気になる?
みおんと亜美が、ロケの当番の日だ。
二人は、ジュリアの住んでいる街、都代田市を訪れていた。
「みおんちゃん、どうしたの?」
撮影は、順調に進んでいたが、みおんの様子がおかしいのに気づいていた亜美は、カメラのない時を選んで、みおんに聞いてみた。
「誰かに見られているような気がするの・・・」
と言っても、撮影について来る見物人ではないようだ。
「どんな人・・・」
亜美は、気づかれないように、自然な動作で辺りを見回す。
「よくわかんないなあ・・・」
人通りの多い商店街の朝市での撮影。亜美とみおんの他にも大勢いて、特定の誰かを見つけ出すのは、至難の業だろう。
「ADさんもカメラマンさんもいるし、私も守ってあげるから・・・」
最近の亜美は、実に頼もしい。リーダーのみおんさえも勇気づける。
「気のせいかもしれないから、気にしないで・・・」
不安を感じながらも、見守るファンや見物人に笑顔を見せるみおん。
「私が何とかする・・・」
乃菊信者の亜美は、以前、乃菊が自分を勇気づけてくれたことだけでなく、みおんをかばって怪我をしことも、崇拝する要因になっているため、今の状況は、自分も乃菊のように、みおんを守ろうとするモチベーションになっているのだ。
「こちらのお店は、お野菜がいっぱいあります」
次のお店を紹介するみおん。
「地元で獲れたお野菜ですか?」
お店のおばさんに聞くみおん。
「そうだよ、買ってって・・・」
おばさんの勧めで、みおんは野菜を選ぶ。亜美も並んで座り、野菜を見ながら辺りを見る。
「あっ!」
心の中で声を出す亜美。確かにみおんを見ているだろう女がいる。その目は、好意の目ではない。鬼のように睨みつけている。
「なぜ?」
亜美は、男かと思っていた不審人物が、女であることに驚くと同時に、なぜみおんをそんな目で見るのか、その理由が気になった。
「亜美、どうしたの?」
みおんに呼ばれて、お店に視線を戻した。
「私も買って行こうかな・・・」
亜美も野菜を選ぶ。
「あ、いない・・・」
女のいた方へ視線を向けたが、その姿はなかった。
「ありがとうございます。今晩、料理してみます」
割安で買えた上に、おまけもしてくれて、ポリ袋が一杯になった。その袋を持ち、次の店へ向かう二人。
「もういないと思うよ、みおんちゃんを見てた人」
亜美が小声で言う。
「本当にいたんだ。亜美は、買い物中も気にしててくれたんだね、ありがとう」
亜美が、歩きながらみおんの腕を掴む。
「何かあったら、私が守るからね」
真剣な顔をして、胸に手を当てる亜美。
「頼もしいね、亜美様は・・・」
みおんは、笑顔で答える。
「乃菊、顔色が悪いよ。今日は、完全休養にしなさい」
国也は、エプロンをして仕事を始めようとする乃菊を止めた。
「そうだね、確かに顔色悪いね。私と国也で大丈夫だから、休んでなさい」
雲江も、休むように言う。
「嫌だ。二人と一緒にいたいんだもん!」
駄々をこねる乃菊。
「無理したら、ホントに休まなきゃいけなくなるぞ」
国也も譲らない。
「大丈夫だもん。国也様より若いんだから!」
乃菊も負けない。
「病気だったらどうするんだ!若くたって辛いだろ」
本当に心配だから、国也も折れない。
「まあまあ、二人ともやめなさい」
雲江が間に入る。
「乃菊ちゃん。今無理して身体を悪くしたら、国也がお嫁さんにしてくれないかもよ」
一番弱いところを突く。
「やだ、ごめんなさい。ただ、一緒にいたいだけだから・・・」
乃菊が泣きべそをかきそうだ。
「じゃあ、店番を頼むよ。座っていればいいし、すぐに様子も見られるし」
国也も譲歩した。
「やったあ!じゃあ、看板娘が店番に行きまーす!」
途端に元気の出た乃菊は、喜んで作業場と隣接する店の玄関側にある受付へ向かう。
「休憩の時は、私がお茶を準備しますから」
受付の出入り口から顔を出し、笑顔で二人に言う乃菊。
「子供みたいだな・・・」
そんな乃菊の可愛さが、何よりも好きな国也である・・・。
その夜、乃菊の携帯電話が鳴る。