心配の種
「はい、手を繋いで、こっち見て」
カメラマンの指示で、乃菊とみおんがポーズをとる。少し露出度の高い衣裳を着た二人は、仲良くソファやベッドのあるスタジオで、ライトを浴びながら、ジャケット写真の撮影に臨んでいる。
「はい、オッケイ!休憩しよう。背景変えて、30分後に再開、よろしく!」
乃菊とみおんは、控室へ向かう。
「みおん、指、大丈夫?」
乃菊は、この前のみおんの怪我が気がかりだったが、撮影前に話す時間がなく、やっと話しかけられたのだ。
「大丈夫だよ、こんなの・・・」
数針縫う怪我だったが、この日は、もう絆創膏を貼っているだけだった。
「でも、無理しちゃいけないよ」
乃菊は、怪我だけが心配ではなかった。
「私は、大丈夫だから、こんな怪我。それより、のぎちゃんの方が心配なんだよ。今日は、どうしておじさんに付いて来てもらわなかったの?」
みおんの怪我は、乃菊がふらついたのが原因だから、みおんだけでなく、メンバーみんなが心配していることなのだ。
「さあ、座って話そう」
控室に入った二人は、ソファに座る。
「実は、おじさんには、話してないんだ・・・」
当然、国也に心配をかけたくない乃菊は、迎えを頼まず、真阿子に名古屋駅まで送ってもらい、電車に乗って一人で帰った。そして地元の駅までは、車で迎えに来てもらったものの、楽屋での出来事は、一切内緒にしていたのだ。
「駄目じゃない!私がおじさんに言っておくから!」
みおんが乃菊を叱りつける。
「やだ、言わないでみおんちゃん。お願い・・・」
乃菊が手を合わせて、拝むように頼む。
「じゃあ・・・」
みおんは、並んで座っている乃菊の顔を、両手で掴んで引き寄せる。
「な、何?」
乃菊は、戸惑う。
「キスしよ・・・」
みおんは、口を尖らせ、乃菊の唇に合わせる。
「乃菊、お前は、俺の女だ」
みおんは、乃菊の頭を胸まで引き寄せて言う。
「嬉しいわ・・・」
乃菊も応える。
「のぎちゃん、OKしないでよ。本気になったらどうするの・・・。私たち、もうすぐ男の人と結婚するんだよ」
みおんは、冗談から駒が出る思いになってしまう。
「じゃあ、結婚しても、時々会ってくださる?」
乃菊が調子に乗ってしまった。
「もうやめて・・・」
みおんは、乃菊を抱きしめたくなる。
「私のこと、嫌い・・・?」
みおんの耳元で囁く乃菊。
「好きだよおおお・・・」
みおんは、そう言いながら、立ち上がって乃菊から離れる。
「もう終わり!」
みおんは、両手でバツを作る。
ガチャッ。
「おはよう!」
みおんが振り返るとジュリアが入って来た。
「おはようございます。私もいるよ」
亜美も来た。
「おはよう」
みおんは、素知らぬ顔で、ソファに座る。
「何か賑やかだったみたいだけど、何してたの?二人で・・・」
ジュリアが名探偵のような素振りで、二人に迫る。
「チューしてたの」
乃菊があっさりばらす。
「のぎちゃん!」
みおんが真っ赤になる。
「やだー、のぎちゃん、私にもして!」
嫉妬する亜美が、乃菊のところへやってくる。
「結婚式の予行演習だよおおおん!」
乃菊が笑う。が、みおんは、笑えない・・・。
「これが、その当日のプランと見積もりだから、しっかり見ておいて」
ジュリアが、バッグから大きな封筒を取り出し、乃菊とみおんにそれぞれ渡す。
「これは、三嶋さんの分だから、のぎちゃんが渡してね」
もう一つの封筒を乃菊に手渡す。
「ウェディングプランナーさんと一緒に、一所懸命考えた計画書だからね!」
亜美が胸を張りながら言う。
「ありがとう。大変だったでしょ、こんなことさせちゃってごめんね」
みおんは、礼を言いながら、謝っている。
「ジュリア、亜美ちゃん、ありがとう」
乃菊も礼を言う。
「いいんだよ。二人のためだもん、頑張れちゃうよ」
ジュリアは、いつも頼もしい。
「私もだよ!」
亜美の笑顔は、気持ちを明るくしてくれる。
「ありがとう」
乃菊とみおんは、もう一度礼を言う・・・。
「あ、そうだ。これ、スタッフさんが渡してくれって頼まれたの。次の撮影の衣裳だって・・・」
亜美が、紙袋をみおんに渡す。
「やだ、これ衣裳じゃないでしょ」
やけに生地の少ない衣裳だった。
「ヒモ?」
乃菊が摘む。
「ビキニでしょ」
ジュリアが笑う。
「ねえねえ、着てみて!
亜美がビキニを広げて、乃菊とみおんに迫る。
「やだ、もう帰っていいよ」
みおんが、二人を追い出そうとする。
「いいじゃない。二人のために頑張ったんだから、サービスしてよ!」
ジュリアも迫る。
「それはそれ、これはこれ、恥ずかしいよ」
乃菊とみおんは、ソファまで追いつめられ、並んで座る。
「さあ、カメラマンが待ってるよ。仕事だよ、これは・・・」
ジュリアと亜美が、ビキニを二人の前に差し出す。
「ええん、これ、ジャケットの撮影だよね・・・」
泣きべそをかく二人。
「もちろん」
ジュリアと亜美が頷く。そして、乃菊とみおんは、観念する・・・。