1話 アートレッドの長男坊
2話目です。どうぞお楽しみくださいっ
大海に点在する群島国家シリウス。
その国は、はるか古代より独立を守り続け、ユーラス大陸近郊唯一の海洋国家となっている。
元々この国は、海辺の民族が祖先にあり、その特徴である青い髪と青い瞳は一部の金持ちたちの間では、観賞目的で高値で取り引きされている。
(髪フェチ成る者も存在していた)
そんなこともあり、海洋国家という他国との連携の取りにくさもあり、何かと
他国にねらわれやすいシリウス。しかしこのシリウスが長年独立を守り続けているのには、
2つの理由があった。
魔装騎士。
そして、魔装姫。
この二つの役についている人々・・・ 守国の英雄とさえ呼ばれる強き魔法使いたちの力。
それによりこの国の平和は、守られていた。
魔法とはこの世界で、二つに分類される。それは、肉体強化魔法と属性魔法である。
肉体教化魔法。それは男のみに、使うことを許された魔法。
体内の魔力を、鍛練によって習得した方法で活性化させ、それを身にまとうことで身体能力を
大幅に向上させる。 それも魔装騎士程になると、こぶし一つで鎧をやぶり、指一つで岩を
貫通させるという。まして、聖装騎士(魔装騎士の中でも特別に強く、国に5人しかいない。)
とも成れば、こぶし一つで竜鱗さえも砕くと言われていた。
まず、魔装騎士を目指す者は、この肉体強化魔法を習得し、そして自信の力も鍛えていく必要
があった。
属性魔法。それは女のみに、使うことを許された魔法。
自分のうちに宿る魔力を適した属性に変化させ、それを使い、世界に干渉する魔法。
基本的に威力が目に見えて高く、戦時は勝敗のかぎをにぎる。しかし、発動までに時間を
必要とするため、時をかせぐ味方がいる必要があった。
そして属性。遺伝によって基本的に決まるために、武家がこの国で強い影響力を持つ要因
となったものだ。
属性は、基本属性として、火・水・風・土がある。そして、その上に上位属性として
氷・雷・嵐・林の4大、そのさらに上に特異属性として光属性があった。
基本的に魔装姫になる者たちは、上位属性を2つ持っていなければならない。
よって、遺伝により、安定的に上位属性持ちを輩出できるため、武家の地位は高いのだ。
そんな民衆のあこがれである魔装騎士と魔装姫。
その中でも更に栄光ある聖装騎士と聖装姫。
他国は皆、怖れを抱きながらも、利益があろうとも、この国に手を出せないのだった。
***
そんなシリウスにあるアートレッド家。
その家は、産まれた子供はすべて魔装騎士、あるいは魔装姫となり、また歴代のうち何人もの聖装騎士、聖装姫を輩出していた。
今の当主ディラン=オール=アートレッドも聖装騎士であり、国一の槍使いとされている。
その槍光るところ、おのずと道開かるる・・・
ロード・オブ・ランサー と呼ばれる彼は、今までのアートレッドの中でも一・二をあらそうとさえ言われ、そんな彼もそのための努力を怠らなかった。
そんな彼は今、今日これから行うことを楽しみにしていた。
「ついにラルも選定の儀か・・・。」
ラルクス=フィア=アートレッド。
その少年は、このディランの息子。アートレッドの次期当主に成ると言われている子だ。
幼少より、神童として名高かったディラン。そんな彼でさえかなわないと思うほどにラルクスは、武芸のうでに優れていた。2歳の時に、おもちゃの剣を持たせ、4歳の時から、稽古を付けていた。しかしまだ稽古を付けて1年足らず。それなのにもう、4歳年上の姉と互角に打ち合っている。特筆すべきはその動きの柔軟さにあり、ディランも、参考にしたいとさえ思う動きをラルクスはたまにする。そんなときのラルクスは、騎士そのものであった。
だからこそディランはラルクスに多大な期待を抱いていた。
そして今日。ラルクスが神童と呼ばれる日が来たのだ。
選定の儀。
それはそのものが魔法を使えるかを判断する神聖な儀式。
6歳になると行われ、女の子であれば属性も判断する。
儀式には、神樹アダムの葉が使われ、属性を色で判断する。属性については、その属性の色になり、
肉体強化が使えれば、真っ黒になる。
当然ラルクスはきれいに黒くなるだろう・・・
選定の儀を行う場所に向かうまで、ディランはそんなことを考え、これから来るであろうアートレッドの時代に心を躍らせた。
**
アートレッド家の鍛練場。
そこには1人の少年がいた。 少年の身長はおそらく同年代の平均よりも低く、手に持つ剣が異様に大きく見えてしまう。その姿は、まるで女の子が剣を持つまねをしたかのよう・・・。
実際、そんなことはなく、構える姿からそれなりに腕が立つことはわかるのだが、容姿がそのことを殊更演出していた。
白銀に輝く髪。その髪は、剣のような無骨さよりも、夜、暗黒の世界の中を走る遠雷のごとき美しさと、強かさを感じさせていた。その髪の前では、おそらくフェンリルの毛も敵わないと密に家中でうわさされている。
また、そのような髪と共に、彼の美しさを彩るのがその瞳であった。
青、と言うよりも、ブルーと言いたくなる瞳。どこまでもどこまでも、のぞけてしまうかのような美しくすき通る目であった。宝石のように、とさえ言うのに値しない。その目は人々に好印象をあたえていた。
とはいっても、逆にその髪と目で彼は少なくないダメージを心の負っていた。
人が彼と彼の父にあうとき、必ずと言っても言い頻度で、
「可愛らしいお嬢さんですね。」
と、言われるのだ。なので、王国中では、アートレッドの3姉妹と言う人も少なくないのだ。
無論、目の前で聞いたときは、丁寧に否定したと言うが・・・
そんな少年はいま、緊張していた。
「今日でぼくの未来が決まる・・・。」
選定の儀。 いくら剣のすごい少年といえども、緊張はするのである。
いや、むしろできるぶんだけ 期待などがひしひしと伝わり、よけいに緊張したのかもしれない。
「できる。できる。・・・・・・・・・・できるかなあ?」
人の能力と性格は直結しない。それがよく分かるこの少年は、ただ剣を振る。
緊張を忘れたかったのだ。
少年が剣を振る度に、周りの空気も変化していく。
正眼に構え、一気に上段より振り抜く。そして、その反動を利用し、回転。
回転と同時に周囲を薙払うかのような剣線は、小さな竜巻を思わせる。
まさに「舞」のような剣。それは、万人に剣の申し子と言われても、可笑しくない動きであった。
ゆえに、ディランの期待も当然の物であったと言えるだろう。
・・・本人にとっては知らないが・・・
「あっ。ラルクス、今日も頑張ってるね。うふっ、かっこいい。」
「あっ、お姉様。」
ラルクスに声をかけた人物。それは、アートレッド家第二女フィリア=ティア=アートレッドであった。
ラルクスとは全く違うプラチナの髪。静かにたゆたうそれは、芸術的な角度で少女の顔を隠す。
その顔は、もし女神の子供時代の顔を思いうかべよ、と聞かれたら10人中8人は思い浮かべそうな顔であり、
将来は引く手数多だろうと、密にディランも考えていた。
が、しかし、
「ラルクスう~・・・ぎゅう~」
「・・・。お姉様、苦しい~。」
ラルクスにだきつく彼女。その姿を見れば、だれもがこう思うだろう。
「ブ・ラ・コ・ン」 と。
実際、彼女はブラコンであった。それも、重度の。
今、普通にだきついた後、彼女はそのやわらかいほっぺをラルクスのほっぺにおしつけ、
しまいにはスリスリと、こすりつけ始めた。そして、それと同時に鼻を最大限に使い、ラルクスの臭いをかぐ。
うっとりとしたその表情は、まさに変態であった。
余談だが、このフィリアについての武勇伝?(むしろ変態議事録??)についてもう少し・・・
まず、最もはじめに彼女がラルクスに恋心を抱いたのは、ラルクスが生まれてから2年後、
ラルクスと初めて一緒に風呂に入った時である。
まだ幼く、自分で髪も洗えない弟、そんな弟に髪を洗ったりして上げるのは、とても楽しみなことだった。
そして、女の子特有の、守って上げたい精神をラルクスはピンポイントで射ぬいた。いや、射ぬいてしまった。
「ラルクス、お目めいたいの?」
「むう~・・・いたいの~、ねえね~」
そしてぎゅっと抱きついてくる弟。
フィリアは心の中を電流が走った気がした。
(きいやあああああああああああああああああああああああああああああああああああああ。
ら、ラルクス・・・な、なんてかわいいのおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお。
わ、わたしのものにしたくなっちゃうよう。・・・あれ、今なら良いのかな?)
あえてその後のことは語らない・・・語りたくない。
ただ一つだけいえることは、その日、見事に湯冷めし、風邪を2人ともひいたので、数日は、
フィリアとラルクスだけではふろに入れなかったことである。
次に、といってももはや毎日のことだが(毎夜?)フィリアはラルクスが寝静まると、彼の部屋へ行き、
その寝顔をのぞき込むのだ。・・・2時間ほど。たまに、ラルクスが途中で起きるのだが、そんな時は、
「ふっふっふ・・・おどろいた?(どきどき)」
と、ごまかすのだった。
他にも、ラルクスのまくらに顔を埋めていたり、色々とあれなのだがあえてここでは割愛するとする。
とにかく、フィリアはこのままではお嫁にいけなくなることまちがいなしの残念少女であった。
ついでに、第1女のリアもブラコンだったりする。・・・愛に満ちすぎた家庭であった。
「らる~、今日は頑張るんだよ?お姉ちゃんもおーえんしてるからね。」
「はい。頑張ります。」
「だめ・・・その話し方、もう。」
「あ・・・そか。がんばるね。お姉ちゃん。」
「うん、じゃね。」
ラルクスは、去っていく姉の背中を見てこう思った。
(こんな事だけを言いにきてくれために早起きしてくれるなんて・・・やさしいな・・・)
ちゃくちゃくと、外堀は埋められていた。シスコン化計画の。
***
では、これより選定の儀を始める。いいな、ラルクス。」
「はい。」
そうして、伝説は始まるのだった。
END //1話 アートレッドの長男坊