目よ、新婚さんを引き離したくないから、私・・・」
ジュリアは、偉い!
「別に、気にしなくてもいいのに・・・」
乃菊は、下を向いて呟く。
「じゃあ、6時に駅で待ち合わせ、いいね?」
ジュリアは、笑顔で確認する。
「OK!」
乃菊も無理矢理笑顔で返事をする。




