お城へ行こう
「また、嫌な夢を見たな・・・」
国也は、念のために、乃菊の部屋へ行く。
「乃菊、起きてるか・・・?」
小さな声で聞く国也。布団の乃菊は、ピクリとも動かない。
「乃菊、お城へ行く日だよ・・・」
この日は、乃菊が仕事の合間の休みで、雲江からも許可をもらって、二人でお城へ行くことにしていた国也たち。
「今、何時・・・?」
目の開かない乃菊は、国也に確認する。
「6時だよ」
乃菊は、布団に丸まる。
「じゃあ、後10分寝させて・・・」
布団の中から言う乃菊。
「うん、わかった」
国也が動こうとすると、手を掴まれた。
「一緒に寝よ・・・」
乃菊は、そう言って、国也の手を引っ張る。
「キャッ!」
国也が勢い余って、乃菊の上に倒れてしまい、大きな声を出しそうだった乃菊は、慌てて自分の口を塞ぐ。
「ごめんなさい。また雲ネエを呼んでしまうところだったね」
乃菊は、目を閉じたまま笑う。
「きっと起きてるからね」
乃菊は、国也の顔を両手で挟んで、キスをする。
「の、乃菊・・・」
戸惑う国也。
「国也様・・・、する?」
衝撃の言葉が・・・。
「な、何を・・・?」
コンコン。ノックをする音。
「乃菊ちゃん、お城へ行く日だよね。国也を起こして、朝食食べたら、早く行きなさい。天気がいいわよ」
雲江である。
「は、はい。すぐに行きます」
雲江は、返事を聞くと、階段を下りて行く。国也の部屋の扉は、開いたままだった・・・。
「行こうか」
「また今度にするね・・・」
「何を・・・」
「聞くな!」
乃菊は、起き上って、小さな箪笥から、下着と外出着を取りだすと、パジャマの上着とズボンを脱ぎ捨て、走って出て行く。
「お先っ!」
「!!!」
見てはいけないものを見てしまったような罪悪感に、呆然とする国也。
「乃菊・・・」
国也は、乃菊の部屋に取り残されて、目の前で見た乃菊の姿を、思い出そうか、忘れようか、一人悶々とするばかりだった・・・。
「乃菊ちゃん、昨夜の残り、チンして」
台所に立つ雲江と乃菊。
「これですか?」
「うん、それ」
返事を聞いて、乃菊がラップのかかった器をレンジに入れる。
「一晩一緒だったの?」
「えっ?」
突然の質問に驚く乃菊。
「ち、違います。本当は、国也様が起こしに来てくれて、部屋にいただけなんです」
「やっぱり、いたんだ国也」
誘導尋問だった。
「国也は、何もしてくれなかったんだ。毎日、一つ屋根の下にいるのに・・・」
雲江も大胆な会話をする。女同士は、こんなものなのか・・・?
「私に魅力がないのかなあ?」
「ご飯をよそって・・・」
雲江が卵焼きを作りながら言う。
「みそ汁の具は、何ですか?」
「今日は、里芋とお肉と人参・・・かな」
乃菊は、鍋を覗き込む。
「美味しそう!」
雲江が卵焼きを皿に盛る。
「乃菊ちゃんは、最高の女の子だよ。私も大好きだもん」
「ありがとう。国也様も言ってくれないかな、そんなふうに・・・」
乃菊が口を尖らせる。
「あの子は、口下手だからね。乃菊ちゃんの前では、なかなか言えないんだよ」
「だから、私から迫ってるのに、イマイチノーリアクションなんです」
みそ汁の味見をする雲江。
「乃菊ちゃんは、欲求不満状態かな?」
「だって、二十数年も操を守って来たのに、応えてくれないんだもん、国也様・・・」
「どお?」
雲江が、お玉にすくった汁を、乃菊に味見させる。
「あちっ!けど、美味しい!」
「じゃあ、出来上がり。テーブルに持って行こう」
二人は、朝食をダイニングテーブルに運ぶ。
「もうすぐだよ、ゴールインは・・・。焦らないでで行こうよ」
乃菊は、笑顔になる。
「はーい」
元気よく運んで行く乃菊。
「乃菊ちゃん、国也を呼んで来て」
「はーい!」
乃菊は、2階に上がって国也を呼びに行く。
「行ってきまーす!」
助手席から、雲江に手を振る乃菊。
「お土産頼むね!」
雲江も手を振る。
「はーい」
国也の運転で、二人のドライブデートがスタートした。
「さあ国也様、お城へ行こう!」
乃菊が右手を上げて、気勢をあげる・・・。