花丸カレンダー
カレンダーの26日だけに、赤く二重丸が書かれている。
「もうすぐだあ。はあやあく、来い来い、ふふふふふ」
今月に入って毎朝、乃菊は、部屋のカレンダーを見て、この調子である。
「乃菊、遅れるから、駅まで送って行くよ!」
国也が、乃菊の部屋の扉を開けて、声をかける。
「はーい。今行きますう・・・」
乃菊は、引き出しから、赤いマジックを取り出し、カレンダーの26日に書き加える。
「やっぱり、花丸でなきゃ!」
カレンダーの26日だけ、花丸になった・・・。
「今日の大人少女23からのコメンテーターは、菊野、乃菊さんです!」
メインキャスター席に座る、アシスタントの女子アナ曽与風みどりが、ゲスト席の乃菊を紹介する。
「よろしくお願いします」
この月から始まった、テレビ東海道の夕方4時からのニュース&情報番組“フォーピーエム”に、大人少女23のメンバーが、隔週ではあるが、月曜日から金曜日まで一人ずつ、コメンテーターとして出演する。
この日、乃菊が初めて担当となったのである。
「今日の特集は、最近結婚願望のない若者が増えたことのリポートですから、月刊ウェディングラブの編集長に来て頂きましたが、大人少女23のメンバーの中でも、一番スキャンダル記事の多い菊野さんですから、若者の一人としていろいろ伺いたいと思いますので、よろしくね」
毒舌で知られる局アナ河野井夢太郎が、含みを持たせた言い方をする。
「はい、スキャンダル担当として、意見を言いたいと思います」
乃菊は、昨日までのメンバーとの対応の違いを感じて、闘争心が湧いていた。
「のぎちゃん、大丈夫かな?誘導尋問されないかな?」
亜美は、事務所の中をうろうろしながら、テレビを見ている。
「刑事じゃないんだから、誘導尋問なんてないよ」
ソファに座る田沢が、笑って言う。
「あのアナウンサー、胡散臭い顔してるでしょ。昨日、嫌な奴だって思ったの。私、あの手の顔は、嫌いなんです」
前日担当だった亜美は、その場で自分の嫌いなタイプだと、感じ取っていたのだ。
「これから何度もお世話になるんだから、少しはいいとこ探しなさい」
田沢と並んで座っているみおんも、落ち着くようにと、指でソファを指さして、座るように促す。
「絶対、のぎちゃんを陥れようと、何か企んでいそう・・・」
落ち着かない亜美ではあるが、とりあえずソファに座る。
「念のため、マネージャーと一緒にジュリアと真阿子も、見学に行かせてるから、もしもの時は、何とかしてくれるよ」
田沢も心配してるんだ・・・。
「じゃ次は、お待ちかねの今日の特集です」
なぜかニヤニヤしている河野井。若手アナウンサーが出て来て、最近の結婚事情についてのリポートをする。
「馬鍋編集長は、この現状をどう思いますか?」
河野井からの質問に、馬鍋は、データの書かれたボードを出して説明する。
「じゃあ、若いわりにはスキャンダルの多い菊野さんは、結婚についてどう思いますか?」
乃菊には、攻撃的なたとえをつけて言う河野井。
「私は、子供の頃から結婚願望が強いです。だから、今の若い人たちでも、実際は、結婚したいんだと思います」
乃菊の本音である。
「で、今、結婚したい人がいるんですか?」
河野井の質問に、隣の曽与風も当惑した表情である。
「なんで、あんなこと聞くのかなあ!」
ジュリアは、ディレクターの後ろで見学していたが、河野井の質問に腹を立てている。
「スクープのターゲットにしてるみたい」
真阿子が言う。
「話題になりたいのね。自分が聞きだしたって・・・」
ジュリアは、腕を組む。
「アイドルでなかったら、もう結婚してるかもしれませんね・・・」
そう言った乃菊は、ジュリアの姿を見る。すると、ジュリアが、口の前で親指と人差し指をくっつけて、横に引く。
「それは、特定の人がいるってことですかね?みんなが知りたがってますよ、きっと・・・」
さらにプライベートに入り込もうとする河野井。
「・・・」
乃菊は、少し考える。
「乃菊ちゃん、言わなくていいよ」
真阿子が呟く。
「あっ!」
曽与風が何かに気づき、横へ逃げる。
「うわっ!」
河野井は、腰をかがめる。
バタン!と音がして、セットの壁がメインキャスター席に倒れ、河野井の姿が見えなくなる。
「大丈夫ですか?」
曽与風が声をかけると。河野井が自分で壁を持ち上げ、立ち上がって来た。
「私は、不死身です。と言うか、こんなセットじゃいかんでしょ!」
本番中に、スタッフに怒っている河野井。
「これは、菊野さんのファンの気持ちじゃないですか?」
馬鍋が笑って言う。
「菊野さんに追及するからですかね。怖いですね、菊野さんのファンは・・・」
まだ、厭味ったらしいことを言う。
「私のファンは、優しい人ばっかりですよ。でも、復帰会見の時も、度の過ぎた質問をした記者さんに、天罰が下ったみたいですけど」
乃菊は、笑みを浮かべながら話す。
「怪我がなくて良かったですね。それでは、次の話題に移ります」
ディレクターの合図で、曽与風が番組を進行する。
「ほら、あの人、乃菊ちゃんを睨んでる。話が聞けなくて、悔しがってるのよ」
亜美は、とことん河野井が気に入らないようだ。
「とにかく怪我がなくて良かったけど、ビックリ何とかって番組に、取り上げられそうね」
みおんは、ホッとしている。
「真阿子、良かったね。話が切れて・・・」
ジュリアは、ホッとして真阿子を見る。
「乃菊ちゃんは、私が守る・・・」
真阿子が呟く。
「何?」
ジュリアが聞く。
「何でもないよ」
真阿子が答える。
その後は問題もなく、無事番組が終了した。
・・・誰にとって・・・?
「良かった。余計なこと言わなくて・・・」
十分余分なことを言っていると思うが・・・。
「これも、花丸を書いたおかげかな!」
乃菊は、笑顔でジュリアたちのところへ向かった・・・。




