病気?
「聞いてた?」
電話を切った国也は、隣の布団で、頭に濡れたタオルを乗せて寝ている乃菊の顔を見る。
「うん」
夕方、仕事の合間に受付の乃菊の様子を見に行くと、椅子に座ったまま、カウンターに頭をもたれかけて寝ていた。それを見た国也が、乃菊の額に手をやると、明らかに熱があった。
「何でもない」
と言う乃菊を、母屋に運んで寝かせた。そして頭を冷やし、雲江が作ったお粥を食べさせて、今まで寝ていたのだ。
「大丈夫かい?」
国也が、タオルを取って額に手をやる。
「熱は、下がったみたいだね」
乃菊が、国也を見つめて笑顔を見せる。
「何だい・・・?」
国也が、何も言わない乃菊に問いかける。
「何だか、幸せ・・・」
乃菊は、手を伸ばして、国也の手を握る。
「病気なのに幸せなの?」
国也は、聞いてみる。
「だって、こんなふうに世話してくれるんだもん。私は、一人じゃないんだって、国也様がいるんだって思っただけで嬉しいの・・・」
国也は、乃菊の手を握り返す。
「でも、心配だね。みおんに何か無ければいいんだけど・・・」
病気の乃菊が、みおんの心配をする。
「僕たちがいるから事件が起こるのか、みんなを守るために僕たちがいるのかって、考えたんだけど、乃菊を見ていると、大事な仲間を守るために、僕たちがいるんだって思えるよ。だから、病気になんかならないでくれよ」
国也が、珍しく思いを伝える。
「たいしたことないよ。私も大事な友達を守りたいの。それと一緒に、国也様と結婚して、家族と暮らしたい。だから、元気になるもん・・・」
国也も笑顔になる。
「何だか、甘いものが食べたいな・・・」
また始まった・・・。
「太っちゃうぞ」
当然言われる。
「今日、お粥しか食べてないもん・・・」
そう言えば、太るからって言い、昼食もおやつも口にしなかった乃菊。具合が悪いのを隠していただけなのだが、調子が戻ればやっぱり食欲も回復するようだ。
「亜美ちゃんに知られるとと、のぎちゃんに手を出すなって怒られるから、下に行くよ」
国也は、立ち上がる。
「やだ!私も行く!」
乃菊は、起き上ろうとするが、めまいがしてまた横になる。
「まだ無理しちゃいけないよ。何か持ってくるから、寝てなさい」
国也は、乃菊を寝かせて、部屋を出る。
「カムバック、国也様・・・」
乃菊が手を伸ばす。
「あ、ごめん。お風呂も入って来るから」
国也が、扉を開けて言う。
「やだ、すぐに来て!」
わがまま乃菊になった。
「10分待ってくれ。お菓子も持ってくるから」
国也が譲歩。
「10分なんて長い!やっぱり一緒に行く!おんぶして!」
ああ・・・。
「乃菊は、いつも1時間くらい入ってるじゃないか」
確かにそうである。
「やだ、離れたくない!」
足をバタつかせる乃菊。
「じゃあ、一緒に入るかい?」
乃菊の足が止まる。
「やだ、恥ずかしい・・・」
大人しくなった。
「じゃあ、我慢して待ってなさい」
国也は、行こうとする。
「すぐに帰って来て、添い寝してね」
真面目な顔をして言う乃菊。
「子供か!」
国也は、呆れて階段を下りて行く。
「おぎゃあああ・・・」
赤ちゃん乃菊の誕生だ・・・。
「・・・」
耳を塞ぐ国也。
「おぎゃあああ・・・」
鳴き声が止まない・・・。
「国也、赤ちゃんの泣き声が聞こえなかったかい?」
居間にいた雲江が、国也に聞く。
「近所の赤ちゃんじゃないの・・・」
「近所に、赤ちゃんのいるお宅あったかしら・・・?」
国也は、答えずに風呂へ向かう。
「おぎゃあああ・・・」