3話 入学式
今回は、入学式のお話です。
「それでは、第270代グラディウス王立魔法学園入学式を始めます。」
入学式は、そんな少し頭の薄いおじさん先生(入学試験の時のさえない先生)の、これまたさえないありきたりなあいさつで始まった。・・・というかあの先生以外と教頭先生とか・・・笑い物だと思う。だって、はげ×ダサイ×おじさん×教頭って、マンガにでてくるうっざーい、意地悪教頭のまんまじゃん。なんていうか・・・やっぱりこの世界はファンタジーの世界だなっっと改めて実感した瞬間だ。・・・こんなことでじっかんするのも変な話だけど・・・っていうか、あのはげ先生だけじゃないんだよね。ひげで顔が見えないほどになっているちっちゃな先生とか、美人だけど気の弱そうな先生とか、むっきむきでいかにも熱血だ!って言う先生とか・・・もう役者ぞろいっていうよりもキャラクターぞろいっていう顔ぶれだ。うん、これはおもしろいことになりそうな学園だな。
っとわたしが考えていると、横からティアちゃんが話しかけてきた。
「そういえば、サクヤ君て、試験の先生だれだったの?」
「僕の試験の時の先生?うーんと、何人か居たからすべては言えないけど、あそこの頭の薄い、今あいさつをしていた先生とかもそうだったな。」
「頭の薄いって・・・それって、リーブ=ヘイアー先生じゃない?」
「へ?リーブ?それにヘイアー?・・・ぶふっ」
わたしは笑い声を抑えることができない。だ、だって・・・あの髪のうすさに、リーブ・・・あのリーブ○○のリーブに、髪の毛の英語の、ヘイアーって笑ってくださいと言ってるとしか思えない。な、なんでそんなにネタが豊富な先生なの?ほんとに・・・最高。
「もうっサクヤ君たら、そんなに笑わなくても良いのに・・・たしかにおもしろいとは思うけど、そこまでだとかわいそうだよ?」
「・・・頭が・・・・・・」
ここでまさかのシャルロットの台詞・・・ナイス!これで完ぺきだ!と本当に思う。だって、頭がかわいそうって本当によくマッチしてるし。すごくいい。
「もう、シャルロットまで・・・まあ、わたしも少しは思ったけど。でも、口に出すのは流石にかわいそうだよ。」
うん、ティアちゃんは良いこだね。ほんとうに。ってあれ?そういえばこういうのに一番突っ込んできそうなメアリーちゃんは?
「スースー。」
ねてたんだ・・・。開始早々五分で。まあ、かわいいからいいけど・・・って、よだれがでてきてるよ!
「まったく・・・」
わたしはやさしくよだれをぬぐってあげる。そのときにむにゃむにゃというのはご愛敬。ほんっとにメアリーちゃんはかわいさの塊だよ。もしあっちの世界だったら、もしくはわたしが女と名乗るときが来たら、部屋にかざってしまいた・・・・・・なぜか2人が怖い顔をしてこっちを見てる・・・
「「じ~~~~~~。」」
「ど、どうしたの?」」
「・・・別に、ずるいとか思ってない。」
「・・・わ、わたしは少し良いな~って思っただけで、そ、その、なに?何でもないですよ?」
・・・2人ともうらやましかったんだ・・・。えーと・・・そういうのがこっちの世界で流行ってるのかな?異性に口をぬぐってもらうとか・・・は、恥ずかしかったりしないのかな?わたしには、よくわからないよ・・・
「え、え~と・・・ふ、ふたりにもやった方がいいのかな?」
「ち、ちがうもん!!!」 「・・・ちがう・・・」
おおっ!ティアちゃんがめずらしく声をあらげたね・・・かわいいな~いい具合にはじらっててかわいさがメーターをふりきりそうだよ。もし、男の子だったら、わたしはこの笑顔で一発で落ちると思うな~。
「ま、2人には機会があったらと言うことで良いかい?」
「あう~~~~~~。」
こうして私たちがふざけている間にも、式はドンドン進んでいた。
「では、次に校長先生からお言葉を頂きましょう。おねがいします。」
そして、あがる歓声。それもそのはずだろう・・・グラディウス王立魔法学園校長ジーク=ヴァルキリス。彼の名前は、世界中のどんな人だって知っていると思う。
彼の成し遂げた偉業は、本当にすばらしい。昔、まだ学園の生徒だったころ、実習先の国でお姫様が連れ出されたと聞いては、白馬の王子のごとく助けに行き、無傷で帰ってきたという。はたまた、騎士団に入ったころに起きた「クイナ=エルモンド戦争」では、10倍の的の中国を守った戦士たちの偉業。その立て役者だったと言うし、または、アークドラゴンが友達にいて、ドラゴンたちの間の戦争でも、そのドラゴンを助けて和平を結ばせたって言う。ようするに、「生きる伝説」な人だ。
やっぱりそんな人が出てくるとなれば、少しは歓声がわいても仕方がないよね・・・第一、わたしも見てみたいし。
そうわたしが考えていると、檀上に見事な白髪をたくわえたおじいさんがあがった。でも、そのおじいさんは、全く老いを感じさせない。まるで、鍛え抜かれてきた刃。そんなイメージを受ける。と、唐突にその老人が、私たちに向けて鋭い殺気を放った。それは、刺すような殺気。周りの生徒の中では、耐えきれずに、座り込んでしまう子もいる。殺気だけでこんなにすごいなんて・・やっぱり世界最強の聖装騎士だ・・・
「うっ。やっぱりすごい威圧感ですね。わたしはあれが苦手だからあんまりジークさんのこと、あまり好きじゃないんです。・・・おじいちゃんなのに・・・」
たしかに。ティアちゃんのアーディナル家は、ジークさんのヴァルキリアス家の本流だ。たしか、少し問題があって家の名前が変わったんだっけ。でも、孫にもいつもこうしてたら、そりゃ怖がられるね・・・
「ごほんっ。私が紹介にあがった校長ことジークだ。ちまたでは、私を「生きる伝説」と呼ぶらしいが・・・まあいい。今、私はこの会場全員に対して殺気を放った。して、その殺気に対抗できた者は、正直に言うと、10人以下だ。実際、毎年10人以下だが、今年は9人ほど。今年の新入生は優秀と見える。対して、座り込んでしまったま者たちよ、別に気に病むことはない。これからこの学園で精進し、然る時に対処できるようになればよいのだ。まあ、そう言うわけだから、耐えられた者たちも抜かれることの無いようにしっかりと励め。この学園は、努力する者たちを拒みはしない。だから、私は君たちが卒業し、旅立っていくときのことを楽しみにしているぞ。以上。」
そういってジーク校長先生は檀から降りる。わたしはその凛としたたたずまいに鳥肌が立った。さすが、最強の騎士。いつか私もあんな風にかっこいい聖装騎士になりたい・・・。
「やっぱり、すごい。空気、変わった。」
「そうだね。おじいちゃんはカリスマ的なところがあるから・・・」
2人はしきりに感心している。そうか、2人からすると、なれたものなのか・・・っと、わたしは唐突にものすごい寒気を感じた。そして、その発生源を見ると・・・あっ、ジーク校長先生・・・がすごい顔をしてたっている。・・・え?わたしだけに本気の殺気をぶつけてない?何で?わたしはけげんな顔をしていたのだろう、ジーク校長先生は口を動かした。
(ティアにもしものことがあったら、もしも何かしたら、こ・ろ・す。分かったな?)
・・・・・・ま・さ・か・の孫バカ?なんて意外な一面なの?すごくイメージがくずれる・・・しかし、ジーク校長の次の口パクでわたしは固まった。
(貴様が女なのは私だけが知っている。それに、貴様が元アートレッドの長男ラルクスということも・・・それに、パートナーがアークドラゴンの異端児ということもな・・・まあ、ばらしはせんから、女の子をねらうなよ?)
(わたしはねらってない~~~~。)
(・・・サクヤ・・・つっこみはそっちなんですね。)
結局、「生きる伝説」はごまかせなかったか・・・まあ、言わないんだったらいいかな。
そう思うわたしに、司会者の声が響いた。
「では、在校生のあいさつです。生徒会長フィリアさんお願いします。」 「はい。」
「え?」
驚くわたしは、首をすぐに檀上へともどした。
すると、そこには女神が居た。 ゆるやかなウェーブをえがく美しいプラチナの髪。守って上げたくなるような、色白の顔。そして、宝石のように光る美しい瞳。そこにいたのは、わたしの姉。何年も会ってないからやっぱり変わっていたけど、わたしをかわいがってくれたお姉ちゃんだった。
「うっわ美人・・・」 「やっやばいよ。あれ。」 「女神だ・・・」 という声があちこちからあがる。やはり、お姉ちゃんの容姿は年ごろの男の子たちには目に、もはや毒のよう・・・目を放せなくなっている。
「うわ・・・やっぱりフィリアさんは華があるなあ・・・。わたしも、あんな風になりたいな・・・」
「・・・わたしも。」
となりの2人もしきりにお姉ちゃんをほめてる。やっぱり、度を越えた美しさは万人に共通の感想をあたえるんだ。そこに負の感情なんて混ざらない。混ざりようがない。
と、その時にお姉ちゃんはこっちを見た。2人が少し手をふっている。すると、あっちも分かったようで微笑んでいる。
「ほら、サクヤ君も手をふって!」
「え・・・?」
言われるままに、一応振ってみた。向こうも気づいたみたいで、完ぺきな作り笑いでこっちを見た。しかし、それは長く続かなかった。
「・・・・・・え?ら・ラルクス・・・・・・あ、失礼しました。そ、その・・・・・・あれ?あ、う、うううう」
わたしは息がつまった。お姉ちゃんは、わたしを見た後に檀上で泣き出した。・・・わたしをラルクスと言って。
「え?うそ?フィリアさん泣き出しちゃった・・・・・・」
となりで2人が驚きの声を上げる。・・・まずい、なんとかごまかさないと!
「えーっと、ラルクスってだれかな?あの、生徒会長さん、ラルクスっていって泣き出したけど。」
そう言うと、2人は少し困った顔をして互いに見合った。そして、ティアちゃんが口を開く。
「ラルクス。・・・ラルクス=フィア=アートレッド。昔、アートレッド家にいた長男の子でね、その・・・肉体強化が使えないからって家を追い出されちゃったの・・・。わたしも、何回かは会ったことがあって・・・とても、とてもかっこよくて・・・ムッと思うくらい男なのに美しくて・・・すごい子だったの。だから、みんな彼に期待をかけてた。すごい人になるって。そんなわたしの初恋の子なんだけど・・・「わたしも・・・」その、追い出された後のことがわからなくて・・・えーっと確かフィリアさんは、そのこのことをとっても好きで、今もラルクス君の洋服とか、使ってた剣とか・・・そういうのを全部とっておいているの。だから、ああやってラルクス君のことになると泣いちゃったりするんだよね・・・ ・・・わたしも、泣きたくなっちゃうんだけど・・・ やだ、笑わないでね?って、え?何で泣いてるの?」
わたしは、涙を流していた。そんなにも、そんなにもわたしを大切に思ってくれていた人が居たなんて・・・そんなことにも私は気づかなかったなんて・・・わたしは、バカだった・・・。もっと、もっと早く知りたかった・・・おねえちゃん・・・。
心ではそう思いつつも声には出さない。
「いや・・・良い話だね。って思ってさ・・・」
「そっか。・・・たぶんフィリアさんが泣いちゃったのはサクヤ君の雰囲気が、顔が、彼に似てるからだと思うよ?まさか本人だったりして・・・なんてね?」
わたしたちもしんみりしていると、司会の人がお姉ちゃんを下がらせて唐突にうち切る。そして、入学式の終わりを告げた。
「え、えーと色々とありましたが、これにて第270代グラディウス王立魔法学校入学式を終わりにします。新入生は、前にはってある紙を見て速やかにクラスに移動してください。」
・・・・・・そうして終わった入学式。しかし、メアリーちゃんは結局起きなかった。
泣いてしまったフィリアさん・・・自分も少しナーバス気味・・・
気を取り直して次の話は、すこし事件が・・・どんな事件かはお楽しみに!
ついでに、わたしなら気絶しちゃうような事件です(笑)