終話 Contact アークドラゴン
今回で物語の基ばんが出来ます。ではどうぞっ
「わたしは・・・ひつようない子・・・」
少女の胸に広がるそんな思い・・・咲夜はいま、アートレッド領の最北のエスケイア海岸の近くの岬に来ていた。 しかし、岬と言っても灯台などがある訳ではなくただそこにあるのは、海へと通続く、切り立った断崖絶壁だけであった。
少女の胸に、ここ数時間のことがよみがえる・・・
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「出ていきなさい。」
え?、と私は心の中でつぶやく。今、私にディランさんが投げかけた言葉。それは、私が向こうの世界で何度も聞いた言葉だ。
向こうの世界。
その思いだもない過去。私はむこうで人ではなかった。
家では、出来そこないの娘として、育てられた。いや、むしろ出来そこないの道具とでもいったほうが、よりしっくりくるかもしれない。なぜなら、私は家に伝わる千崎流の秘剣を後世に残すことだけが存在意義だったのだから。私は一人むすめとして生まれたけれど、前の代、その前の代とさかのぼっていくと一人むすめというのは、私だけ。他には男の人が、絶対に生まれていた。そして、だれ1人たがうことなくその秘剣を体得していたのだ。
だから、私はこの家で、初めての失敗作。秘剣を体得できない出来そこないの道具だった。
母は、私を、女として生んでしまったので家の人から相当ないじめを受けていた。ましてや実の夫からさえも・・・だから耐えられなかったのだろうと思う、母は私が5歳の時に死んでしまった。それも、過労死とかいう、うその理由づけをされて・・・そのうえ私は、あの母の葬式の時に祖父が言った言葉を覚えている。
「やはりごみはごみのごとく早く消えてくれたのう・・・」
その日から、家族は、さらに私に対して、きつく当たった。
だから私はあの日、空から・・・たぶん月から降ってきた声にこう答えたんだ。
「もういやだ」って。
あのときお月様は、ちゃんとお願いをかなえてくれたんだと思う。
だけど、いま、ディランさんが言った言葉は何?
「でていきなさい。」
その言葉を言うって事は・・・
「・・・私を捨てるんですか?」
そう言うことなの? わたしは、いらないこなの?
私の言葉にディランさんは、まゆをひそめる。
「捨てる?まあ、そうだな。肉体強化魔法の使えない者なんて、この家には、相応しくないからな。」
相応しくない
その言葉が私の胸をえぐる。あっちで最もたくさんいわれたことばだ・・
やめて、いわないで。っと、心で叫ぶ。治りかけの傷が、新たに血を流す。そんな思いがした。
そんなことを言われたら・・・わたしは・・・
考えているだけで、わたしの目からは、しずくがこぼれ落ちてきた。
純粋な、痛みの結晶。わたしの、こころの血。 しかし、ディランさんには、そんなわたしの胸中
など知るはずもなく、かけてきたのは、さらにわたしを・・・わたしの傷をエグル言葉だった。
「ふんっ、さすがは出来そこないだな。涙なんて流して・・・やはり、そんな情けない者などこの家にはいらん。さっさと・・・どこかへ行ってしまえ。」
わたしの目から落ちる涙が、かさを増した。わたし自身もう、どうにもできない量の涙。堪えられるはずもなかった。だって、わたしが親に捨てられるのは、初めて。あっちの世界でも、捨てられないことだけを目標にして、生きていたから。・・・でも、今は違う。本当の孤独が、目の前に迫ってきているから。
だから、気がつけば、私は声に出していた。
「い、いやだぁぁぁ。・・・お、追い出さないで。」
「だから情けないと言っているんだ。それに、貴様、その声はふざけているのか?女みたいな声をして っ。いい加減さっさと出ていけ。」
ぺっ
言葉と共にはき出されたつばは、私の顔を正確にとらえた。しかし、私の顔は、濡れるだけでは、すまなかった。つばをはくのに、肉体強化をかけていたらしく、つばは、私の額でパンッと音を立て、わたしの顔を少し削った。削ったと言っても、はいたもの、そこまで威力があるわけでもない、しかし父に物理的に傷を付けられたという事実と、流れた一筋の血が、私の心を追いつめた。
「・・・なんで。すてる・・・なら、最初から・・・最初からうまなければよかったのに・・・捨てる なら育てなければ良かったのに・・・なんで、なんでこんなことするの?わたし、これまでがんばって きたよ?
お父様が立派な騎士におまえはなれるって言うから、朝、どんなにつらくてもしっかり起きたよ?剣が 上手って言ってくれたから、わたしお姉様とも戦えるようになったよ?なのに・・・なのに、私のした ことは、全部無駄だったの?ねえ、教えてよ、わたしは、子供は親を選べない・・・わたしは、・・・ わたしのお父様は、あなたなんだよ?」
「だまれっ・・・おまえは・・・・・・・・・捨て子だ。」
「え?」
その瞬間時が止まった気がした。・・・わたしが、捨て子?
理解をしたくない。理解をしたら、わたしは壊れる。そう直感的に感じたのだろうか、わたしは、何も考えなくなり、なみだも止まる。しかし、それはまちがいだった。ディランさんの声が私に降りかかる。
「おまえは、捨て子だよ。間違いなくな。お前は、5年前、私が領内の森ホルスで拾った子だ。だか ら、
お前は、元々・・・
(やめて、いわないで・・・)
いらない子だ。・・・ふんっ、子は親を選べないと言ったが、親も捨て子は選べないんだよ。」
もう、何もいえない私はやっぱりいらない子で、それはあっちでも・・・こっちいでも変わらなく て・・・結局捨てられる。・・・それだったら、もう、やめよう。生きるのなんて。
私はすっと立ちあがって、ディランさんを見すえる。
「わ・・・わかりました。・・・いっ今まで、ありがとうございました。」
そして、くるりときびすを返し、部屋を後にする。
わたしはもう、ふり返らなかった。
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「結局、私はこの世界に何をしに来たんだろう。・・・私の存在価値のなさを再確にんしただけじん。
こなければよかったよ・・・月の・・・ばか。」
少女の心。もう、一生治ることのない傷青負ったその心は、もう、限界だった。
だから・・・
「さよなら、この世界。」
崖に足をかける。その動きには、一切の迷いがない。死ぬことを決めた足取りだった。
「ーーっ。」
恐怖にゆがむ顔。しかし、それも一瞬。少女は勢いよく海へと飛びこむ。流れゆく景色の中に、少女は様々な景色がうかんだ、ああ、これが走馬灯なんだ・・・と少女は最後にかんがえた。
***
「クルルルル、クルルルル・・・。」
(・・・うるさあいな。私をもっとねかせてよ。もう、私なんて死んでるんだから。)
「クルルッルル。クルルルルア。」
今度は頭に衝撃を受け、少女は、目を覚ました。そして、自分の側にいる生きものを見て、驚きの声を上げる。
「ってえ?ど、ドラゴン?そ、それもアークドラゴンだ・・・」
目の前にいたのは、生きる伝説、ドラゴン。ドラゴンは、この世界でも希少な種で、ほとんど見かけることはない。まして、その中の最上位種アークドラゴンなど、咲夜は初めてみたのだ。
ドラゴンに手をのばそうとしたとき、そのドラゴンが消え、代わりに声が頭上から降ってくる。
『ようやく・・・目覚めたのですね。』
「えっ・・・う、そ・・・」
そこに居たのは、大きな真っ白なドラゴン。その姿は偉大で、何とも言えない迫力があった。
『人間。いや、特別な人間よ・・・ここは聖地。貴方はなぜここに来たのですか?なぜ・・・ここに
入ることが出来たのですか?』
「それは・・。」
なぜ?と言われても、咲夜は起きたらここにいたと言うだけなのだ。なぜも、へったくりもない。
それになぜは入れたかなんてしらない。起きたら居たのだから。
それを口にしようとすると、目の前のドラゴンが、語りかけてくる。
『なるほど・・・あなたは、ッだいぶ大変な日々を送っていたのですね。あ、すみません頭の中、のぞいてしまいました。・・ゆるしてもらえますか?』
「・・・うん。」
『よかったです。あ、そうだ。今、姿を変えますね。』
そう言って現れたのは、16ぐらいの女性。はにかんだ表情が、何ともチャーミングだ。
「・・・すごい・・・・・・。」
「ふふっ、そうですか?まあ、初めての方は驚きますよね・・・あ、そうだ自己紹介しましょう。
これからのために、必要だから。」
咲夜は、言葉に違和感を覚えたが、何も言わなかった。孤独な心にこの、目の前にいるドラゴンの笑顔は優しく心を包んでいく、不思議な温もりを感じさせる。そして、近くに寄ってきて、手をぎゅうっと握るその感触は咲夜の心を、温めた。
「わたしは・・・咲夜。これは、違う世界の名前だけど・・・」
「はい、さくや。私は、アフロディテ。若くてチャーミングなアークドラゴンです。」
「ええっ?自分で言うの?」
「ふふっ。やっと笑いましたね。うん、そうやって笑っていると、とてもかわいいですよ。」
少女は、女の身で、初めてかわいいと言われ、文字通り赤面した。それも、心が凍っているときのため、はずかしさをいつもより感じてしまう。
「ううっ。アフロディテ?でいいんだよね?」
「はい。アフロディテです。あまり、好きな名前ではないんですけどね。・・・さて、さくや。
貴方はこうして今、人が踏み込んではならないところ、聖地に来ています。あなたは、これからどう
したいですか?」
アフロディテの問いかけにさくやはビクッとなる。今、目の前にいるのはドラゴンの中の最強種アークドラゴン。彼女は、その気になれば、一瞬で咲夜を殺せるだろう。そんなあいてに聞かれているのだ、緊張してしまうのは、いたし方ないことである。そして、今の自分には、やはり居場所がないんだと心がまた冷え出す・・・咲夜は、また無表情に戻った。
(この子は、とてもとても良い子なのに・・・周りのせいで、こんなにも苦しんでいるわ・・・
それに、この素質・・・昔の私のようね。)
心の中でそう考えるアフロディテ。彼女の心を取り巻くのも、つらい過去だった。
ドラゴン族は、とても強い魔力を持ち、ドラゴンにしか使えない、竜魔法=インビシブル・ロウを
使い、その強大な力ゆえに、他の魔物たちができるあることが出来なかった。
それは、人族との、契約。
通常、世界にいる意志の通じる魔物たちは、人間と契約が出来る。そして、人と交わることで、より強い力を手にしていた。ゆえに魔装騎士にも、必ず契約した魔物=契約獣がいる。
そんな人と魔物双方にメリットがある契約を、ドラゴン族は、することができない。
しかし、このアフロディテは、人と契約ができてしまう唯一のドラゴンであった。それが発覚したのは、人間の支配魔法にかかったためであるので、実際にだれかと契約したことがあるわけではないが、仲間からすると、とても気味悪く見えた。だから、こうして1人(一匹?)で、住んでいるのだ。だから、虐げられてきた咲夜の気持ちは、よくわかるのだった。
「ねえ、あなたにいいことを教えて上げるわ。」
「え?なに?」
アフロディテは、咲夜をとても気に入っていた。会ったばかりだが、親近感がわいたのだ。だから、
咲夜にとっていい道をおしえてあげたかった。
それが、人としてあり得ないことだとしても
「あなたは、すべての属性の魔法を使えるわ。むろん、肉体強化魔法も。」
「え?う・・・そ。」
咲夜は、目の前が真っ暗になる。なら、私はどうして捨てられたのかと・・・。
「たぶん、人間族は、知らないのでしょう、透明になるときの意味を。透明それは何色にも染められ
ないことを指します。ゆえに、すべての色をあわせ持つ・・・すべての属性を使える証なのです。
ほら、見てください。」
そう言ってアフロディテは、どこからかアダムの葉をとりだし、魔力を当てる。すると、葉は、
透明になった。
「ほんとだ・・・なら・・・いや、むりだ。」
(・・・このこは・・・なんて悲しい・・・もう、人を信じられない。自分を信じられなくなっている。)
アフロディテは、咲夜の事をどうにかしたかった。しかし、次の瞬間、咲夜は全く逆のことを言った。
「ねえ、アフロディテさん。あのね・・・これがいけないことだってわかってる。だけど、お願いしたいの。・・・その・・・わたしをここに住ませて。」
「え?」
アフロディテは、訳が分からなくなる。ココニイサセテ?それは、孤独であったアフロディテ自身にも
幸せなことである。しかし、とアフロディテはとまった。本当にこの子のためになるのか?と。
「なんでか聞いても良い?その、唐突で・・・」
「はい。その、さっきアフロディテさんは私が家に戻っても大丈夫ということを伝えてくれたんですよね?
でも、自分を捨てた家に戻っても、あまりいい気はしないんです。その、だからわたしはディランさんを見返してやりたいです。立派な魔装騎士になって。だから、それまでここで、生活をさせてほしいんです。」
(なるほど・・・そうよね、わたしもあそこにはいっていないし・・・でも・・・)
「本当に良いの?私からしたら、貴方はえさよ?」
アフロディテは咲夜をおどした。意志はしっかりとしたものではないと・・・と。
「大丈夫です。わたしを助けてくれたし、悪く見えないから・・・それになんだかわたしと似てる気がして他人とは思えないんです。」
明確な意志。咲夜は、とてもはっきりとした性格である。そのことが、さらにアフロディテに、咲夜と
ともにいたいと思わせた。
(・・・決断の時きたりね・・・うん、きめた。)
そして、人類史上、ドラゴン史上初の、伝説の盟約が出来たのだった。
「いいわ。でも、条件付きよ?私と契約して。」
「え?いいの?私と契約してくれるんですか?あ、アフロディテさん。当然良いに決まっています。」
「そう?でもだったら敬語はよしてよ?私たちは対等なんだから。」
「うん。・・・それじゃあ、はじめよう。」
ドラゴンの姿に戻るアフロディテ。そして、2人同時に言葉をつむぎ出す。
『「我、なんじと共に歩み、栄えある栄光を手にすることを今神に誓おう。いざ、我らが魂よ、
一つとなれ。」』
交わされた契約の言葉。それは魂に刻まれ、永久のものとなる。
神装魔法騎士サクヤ=アーク=フルスカイ。
後の時代にこう呼ばれることになる少女の伝説は、今始まった。
END //終話 Contact アークドラゴン
うむう・・・どうしても一番最後が同じ風になっちゃう今日このごろ。
次回の学園編からはなんとかします。(と、いうことで次回からとてもなが~い学園編が始まります。)
では、またおねがいしますっ。