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異変の中の結婚

「ただいま・・・」

ロケが終わって店に帰って来た乃菊。裏口から作業場に入った。

「お帰り・・・」

国也と雲江が、作業をしながら返事をする。

「着替えてきたら、何か手伝います」

そう言って母屋に行こうとする乃菊を見て、雲江が声をかける。

「乃菊ちゃん、疲れてるでしょ、顔色が悪いよ。今日の仕事は、国也と二人で大丈夫だから、夕飯作るまで休んでいなさい」

雲江には、乃菊の体調が、顔を見るだけでわかるのだ。

「でも・・・」

乃菊は、それでも二人と一緒にいたい思いがある。

「母さんの言う通りにしなさい。仕事が終わったらすぐに行くから・・」

国也も、乃菊の身体には、気を使う。

「じゃあ、休んでいます」

乃菊は、肩を落として母屋へ向かった。


何か不安を感じている乃菊。身体の不調が心にも影響しているのだろう。

「あ、国也様の部屋で寝ちゃおう・・・」

乃菊は、階段を上がると、自分の部屋ではなく、国也の部屋へ入った。

「何か、面白いことないかなあ・・・」

国也の部屋を見回して、気分転換できる物を探す乃菊。

「ここは、どうかなあ・・・」

乃菊は、椅子に座って、机の引き出しを開ける。

「これ見てみようかな」

乃菊は、いくつかのメモリーを見つけて、パソコンの電源を入れる。

「何?秘密?」

メモリーを開くと、秘密と言う名のファイルが出て来た。

「国也様、私に秘密があるんだ・・・」

乃菊は、ファイルを開くことに躊躇する。もし自分の知らない国也の秘密があったとしたら・・・。見たいような、見たくないような。少し悩んだ乃菊だが、指がマウスをクリックしてしまう。

「えっ・・・」

ファイルの中は、また複数のファイルが入っていた。

「鐘川の乃菊ちゃん・・・」

クリックすると、乃菊の画像が現れた。

「これって、退院した時に行ったお城だ・・・」

懐かしく思って、画像を見る乃菊。

「綺麗に撮れてる。結構腕のいいカメラマンだ・・・」

乃菊は、他のファイルも見る。

「名古屋城?ああ、泣いた時のだ・・・」

他にも、レッスンの時やイベントの写真もあった。

「内緒で撮ってたのもあるんだ。こんなに私のこと見ていてくれたんだ・・・」

乃菊は、嬉しくなった。ファイルを閉じ、メモリーを引き出しに戻して、押し入れから、国也の布団を取り出そうとする。

「痛っ・・・」

乃菊は、頭に痛みを感じる。

「・・・」

乃菊は、布団を抱えたまま、後ろに倒れ、頭も打って気を失った。


「羽流希さん、一緒に暮らしませんか?」

アパートまで送ってくれた田沢を部屋に入れ、お茶を飲みながらみおんが言った。

「それって、結婚て言うことか?」

田沢が聞き返す。

「・・・」

みおんは、その言い方に黙ってしまう。

「そんなこと、みおんから言うな」

田沢は、怒ったように言う。

「ごめんなさい・・・」

みおんは、メンバーからの後押しで、意を決して言ったつもりだったが、田沢の反応に後悔した。

「独立してから、ずっと考えていたんだ。これから東京へも進出するから、みおんが帰って来る時の、新しい環境を作ってあげたいと・・・」

みおんは、田沢の言葉の意味を考えた。

「それって・・・」

田沢が、テーブルの上にある、みおんの手を握った。

「僕で良かったら、結婚してくれないか・・・」

田沢が、みおんの眼を見る。

「羽流希さん・・・」

みおんは、田沢のところへ回り、座っている田沢に抱きつく。

「公表は出来ないけど、一緒に暮らしたいんだ」

「はい、お願いします・・・」

みおんの眼から、涙が溢れた・・・。


「乃菊、いるかい?」

国也が仕事を終え、乃菊の部屋を訪れた。

「あれ?」

乃菊の部屋は、空だった。

「どこへ行ったんだ・・・」

国也は、自分の部屋の扉を開ける。

「乃菊!」

乃菊が押し入れの前で、布団の下敷きになって倒れていた。

「大丈夫か?」

国也がしゃがんで、乃菊の状態を抱える。

「国也様・・・」

乃菊が目を開けた。

「具合が悪いのかい?」

普通でないのは、聞かなくてもわかっている。

「何でもないよ・・・」

そう言う言葉に力がない。

「乃菊・・・」

国也は、乃菊がこんな時にでも、心配させないように、何でもないと返事をすることは読めていた。だから、乃菊を引きよせて抱きしめた。

「国也様、どうしたんですか?」

こっちのセリフだと、言いたかったが、国也は、黙って抱きしめていた。

「ねえねえ、国也様。ジュリアたちが、結婚しなさいって・・・」

乃菊が話を替えるように、国也の腕から離れ、向き合う状態で話し出した。

「我慢して来たんだから、ばれない様に内輪だけで、結婚式すればいいって言ってくれの。だから、私もみおんもその気になっちゃって、だから、いいでしょ、国也様と今すぐに夫婦になりたいの・・・」

捲し立てる乃菊。

「僕もそうしたいよ。だけど、乃菊のために世間が認めてくれるまで待とうかと思っていたんだ」

アイドルの結婚は、そんなに簡単なことではない。芸能人でない国也でも、そのことは、十分わかっている。特に乃菊の場合、メンバーの中でも注目されている。乃菊の仕事にも影響のある問題なのだ。

「私の一番大事な夢は、国也様と結婚すること。それが出来れば、アイドルの仕事も、店のことも一生懸命やっていけると思うの。真実は、世間に報告できなくても、大事なのは、結婚した私だからこそ頑張れる理由が生まれるんだって、それが幸せだって言えるの、わかってくれる?国也様・・・」

また、国也は、乃菊を抱きしめる。

「出来るのかなあ?結婚・・・」

乃菊との結婚は、国也の夢でもあった・・・。

「ジュリアたちが準備してくれるって言ってるし、信用できる人たちに、結婚が表に出ないように手伝ってもらえば、しばらくは何とかなると思うし、それでも十分幸せだから・・・」

「それで良ければ、乃菊のしたいようにするよ」

「じゃあ、婚姻届をもらって来よう!」

乃菊が、両手を握りながら言う。

「それは、僕が行く」

当然、乃菊が動いては、世間に知られてしまう可能性が高い。

「んんん・・・、残念!」

乃菊は、国也の膝に頭を乗せて横になる。

「でも、届けるのは、一緒だよ・・・」

「そうだね・・・」

国也は、乃菊の頭を撫でる・・・。

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