いよいよ結婚!
その夜・・・。
「ただいまあああ・・・」
乃菊が玄関を開けた。
「何だよ、言ってくれれば、駅まで行ったのに!」
国也が走って来た。
「はい、これ・・・」
乃菊が、飲んで帰って来たお父さんのように、お土産を渡す。
「それと、後で部屋に行くからね」
含みを持たせた言い方をする乃菊。
「何?」
国也は、今聞きたい。
「あ、と、で・・・」
乃菊は、ブーツを脱いで、居間へ向かう。
「雲ネエ、お茶漬け食べたい」
乃菊は、居間にいた雲江に、笑顔を浮かべて注文をする。
「あいよ・・・。お風呂入って来なさい」
10時を過ぎていると、こんな感じの大野家である。
「僕も食べようかな」
国也も居間のソファに座る。
「乃菊ちゃんの分しか用意しないよ。晩御飯食べたんだから、欲しかったら、自分のは自分で用意しなさい」
差別だ!と国也は思う。
「私も食べようかな。仕方ないから、ついでに作ってあげるよ・・・」
ついでに・・・。
「ありがとう。優しいお母様・・・」
口だけである・・・。
「国也様!」
風呂場の方から、乃菊の呼ぶ声が聞こえる。
「またか・・・」
乃菊が脱衣所や風呂場で呼ぶ時は、いい記憶がない国也。
「行っといでよ」
雲江は、お茶漬けの用意をしながら言う。
「仕方ないなあ・・・」
普通なら、浴室で女性から呼ばれれば、嬉しいはずだが・・・。
「何?」
事件ではないことを祈りつつ、脱衣所の扉を開けると、国也は、驚いて扉を閉めた。
「どうして、閉めちゃうのよ!」
バスタオルを巻いた乃菊が扉を開ける。
「は、裸じゃないか!」
国也は、乃菊を見ない。
「勘違いしないで、よく見てよ。水着着てるんだから」
乃菊は、バスタオルをとって、国也の前へ飛び出す。
「そ、そんなに寄るなよ・・・」
水着であっても、ほとんど肌を露出している乃菊。国也は、まだ乃菊の裸、いやそれに近い姿を、まともには見れない。
「今日、これで撮影して来たの。衣裳だったけど、貰ってきちゃった。どう・・・?」
ポーズをとる乃菊だが、国也は横目、さらに薄眼で見るのが精一杯である。
「そんな裸みたいな姿を撮られたのかい?・・・勿論、女性カメラマンだよね?」
国也は、保護者としてそこだけは譲れない。
「んんん、今日は、男の人だったよ。結構、いろんなポーズ撮られちゃった!」
笑顔で答える乃菊。
「何で、そんな格好を男の人に見せるんだよ!田沢さんを呼んで来い!」
国也は、頭の硬い親父のように腹を立てる。
「わかりました。もうこんな格好で撮影はしません」
乃菊は、その場で水着を脱ぎだす。
「待った!それでも着ないよりはマシだよ。よく見ると結構似合ってるね・・・」
裸になられては困る国也。我慢して取り繕う。
「そうでしょ!最初は私も、こんなの裸と一緒じゃないのって、思ったんだけど、鏡の前に立ったら、可愛いし、セクシーだし、大人少女には、ピッタリだって思ったんだ。もっと見て!」
国也の前でポーズをとる乃菊。
「国也様には、特別サービスだよ」
国也は、鼻血が出そうである。
「早くお風呂へ行きなさい。お茶漬けの用意してるから・・・」
そうだと言わんばかりに、脱衣所へ戻り、水着を脱いで浴室へ入る乃菊。
「・・・」
その様子を見てしまった国也は、鼻を摘みながら居間へ戻って行く。
「そうなんだ。ありがたいな、普通なら自分たちで準備するのに・・・。今度一緒に名古屋へ行ったら、みんなにお礼を言うよ」
国也は、結婚式の計画書を見て、ジュリアたちに感謝した。
「うん、みんな頑張ってくれたから、ちゃんとお礼してね」
乃菊は、こころから嬉しそうに言う。
「お金もこの程度で済むなら、何回もしたいね」
続けて笑顔で言う。
「何度もするもんじゃないだろ」
国也がすぐさま指摘する。
「国也様となら、何度してもいいよ」
乃菊が、国也の膝枕で横になり、両手を握りながら言っている。
「あっ・・・」
乃菊が眉間にシワを寄せる。
「どうした?」
国也が、乃菊の顔を見る。
「な、何でもない・・・」
目の前が暗くなっていたのだが、国也に心配をかけたくない乃菊は、本当のことを言えなかった。
「顔色が悪いぞ」
国也には、そう見えた。
「何でもない・・・」
そう言っている乃菊だが、国也の顔さえ見えていなかった。
「私、死んじゃうのかなあ・・・」
心の中で、乃菊は思った。
「もう寝ようか?」
国也がそう聞くと、乃菊も頷いた。
「さあ、起きて・・・」
国也が膝の上に乗っている乃菊の頭を持ちながら、肩にも手をやって身体を起こす。
「あっ!」
起こしたはずの乃菊の身体が、国也の支えがなくなると、バタンと倒れてしまった。
「乃菊、大丈夫か!?」
国也は、慌てて乃菊を抱える。
「大丈夫だから、今日は、ここで寝かせて・・・」
乃菊が目を閉じたまま言う。
「すぐに布団を敷くから、ここで寝なさい」
国也は、乃菊を横にして、押し入れの布団を取り出す。追及はしないが、国也にも乃菊の異常がわかっていた。
「医者に連れて行こうか?」
国也は、布団を敷きながら確認してみた。
「大丈夫。ここに居たいだけだから・・・」
国也は、乃菊を抱き上げ、布団に寝かせる。
「何か飲むかい?」
乃菊は、返事をしない。
「もう寝たのかな?」
寝息を立てて眠っているように、静かに横になっている乃菊。国也は、優しく毛布を掛ける。
「事故の後遺症なのかも・・・」
国也は、横に座って考えた。最近の乃菊の異変は、ただ事ではなさそうな予感がして、一抹の不安を感じていた。
「・・・」
乃菊の手が、静かに伸びる。
国也は、その細くて暖かい乃菊の手を、そっと握る・・・。




