プランニング
ジュリアと亜美が、ネットで調べた結婚式場へやって来た。
「絶対、絶対、ぜえええ、ったい、秘密にして頂けますか?」
亜美が念を押しながら、ウェディングプランナーに確認する。
「必ず、お守りします」
このミッションは、絶対にマスコミに流れてはいけない。二人は、そのことが第一として計画を立てようとしている。
「新婦様ですか?」
ジュリアが聞かれた。
「い、いえ、私じゃないです」
すぐに手を振って否定するジュリア。
「じゃあ、そちら様で・・・」
「違います!」
亜美もすぐさま否定する。
「絶対に外部に漏らさない約束が出来ましたら、連れてまいります」
ジュリアには珍しい、丁寧な語り口で言う。
「は、はあ・・・」
プランナーも戸惑い気味である。
「とりあえず、私たちが考えたプランがありますので、これを参考にして、実際の計画を立てて欲しいんですが・・・」
亜美とジュリアは、カバンから書面を取りだす。書面と言っても、おおよその内容に矢印やら、漫画のような絵が描いてあるだけなのだが・・・。
「3組様ですね。それぞれにご事情があると言うことで、会場は、関係者以外立ち入り禁止。撮影なし(こちらで手配)、列席者も限られている。チャペルで、入場は、組み合わせを変えて、牧師?神父?指輪、誓約書、キス、その他あれば・・・」
読み上げるプランナーの顔を、亜美とジュリアが神妙な顔をして見る。自分達の思いが伝わるかどうか、心配なのである。
「わかりました。当日をこの結婚式のみにして、休日扱いで、内密に行うことを、お約束致します」
二人は、プランナーの顔を凝視する。プランナーは、笑顔で応える。
「本当ですか、良かった・・・」
亜美もジュリアもホッとする。
「では、ドレスや礼服のサイズ合わせ等の準備が必要ですので、新郎新婦様には、スケジュール調整をお願いします。プランに関しては、お二人にご連絡をさせて頂きます」
亜美とジュリアは、ここでガッツポーズをする。
「ありがとうございました。よろしくお願いします!」
二人は、立ち上がって頭を下げる。
「キャーッ!」
乃菊が悲鳴を上げた。
「どうした?」
「乃菊ちゃん、何かあったの?」
国也と雲江が、慌てて脱衣所へやって来た。
「国也様、こんなにお腹が出て来ちゃった!ほら・・・」
そう言って、鏡に前で横向きになり、お腹を擦る下着姿の乃菊。
「出来ちゃったのかい?」
雲江が言う。
「何が?」
国也が聞く。
「ひょっとして、国也様の赤ちゃん?」
乃菊が言い出し。
「もうしちゃったのかい?」
雲江がまた言う。
「何を?」
国也もまた聞く。
「してない・・・」
乃菊が答える。
「僕は、何もしてないぞ!」
国也が憤慨する。
「そうなの、だったら国也の赤ちゃんって言ったのは?」
雲江が乃菊に聞く。
「だったらいいなあって・・・」
はにかみながら乃菊が言う。
「いいなあじゃないだろ。誤解されちゃうじゃないか」
国也が乃菊を睨む。
「それじゃあ、太ったのかな?」
乃菊は、国也の言葉を無視して、お腹を触りながら鏡を見る。
「病院食は、栄養バランスが良かったし、最近、暴飲暴食も頻繁にしてるし、甘い物も好き放題食べてるし、それに、歌でもダンスしてないから、当然の結果じゃないか・・・」
国也は、勝ち誇ったように言う。
「ははは、大正解!」
乃菊も調子に乗って言う。
「笑い事じゃないぞ。妊婦さんに間違えられるかもしれないし、ドレスも着られないかも。これは、大問題じゃないかな・・・」
国也が脅す。
「えええ、どうしよう、そんなの嫌だ。ねえ、今日から一緒に走ろう!」
乃菊が言う。
「誰と?」
国也が聞く。
「国也様・・・」
国也が横を向く。
「じゃあ、雲ネエ・・・」
乃菊は、お願いするように手を合わせる。
「今日は、腰が痛いなあ・・・」
雲江は、腰を押さえながら、居間へ向かう。
「ええん、見捨てないでえええ・・・」
乃菊が泣いたふりをする。
「まあ、今日は遅いから、明日からにすれば・・・」
国也も脱衣所を出ようとする。
「そうだね、スケジュールを見て、ダイエットプランを考えようかな。お菓子を食べながら・・・」
そう言って、パジャマを抱える乃菊。
「また食べるのかい」
国也が呆れて言う。
「今日だけ許して!」
乃菊は、パジャマを捨て、国也に飛びつく。
「こら、そんな格好で抱きつくなよ」
国也は、ビックリする。
「ポヨンポヨンして、気持ちいいでしょ」
乃菊は、わざと胸を押しつける。
「何してるんだよ!」
国也は、恥ずかしくなって逃げようとする。
「こら、未来の妻が誘惑してるんだぞ、男として応えてよ・・・」
乃菊は、尚も迫る。
「そのお腹、何とかしたらね・・・」
乃菊の力が抜け、しゃがみ込む。
「国也様、酷い。私が一番気にしてることを・・・」
乃菊が泣きべそをかく。
「あれ、さっき気がついたばかりじゃなかったかな?」
国也は、皮肉って言う。
「雲ネエ、国也様がいじめるのお。お仕置きして!」
乃菊が大声を出す。
「どうかな・・・」
国也は、乃菊を置き去りにして、居間へ戻る。
「ごめんなさい、見捨てないでえ、片口屋のお菓子食べてもいいから・・・」
手を伸ばして、国也を呼ぶ乃菊。
「覚えておけ、国也様。女の欲望は、果てしなく、しつこいんだぞ・・・」
腕を組んで胡坐をかき、国也の去った方向を睨んで、一人呟く乃菊だった・・・。