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アンリミテッド・イメージング・ワールド 仮想冒険記  作者: くりぃむパン
チュートリアル
5/8

TASP005


 皆っさ~ん。今回アレですよ、そう、ついにアレをアレするんです~♪

 え?何言ってるかわからん?

 構いません、だってアレだから~♪




 今日は、2031年5月20日。信司につき合わされ、VRMMOと言う一風変わったゲームをプレイし始めてから一週間。


 今日も金ズルこと信司に誘われている。今日の午後1時半から酒場に集合する手はずになっている。


「ムグムグ……ごちそーさん」


 が、その声を聞くものは俺意外誰もいない、その理由は母も働いているからだ。

 父が俺と母の前からいなくなったのが10年ほど前。それからは、母の手一つで俺は育ってきた。


 食器を片付け、その足で自室に戻り、ゲームを起動するためのIvaをコードでつなぎ、電源を入れる。

 この一週間で聞きなれたブゥンという起動音と共に、Ivaが起動し、その表面の溝に青い光の筋が光り始める。

 それを頭に巻きつけ、しっかりと固定し、サングラスのように透き通ったバイザーを下ろし、ベッドに横になる。


「1時5分か、少し早いか……まぁいいか」


 バイザーの横にあるボタンを押し、目を閉じる。

 因みに、ここで寝てしまうと、接続料と電気を持っていかれるだけで、ゲームに入る事ができないため、この時間を耐え抜くのが俺の最大の苦痛となっている。


(早くしろ……)


 悪態をつきながら目を閉じ、じっと待つとことしばらく、たちまち暗い視界が、白い光で満たされた。



         ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――



 目が覚めたところは、またもや、しかし、普段よりやかましくなっている感じのある酒場だった。


「相変わらずうっせえなぁ……」


 思わず出た呟きも、即座に周囲の騒音にかき消される。

 これでは二人を探すのも面倒か?いやいやそんなことはない、なにしろ二人とも特徴で生きているような奴等だ。

 ナンパ口調が聞こえればシン。そこかしこで悲鳴が上がればシーナと相場は決まっている。


 が、残念ながらそれもかき消されてしまっているのか、何も聞こえてこない。


(あ、そういやまだ30分近くあるんだったな)


 そう思うとする事も無いので、テキトーにメニューを開き、スキルウィンドウを開く。

 アレ以来、俺のスキルポイント値はそれこそバグ並みのスピードであがり続け、たった二日で片手剣スキルを極める事になってしまった。


(GMに見つかるな。だったっけ………)


 そう、このゲームをプレイした初日、俺のバグが発覚した時、シンに言われた一言だった。

 なんでも、俺のバグがGMとやらに見つかると、逐一めんどくさいことになるそうなのだ。

 GMは普通のプレイヤーに紛れ込んでいて、バグや、不正行為などが見つかったりすると、稀にリアル罰金取られたり、アカウントそのものを消される場合があるらしい。


「罰金なら信司に任せりゃいいが、アカウントは困るなぁ」


 今現在、俺のレベルは26であり、ここまで上げるのにかなりの苦労を要した。

 当然、もう一度やりたくなどない。


「っつーかおっせーなあいつら」


 もう一度時計を見てみると、もう1時35分になっていた。

 そろそろ、その辺から平手打ちの音が聞こえたり、断末魔の悲鳴が上がってもおかしくないのだが。


「ビッグイベント始まっちまうんじゃねーのか?」

「まだ始まらんよ」

「だって2時からだもの」


 声のしたところには、今回俺を呼び寄せた張本人がいた。


「んな!何時からいた!!?つーか2時!?」


「いちいちやかましい、あまり騒ぐな」


「いやー、ギンジが遅れると思ったんだけどさ、来てみてびっくり、なんと時間通りにいるじゃない」


「いや、知らんうちに一メートル圏内に入られたのは久しぶり…いや、初めてだったし」


「ほー、そりゃすごい」


「あーそういえば普通に近づくと大体5メートルあたりから気づかれるしね」


「つーかシン、早くビッグイベントとやらの内容を教えろ」


 そう、今日俺はこいつから、『今日UIWでビッグイベントがあるから1時半に集合!』と書かれたメールを受け取り、その時間に少し早いぐらいの時間に来たというのに、目の前のクソガキどもは……


「まっさかギンジが時間守るとはねー」(笑)


「いやはや、明日天変地異が起こるかもナ」(大笑)


 ケタケタケタケタとよく笑いやがるこん畜生共め。


「…いー加減にしろ腐れチビどもが、俺の質問に答えろ」


 すると、チビ二人は俺の質問に、首を振って答えた。


「それがね……」


「俺らも知らん、と、言うか、知ってるやつ自体いないと思う」


「は?なぜに?」


「何しろ、公式の情報版にも今回超大型Udがあると書かれてるだけなんだよねぇ」


「掲示板にもどこにも、その手の情報の内容は乗ってなかったしね」


「へー」


「「と、いうか、何でお前が調べてないんだ?」」


「やかましい、休日ぐらいゆっくり寝かせろ」


「あー、起きたのが昼ごろだったわけね」


「それで、あわてて昼飯食べてきたわけだ」


「何でそこまでわかるんだよ!」


「まぁ、お前だし」


「ギンジだしね」


(すげー腹立つ)


 が、残念だが図星である。


「じゃあ、ビッグイベントはあと…3分前か」


「何かのクエストのUdかも知れんからな、装備を出しておけ」


「了解」


 メニューを開き、装備ウィンドウから俺の愛剣、『クロノス・弐型』を実体化させ、背に背負う。

 酒場のどこかから、「後一分!」と叫ぶ声が聞こえた。


「……後30秒、……25……20……10……」


 周囲の声が大きくなり、カウントダウンが始まった。


「3!2!1!0!!」


 遂に2時を迎え、周囲の盛り上がりが最高潮に達した。が。


「……何だ?」


 酒場にはウィンドウはおろか、風すらも起きる事もせず、あっという間に場の空気がさめてしまった。


(おーい、誰か何か言えー、場の空気が痛ぇ)


 すると、突如空間が四角く割れ、それが黒い面にひっくり返り始めた。


「お!?おおお!!?」


 よく分からんが、少なくともヤバイのは確かだろう。


 周囲を見渡すと、やはりまだ状況を飲み込めてない奴がいるようで、あちらこちらで悲鳴などが上がっている。


「おーい、ギンジよー」


「ん、シンか」


「コレ何ー?」


 三者三様の言葉を交わすが、分かる筈も無い、何しろ、まともに情報収集して、いや。収集しようとした二人でさえ、何も知ることはできなかったのだから。


「まぁ、ねぇ……」


「どっからどう見ても……」


「完全に……」


「「「ヤバくね?」」」


 笑えるほど3人の声がそろったが、全く笑える状況でもなく。さらにとんでもない声が聞こえてきた。


「おい!ログアウトができねぇぞ!!」


「えええ……」


「最っ悪」


 ログアウトができないとは、明らかに何かのバグか、運営側のミスだろう。

 と、そう考えるのが普通だ。しかし、このとき俺は、明らかにそれよりやばい予感がしていた。

 そして、その予感がほんの一秒後に現実となった。


『よう、クソ辛気クセぇ顔がそろっていやがるが、今日はこのコードDの部屋にようこそ来ちまったなぁ』


 突如周囲から反響するように、明らかに性格悪そうな男の声が聞こえてきた。

 その声に反応し、周囲の声がいっそう高まるが、すぐそれを制するように。


『まぁまぁ、ちょっと黙れ低能種族が。

 黙れないようならここで全員殺すぞ?』


 殺す―――とほとんど、子供が軽口を叩くような感じで発せられた単語は、一瞬でこの場を静まり返らせる『何か』があった。


「ふざけんな!ここはゲームだぞ、殺せるもんなら殺してみろ!」


 そう、それは最もで、たとえこの場で殺されようと、現実の俺達には、傷ひとつつけることはできないはずなのだ。

 が、それでも何か、心の端に残った不安は、どうしても消えない。


『あー、まだ分かってない方いらっしゃる?

 正直ホントに殺してもいいけどさ、それじゃ意味ないし、まずは裏チュートリアルから始めようか』


「裏チュートリアル…だと?」


 俺の呟きに『声』は反応し、一瞬視線が俺に集まったような気がした。


『そう、この俺が開催する不正ゲームの裏チュートリアルだ』


「不正ゲームって何?」


『まぁーいろいろ説明するのもなんだ。要は生きるか死ぬか、そんだけだ。

 メニューのヘルプに情報は載せておいた。念のために言っとくが、嘘はないぞ』


 メニューを開こうとした瞬間、体に違和感を覚え、足元を見ると、モンスターが死ぬときと同じような緑色のデータ片が拡散し、足から消えていった。


「な!?なんじゃこりゃ!?」


『いってらっさい、がんばってねー』


「待て!えええーと……あ、コードD!お前、目的はなんだ!気になるから教えてください!!」


 一瞬の間の後、含み笑いを入れた返答が帰ってきた。


『ククク、そうだねぇ、データ採取、って所かな?』


「は?」


 それと同時に、完全に視界がゼロになった。




  ※  ※  ※



「む、ぐぬぅ……」


 エレベーターで上に上がるときと同じような重圧を感じた後、どこかに立っているのがわかったが、目を開けるべきかどうか迷った。

 なぜなら、あんないかにもワルといった言動の男(だと思われる)が移動させたところだ、ナメクジ型モンスターが大量に出てくる洞窟や、気色悪いステージなんかにすっ飛ばされてる可能性があるからだ。


(でもあけなくて勝手に死んでも困るしなぁ…)


 そして、意を決して開けた目に飛び込んできたものは、白亜の壁だった。


「お、おお……」


 辺りを見回すと、そこは真っ白な壁に囲まれた町のようだった、遠くに城のようなものが見えるから、城下町と言ったところだろうか。


「こんなことなら迷う必要なかったなぁ……」

「ほんまやなー……」


「「………………」」


「誰だお前!?」

「誰やお前!?」


 ちっ、またこんな至近距離まで接近を許すたぁ、今日は厄日だぜ。とか思ってみたぜ。



〈数分後〉


「はっはっはっは、でさ、それを3回一気にやってみたんだがよ、全部同じのが出やがんの」


「はっはっはっは、ワイも5回一気にしたんけどな、全部スカなんよ」


「「はっはっはっは、いやぁどうも他人には思えませんなぁはっはっは」」


 完全に意気投合してもうた、にゃはは☆


 俺が買ってたとあるガチャを、同じくやっていたようで、およそ10秒足らずでこの異常事態を忘れて笑いあっていた。


「はは、はははは、は……」


「……笑ってる場合じゃねぇな」


「……そやな」


 現実を直視したほうがいい、と感じたが、一体どうすれば直視できるんだろうか。


「……とりあえずさ、プロカ交換しね?」


「……そやな」


 ほとんどなし崩しというか、流れ作業の如く俺達は互いのプロカを交換した。



 ガジ サラマンダー


 Lv25 奇術師


 Male


 HP1078\1078

 AP879\879


 STR 69

 DEX 82

 VIT 46

 AGI 73

 INT 60

 MND 19



 と、書いてあった。


「へー、以外にもシンよりレベル1上なのか」


「そやな……ってなんやこのスキル値!バグか!バグなんか!」


「あーーばれたか、なんかそれな、いつのまにやらそんなんになっててな、バグとは思うが、俺もアカ消されたくねぇし」


「あーゲームマスターはんな。

……と、いうか、GMいるんならここから助け出してくれてもいいやんか」


「……一理ある」


 いまだ意見を認めない俺に、ガジはすこし疑問の表情を浮かべた。


「なんや、それいがいになにがある?」


「GMごとここに幽閉された、……とか?」


「……………」


 しばらくの間の後、突如として、聞きたくも無い声が聞こえてきてしまった。


『ククク、ご名答、約10名のGM諸君等は、君たちプレイヤーとまとめてここに来てもらった』


「……コードD」


「あ、その声!忘れとらへんぞ!ワイの注文したパソコン!誰が受け取るんねん!金払えやドルァ!」


『ったく、ピーピー騒ぐな、さてと』


 また少しの間が空いてから、もういちど上空から、いっそうボリュームを増したような声が降り注いだ。


『今、この世界にいる1万6千とんで52人のプレイヤー諸君、これより君らは、ログアウトが不可能となり、元の世界に戻るのは君らしだいっつーことになる。

 今、2031年5月20日、午後2時半から、丸三日間。君らにはスタートゲームにいそしんでもらう』


「スタートゲームね」


 だが、声は先ほどのように俺の声に答える様子は無く、あくまで機械的に業務を果たすかのごとく話し続けた。


『さらに、スタートゲーム間、メニューから外部に連絡を取ることができる。

 向こうからは不可能だが、こちらからは電話をかける要領で連絡が可能だ。

 せいぜい家族との会話を楽しんでくれたまえ、その会話が、遺言とならないことを祈る。


 あと、ここだけは聞いておいてもらいたいのが、このスタートゲーム会場でモンスターにやられると、君らの現実の体は、半永久的に眠り続ける、要は植物状態になる、と言う事だ』


「植物状態……だと?」


 つまりは、コイツは今、一週間前と同じように、ここでタイラントベアーなどにやられれば、このゲームに、いや、コードDによって、ほとんど死に近い現象を引き起こされる。ということだ。


『三日後、元のゲームフィールドに戻ると、死神(キルビス)属性、というアビリティを持ったモンスターをそこに解き放つ。このモンスターにやられると……あーまぁさっきと同じだ。植物じょーたい。

 それ以外のモンスターなら、べつにいくらぶっ殺されようと大丈夫だ。デスペナはあるがな』


『デスペナないようはヘルプに載せとくわ。いま君らのいるフィールドに、すぐ横にもう一人プレイヤーがいるはずだ。それと協力して、三日間生き残ってくれ。

 べつに三日間、NPCの宿屋で縮こまって過ごすもいいが、これはゲームだ、楽しんでもらうために、ここのモンスターにとある細工を施した』


「とある細工…やと?」


 しかし、やはり声にこたえる気配は無い。


『ここのモンスターは全て、レアドロップの出現確立を100パーセントに設定してある。うまくいけば、あっという間に最強プレイヤーにもなれる』


 レアドロ100パー。それは、俺のプレイヤーとしてのとある感覚を強く刺激した。


『俺からの忠告はこんなとこかな。無いとはおもうが、スタートゲームで全滅したりしないでくれよ。ここまで趣向を凝らしたんだから。

 それでは、これで俺の裏チュートリアルを終了し、三日間のスタートゲームを開始する。ほな、がんばってね~』


 その後に、ザザッというノイズを残し、『声』は消滅した。


「……なぁ、ガジ、お前これから……どうする?」


 一拍の間をおいて


「そやなぁ……遺言残そうにも、聞く相手がおらへんしなぁ……

 ギンはどうすんや?オトンやオカンおるやろ?」


「俺は…いいよ、話したって……意味は無い」


「……ほんとにええんか?あとで後悔だけはせんようにしぃよ?」


「いいんだよ……早く行くぞ」


 虚を突かれた、と言った目をしているガジに、もういちどいってやる。


「フィールドに行くんだよ。モンスターを狩って。レアドロの装備を集めて。この世界から絶対に脱出してやるために」


 すると、そこそこ頼もしげな、自信に満ちた、挑戦的な表情を浮かべた。


「……ああ、ええで、それでええ!それでこそ、ワイが見込んでへん男や!」


 少し言葉がおかしかったような気がするが、まぁいい。


 2031年5月20日、午後3時ほど、俺達の『ゲーム』が開始された。

 俺とガジは、フィールドに続く門に向かって―――――あいにくと夕日ではないし、お天道様には背を向けて――――――走り出した。



 はい、ついにアレがアレになりましたねぇ~

 いやしかし、コレがアレとは思いませんでしたねぇ~

 え?だからわからんって?

 そりゃそうでしょう、俺もわからないんですから。(爆笑)


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