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アンリミテッド・イメージング・ワールド 仮想冒険記  作者: くりぃむパン
チュートリアル
6/8

TASP006


 さて、ガジと言うキャラを作りましたが、マトモな出番は少ないと思います。

 え?ナゼ少ないかって?そりゃ勿論、いちいち関西弁に直すのはめんど……難しいからです。ハイ。


あと、前回ははしゃぎすぎました、すいません。



「もう…三日たったのか」


「結局、HPがイエローまでいくことあっても、レッドにはならへんかったなぁ」


 俺の隣にいる関西人の同行者は、俺が考えている事とは見当違いのことを口にしていた。


「あのなぁガジ、そぉいうんじゃなくて、もうこのお得な狩場にはこれないという意味だぞ」


「あああ、そやなぁ……てか、だからこそいまここでこんなやつらをウン十体ブッ狩り続けてるやないか」


 そういうガジの目の前には『歩く花』、それがそのまま形を作ったかのようなモンスターがいる。

 その名は『グラントプラント』かっこよさげな名前に違わず、そこそこ強いモンスターであり、レベル30を越えた俺達ですら、遊んでると腐食液に浸された牙にわき腹かまれたりすると、一発でイエローまでもっていかれることもある。なぜそんなハイリスクモンスターを狩っているのかというと……


「しかし、だいぶと狩ったなぁ、おいガジ、お前キュアクリスタルどんだけ溜まった?」


「ワイは……うお、もう50個近く集まったで」


「俺は…63だな、へっへ勝ちぃ」


「ぐぐぐ……」


 そう、このモンスターがレアドロップで落とすキュアクリスタルというアイテムは、即席回復用の今見つかっているアイテムの中で最も高性能であり、大半の状態異常を治癒すると同時に、使用者の体力を完全回復する。


「あと何分位ある?」


「えーと、20分ぐらいやな」


「よし、あと20体狩るぞ」


「うええ……」


 1分で1体狩るべく一体たりとも見逃さないように周囲に目を凝らすと、プラントとは違うモンスターの存在を認識した。


「これは……おいガジ、お前の『ザリガニ様』が来たぜ」


「ホンマか!?」


 俺が指差した先のモンスターそれは、一見すれば誰もかもが、「ザリガニだ!」というようなフォルムをしていた。


「おおおおお!ワイのザリガニはん!」


 それは、表面の殻は、濃い赤で、10本(・・・)の歩脚の中で、大きく発達した巨大なハサミ。

 そして、鉤爪の付いた残りの足。そして、腹部に当たる場所にあるのは、おーきなサソリの尻尾だった。

 モンスター名、『シザーピオン』、まんまザリガニとサソリの混合種で、これをガジは、形状を痛く気に入っているようで、見つけるたび「ザリガニはん!」と叫んで走っていってしまう。

 それは今回も例外ではなく、エモノも構えずに走って行き、あっさりとハサミにかっ飛ばされる。


「あ~~~♪」


 気色の悪い声を上げながら、ザリガニもどきに吹っ飛ばされ、それですら笑顔を絶やさない、というのは、想像以上にシュールであった。


「いいから早く片付けろ」


「は~い」


 すると、ガジは腰につけた黒い箱から、ネイルアートに使うような|爪を取り出し、指に一本一本装着した。この武器の名は『戦爪(せんそう)』、(なんか今回説明してばっかの気がする)で、近距離、遠距離に使える武器である。近距離はともかく、なぜ遠距離に使えるのかというと……


「ほい」


 やる気ゼロの声と共に、腕を横一文字に振る。そして、遠心力によって飛んだ爪が、ザリガニに突き刺さった。


『ギギギギィィィィィッッッ!!!!!』


 まるで、錆び付いた歯車を回すような、耳障りな声を上げるが、それは、自分と比べて、明らかにちっぽけな存在から、思わぬ攻撃を受けた、と言った感じの、驚きの声だった。

 当然だ、なにしろザリガニのHPは、たった1割程度しか減っていないのだから。

 が、戦爪の目的はそこには無い。


「ほいほい」


 次いで二度、腕が振られ、総じてザリさんのHPが3割弱程削れたとき、異変が起きた。


『ギギッ!?ギギギィィィ……!』


 ザリさんが、何かに縛られたかのように動かなくなった。

 その表面には、黄色い電流が走っている。

 これが戦爪の能力の一つ、『麻痺毒』だ。必要量を打ち込むことで、モンスターや、プレイヤー―――――――は、試した事は無いが、麻痺状態にすることができるらしい。


 戦爪には、『麻痺毒』のほかにも、『致死毒』、『混乱毒』、果てには、『石化』を引き起こす物があるらしい。


「ほれ、行ってきんしゃい」


「それ…何弁だ?」


 どーでもいい対応をしつつ、背中から、6日前、ダンジョンの奥地で、トレジャーボックスから発見した、『クロノス』をシンの伝手で強化した、『クロノス・弐型』を、背中から引き抜く。


「アーツを使う必要も無いな」


 いまだ痺れがとれないザリさんに向かって走り、目の前まで行くと、手前の成人男性を、一回り上回る、巨大なハサミを、足から切断する。


『ギギギギギャャャャャァァァァァ!!!!!!』


「るっせーんだよこのザリ公!」


 毒づきながら跳躍し、体をひねりつつ、尻尾の先端を、同じく切断する。

 そこで麻痺が解けたらしく、体を伸ばすと、のこった10本の足で、素早く振り返る。

 怒っているのか、口から泡が吹き出している。あーまぁ正直に言わせてもらおう。そう―――――


「キモいと」


 すると、人語を理解したのかどうかでは定かではないが。どうやら俺の言葉は、ザリさんの逆鱗に触れたらしい、気にしてたのかな?


『ギガァァァァァァッッッッッ!!!!』(激怒)


 もう一度叫ぶと、泡を周囲に撒き散らしながら突進してきた。


「ザリガニのクセに早いんだよな」


 感想を述べる間に、剣を両手に構え、両足をしっかりと地面に食い込ませる。

 ザリさんが俺をなぎ倒す…瞬間、力をこめた右足で素早く安全地帯に潜り込むと同時に、剣をザリさんの顎から、尻尾――――――が、元あった場所までを、ザリさんの突進と、俺の力を上乗せした威力で、一気に切断した。


『ギギギギィィィ………』


 悲しげな断末魔と共に、崩れ落ち、白い光となって、上空へと昇っていった。


「あああ……ザリはん……」


「どんだけ未練タラタラなんだよ」


 ふと、メニューの時計を見てみると、残り時間は10分弱となっていた。


「げ、10分も使っちまった」


「ザリはん……」


「お前はいいかげんしろ、ウザイわ!」


 そういった瞬間、俺の真横に『プラント』が出現した。


『キシャアアアァァ!』

「ギャアアアアァァ!」

「あわわわわわわわ!」


 あたふたあたふたと走り回り、パニックの余韻が消えないうちに、ばっさりと横一文字に切り捨てた。


「あー死ぬかと思った」


「我が人生に一辺の悔い無し……」


 見ると、戦爪を左胸に軽く刺して、遊んでいるガジがいた。


「ほい」


 その爪を、ドスリと、深々と突き刺す。


「ふっぎゃあああああぁぁぁぁ!!!?

 お前は何すんねん!殺す気かドアホ!!」


「殺さねーよ、だって殺したってメリットないもの」


「メリットある無いで人殺すんか。

 将来殺人鬼になるで、おま」


「そうだな、じゃあ殺害者ナンバー1はお前にするか」


「またんかいぃぃ、殺すメリット無いんやないんかい!」


「いや、やかましい子虫が消えるぞ?」


「なんなんや、お前はんにとって、ワイはなんなんや」


「あー黙れ、時間が無いんだから」


「えーと、残り……約30秒」


「なんだと!?」


 くそ、こんな奴と戯れているだけで、貴重なチャンスを逃した。


「で、どーすんや?」


「もう……もどろう……」


 うなだれ、町に向かうため、懐からワープクリスタルを取り出す。(これもとあるモンスターから集めた)


「「ワープ、『仮設町』」」


 仮設町、というのは、このボーナスステージを開催するために、コードDが作り出した、文字通り仮設の町である。(ヘルプ参照)

 クリスタルが砕ける音が聞こえ、体が青い光に包まれた。





――――仮設町―――――


 門の目の前で光が溶けるように消え、残り十数秒をそこで待つことにした。ナゼか?決まっているだろう、恐らく今回もコードDの長ったらしい説明を聞くことになるのだ、死の危険は少しでも少ないほうがいい。

 話を聞いてるときに後ろからプラントに食い殺されでもしたら文句も言えない。

 まぁ、事実、殺されたら口も聞けないわけだが。


「始まるで」


 そのとたん、上空に巨大な黒い画面が登場し、声が放たれた。


『ハロー皆さん、とりあえずは生き残った事をほめておこう。おめっとさん』


 また、完全にふざけてるとしか思えない声が、はるか高みから浴びせかけられた。


『今ここにおいて、スタートゲームを終了する。現在、生存しているのが1万5千126人。差し引きで926人のプレイヤーが消滅したわけだな、ごしゅーしょーさまで』


「な………」


「92…6……」


 本当にそれだけの人が死んでしまったのか、そして、死んだ人は、こいつの言ったとおりに、現実世界では植物状態になってしまったのだろうか?だが、それを確かめるには、死ぬ以外の方法は無い。


『生き残った諸君等は、これからもとのフィールドに、またランダムに転送する。

 あっちで、知り合いなんかがいたら、無事会えることを祈れ。

 

 そして、これより君たちがこの世界から抜け出すための条件を提示する。

 それは、向こうに合計100体いる死神(キルビス)を全て倒す事。

 出現条件なんかは君らで試行錯誤してくれたまえ、健闘は自分自身で祈れ』


 生き残った。本当なら、両手を突き上げて喜びたいところだが、それができない。あまりにも死んだ人が多すぎた。


「100体も……?」


「そないなことを、なんで命かけてまでやらないかんのや」


『トーゼン、それやらないとこの世界からは出れないぞ。宿屋に引きこもるのも結構だが、現実の事も考えろよ。

 それと、もう一つ、お前等を絶望させてやろう。それ』


 すると、画面の表面に緑色の文字の羅列が出現した。

 『ペインアブソーバ』

 そして、その文字の表面にビシビシと亀裂が走り、次の瞬間、盛大な音を立てて砕け散った。


『ペインアブソーバを破壊させてもらった。これによって、お前等が剣なんかで攻撃を受けたとき。マジメにイテェからな、もちろん、VIT(守備力)を上げれば、その分痛みは減るが』


「んな……」


「これ……ゲームだよな…?」


『じゃ、転送するわ、頑張ってねー』


 それと同時に、体を、ワープクリスタルとは違う、緑色の光が包み込んだ


「え!ちょまっ!?」


「おおおわわわあああ!!?」







 寒い。ここに転送されて5秒だが寒い。死にたくなる。

 見たとこ、どっかの山の山頂のようだが、暴風が吹き荒れ、高々と雪が降り積もっている。


「どっ、どどどどどこだあああぁぁぁぁここおおおおおぉぉぉぉ」


今の俺は、袖の無いリザードの革ジャケットに、鎖帷子と、炎耐性のある通気性の高いジーパンなので、むちゃくちゃに寒さに弱い。


「ああああああああ、しっ、死ぬうううううぅぅぅ」


 ほとんど凍りついた指で、ウィンドウを出し、氷耐性の高いコートを装備する。


「ふううぅぅぅ、冗談抜きで死ぬかと思った」


 しかし、人心地付くと、そこが安全圏内ではないことが分かったので、マップを開く。が。


「やっぱないわな」


 マップには、俺の視認できる範囲しか自動マッピングされないのだが、案の定、マップには、俺の現在地を示すカーソルと、それを中心とした半径10メートルほどしかマッピングされていない。


「とりあえず安全地帯に行かないと、ゆっくりメニューも見れん」


 大体、こういったフィールドは、天辺に、安全地帯や、小規模な村があったりするのだ。

 

 そうして、天辺への道を進んで、10分ほど、はじめのモンスターとエンカウントした。

 名称、『アイシクルリザード』四足歩行、凍りついた体表、そして、逆立った鋭い毛。一見してわかるのは、このくらいだ。


『グルルルル……』


 こちらを伺うように睨み付けてきている。俺は剣を引き抜くと、正中線に構えた。


「ここのモンスターがどのくらいのレベルか、確かめさせてもらう!」


 言い切ると同時に、俺とリザードが走り出す。飛び上がり、噛み付きに来るところを、迎撃しようとした瞬間、とんでもない事が起こった。

 真っ向からはじき返されたのだ。そう理解したのは、吹っ飛ばされ、雪原を5メートル以上も転がった後だった。


「がっ…は……!?」


 そして、目もくらむような激痛が、全身を襲った。

 そこで、俺はスタートゲームと、今の状況の違いを再確認した。

 ここでは、キルビス以外なら、いくら殺されようと、デスペナを受けるだけ。そう考えていたが、確かに奴は言った。「ペインアブソーバを破壊した」と。つまりは、ここで腕を切り飛ばされでもしたら、それとほとんど同じ痛みを味わう事になるのだ。


『グルラァッ!』


 恐ろしい雄たけびと共に、もう一度リザードが飛び掛ってくるのを、身をひねって辛くもかわす。

 吹っ飛ばされた反動だけでアレなのだ。直撃を食らえば、たとえ体力が残っていようと、起き上がる気力もなくしてしまうだろう。下手をすると、ショック死する可能性も考慮される。


「く、そぉ!!」


 負けじと剣を振り下ろす。しかし、またもや予想外の事が起こった。

 弾かれた(・・・・)のだ、硬い毛によって、俺の持つ中で最強の剣。クロノス・弐型の刃を弾いたのだ、ということを認識した瞬間、リザードが、一メートル以上ある尻尾を振り回してきた。

 とっさに剣で受けるが、その反動で、HPがイエローゾーンに到達し、すさまじい激痛と共に、再度吹き飛ばされる。


「ぐはぁっ!!」


 今度は、高く降り積もった雪の山の中に突っ込む。急いでここから離脱しなければ、恐らくリザードがとどめの一撃を振り下ろし、俺のHPを0にするだろう。

 だがまぁ、それでもいい、という声がする。苦しい中であがくよりも、いったん楽になったほうがいい。どうせ、死ぬわけでもないのだから。


 しかし、諦めかけた神経のうちの一つ、聴覚に、リザードのうなり声とは違う声が、高らかと響き渡った。


「せいりゃぁぁ!!」

『グガアアァァ!?』


 その瞬間、全ての感覚が復活し、雪を掻き分け顔を出すと、一人のプレイヤーが、リザードと戦闘していた。

 見たところ、このゲームには少ない女性プレイヤーで、俺のよりやや細身の剣を、2本携えている。

『双剣士』である。そして、その一本が、リザードの背中に突き刺さっている。


(あんな硬い守備力を貫いた…?)


 だが、ありえない。一見するだけでも、彼女の持っている剣は、俺のクロノスよりは、弱い武器と見える。貫通性に特化したレイピアでもないし、レベルとしては、持っている武器が弱すぎる。

 ならば、なぜあの剣は、リザードに突き刺さっているのか?

 しかし、俺がその答えにたどり着くよりも早く、リザードが動いた。


『グウオオォッ!!』


「きゃあっ!?」


 残ったほうの剣で防いだようだが、10メートルは軽く吹っ飛び、俺と同じく、雪山に突っ込んだ。


「まずい!」


 言うと同時に走り出し、リザードにもそれがばれるが、もはや2メートルも無い。剣を方の後ろに構え、アーツを発動させ、縦に切りつける。雷属性付与アーツ、『雷降(らいこう)


『グゴオオオォォッ!?』


 通常の攻撃ではなく、アーツを使った攻撃は、たとえ相手が固くとも、絶望的なまでの能力差が無ければ、アーツは弾かれない。 


 初めてまともにダメージが通り、先ほどまでと総じて、リザードの体力が半分ほどになる。

 ここでこいつの能力内容を悟った。こいつは、攻撃力が異常に高く。代わりに低い守備力を、硬い体毛でカバーしているのだ。


 リザードが反撃の態勢に入るが、炎の属性が付与されたアーツ、『炎上』を使って、弾く。

 今度は押し切られず、逆にリザードを弾き返す。どうやら、寒冷地帯にいるだけあって、炎の属性は弱点だったようだ。その分、攻撃力が加算され、弾き返すにいたったようだ。


『グルルゥゥ……』


 そこで、俺はあることに気づく、リザードに突き刺さっている、例の剣、それが、奴の体毛の合間を縫って突き刺さっている事に。


「なるほどな……」


 剣を構え、同じように突き刺すべく、突進しようとした、そのとき。


「うっ、ぐ……」


 声のしたほうを見ると、先ほどのプレイヤーが、雪山から出て、立ち上がろうとしていた。

 そのHPゲージは、赤く染まっている。


(来るんなら回復してから来いよ!)


 おれ自身も全く人のことは言えないが、あれでは殺してくれと言っているような物だ。


『グルルラァァ……』


 その瞬間、奴のターゲットが、ピンピンしている(ように見える)俺から、明らかに弱っているプレイヤーに変更されたのが分かった。


『グガアアアァァッ!』


「くそがッ!」


 跳躍するリザードを、今自分に出せる最高のスピードで肉薄し、横っ腹を切り飛ばし、無理やり方向を変える。


『ギャウッ!』


「ちょいと失礼、早く逃げるぞ!」


「え、ちょ……」


 後で何言われるかわからないが、目の前でへたり込んでいる女性プレイヤーを、肩に担ぎ、思いっきり走り出した。


『グオオオォォァアアァァァァ!!』

「ぎゃあああぁぁぁぁぁ!!」

「きゃあああぁぁぁぁぁ!!」


 わき腹への攻撃がよほど効いたのか、HPがレッドゾーンに突入したが、その代わりにザリさんの数倍の殺気を放ちながら疾走してきた。


 そんなところへ、バシュシュシュ!、と、とんでもなくイヤーナ予感のする音が……

 ギギギと硬い音を立てて後ろを向くと、リザードが背中の逆立った毛を、どういう原理か打ち飛ばしているところだった。それは、緩やかな放物線を描くと……


「「うわああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!?」」


 上からとんでもない量のゴワ毛が降り注ぐ、上から来るということは、対処法は、洞窟だァァ!!


「うおおおおお!」


 視界の端に捕らえた洞穴へ、今度こそ本力をこめた全力ダッシュで駆け込む。が。


「しつこいぞこのヤロー!」


「めっ、目が回るぅぅ~」


『グアアアァァァッ!!』


 洞窟に入ってからも、リザードはしつこく走ってきた。

 前に新たな気配を感じ、そっちを向くと、巨大なコウモリ型モンスターを発見した、が、速度が速く、名前を見ているヒマは無い。

 挟まれる形になったが、これはある意味好都合。


「どおりゃあっ!!」

「きゃーっ!」


『ギギッ!?』


 思い切り飛び上がり、コウモリの背中を蹴って、飛び越す。

 コウモリは俺の背後のリザードに向かって一直線に突進し……


『グギャアッ!?』

『ギギャアッ!?』


 狂獣二頭は、一糸乱れぬ動きで、磁石のように激突し、リザードのほうは、派手なエフェクトと同時に、白い光となって消え去った。


「よし、計算どおりっ!」


「すごい……」


『キキルルゥゥ……』


 しかも、コウモリのほうは、衝撃でスタンし、目を回して落下した。


「おお、これは計算外」


 これまで不幸しか降りかからなかったせいなのか、やけに今日は運がいい。


「ちょっとおろして」


「え、いいけど?」


 これまでだいぶ静かだった少女が、声を発した事に少々驚きつつも、無理やり動かれると面倒なので、すぐにおろすと、剣を引き抜き、スタン状態のコウモリに向かっていった。


「お、おい、なにを……」


「『採取(ハント)』」


 すると、ライトエフェクトに包まれた剣が一閃し、コウモリの巨大な鉤爪が、ヒビ一つ無く、綺麗に取れ落ちた。

 爪をもがれたコウモリは、スタンから回復すると、そのまま飛び去っていった。


「はい、コレ」


 すると、その爪をこっちに放ってきた。


「え?いいの?」


 すると少女は、さも当然のように口を開いた。


「いいもなにも、それの持ち主をスタンさせたのはあなたでしょ。

 それに、助けてくれたし、その礼もかねて」


「そうか、じゃ、これで貸し借りナシでいいんだな」


「ええ、その爪、そこそこいい剣の素材になると思うから、町に言ったら確かめてみて」


「ああ、ありがと。

 で、君はこれからどうする気なんだ?」


「どうって…ここを降りて、近くの村か町で休もうと思ってるけど」


「そうか…でも、俺はやることあるし、しばらくここにいるよ。

 それとさ、プロカ交換しない?」


 言っておきながら少し口調がナンパ臭かったかな、などと考えると、少女は少し考えた後、「いいよ」といった。


「よし、じゃあ…はいこれ、村か町にたどり着けたら、そこの座標、メールで教えてくれないかな」


「え…いいけど?」


「んじゃ、また、無事に町につけるといいね」


「ええ、あなたも、ここのモンスターたち、かなりレベルが高いようだし」


「体で持って味わったよ」


 苦笑いしながら回れ右をし、洞窟を元来たほうへ、俺は歩き出した。

 正直言うと俺も帰りたかった。もう痛い思いとかはゴメンだし。

 でも、恥ずかしいから言わなかったけど、あの子の剣、リザードに刺さったままなんだよね(リザードは消滅したため、正確には地面に落ちているのだろうが)。


 いろいろしてもらった身としては、たとえ貸しを作る結果になろうとも、そのくらいはしたい、と思った。


「なんでだろうなぁ……甲斐性の欠片も無い俺が」


 さきほどもらったプロカには、『アスカ』と書いてあった。

 アスカ、本名のもじりなら『明日香』か、『飛鳥』だろうか、などと適当に考えながら歩いていくと、やがて先ほどリザードとコウモリが感動のご対面を果たしたところに到着する。が。


「あれ……無いぞ…?」


 そこに転がっていると思われた剣は、何処にも無い。


「ま、まさか……」


 感づくと同時に、スキル『視覚強化』のうちの二つ、『暗視』と『遠視』を併用使用し、洞窟の奥を見ると、身長60センチ程の小人が、アスカの剣を持ち上げ、とことこ歩いていた、距離150ほど。


「くそっ!やっぱりか」


 毒づくと同時に、この日何度目かの猛ダッシュを敢行する。

 すぐに戦闘エンカウントが発生したメニューが開き、同時に、通路の先にいるモンスター、『スノーホビット』をターゲットした。

 その瞬間、ホビットが剣を持ったまま、すごい勢いでダッシュしだした。

 ホビット系のモンスターは、地面に落ちている他人のアイテムや装備を持って、逃げ出すのだが、そのときにターゲットされると、1分経つと消えてしまうのだ。

 ゆえに、奴等にアイテムなどを取られたときには、そのプレイヤーは、全力でそいつを追い掛け回さなければならないわけだ。


 そして、俺は今アスカの剣の回収作戦を全力で遂行中なワケだが。


 だが、このとき俺は知らなかった。

 アスカは既に剣を置いてきた事には気づいていて、すぐにスペアに持ち替えた事には……



 関西弁について、何かミスがあればどんどんご指摘お願いします。

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