勇者の本
勇者は英雄であってはならぬ。 まして、優者であることは許されない。勇者は愚者であり続けることで、初めて勇者たることが出来るのだ。
例え、進むべき路が険しくても。
例え、味方に裏切られようとも。
例え、誰かに利用されようとも。
例え、最愛の者が死んでしまっても。
例え、周りに誰も居なくなったとしても。
ただただ愚直に、愚かに、痛ましく歩き続けなくてはならない。
脚を休めても、足を休めてはならない。
掌を止めても、手を止めてはならない。
意思を消しても、意志を消してはならない。賢い生き方をしてはならない。
他人に愚かと言われる道こそが、勇者(愚者)の歩くべき道である。
勇者は騙されなければならない。
勇者は怒らなければならない。 勇者は泣かなければならない。 勇者は哀しまなければならない。
勇者は受け入れなければならない。
勇者は絶望しなければならない。
勇者は赦さなければならない。 勇者は挫折しなければならない。
勇者は希望(幻想)を魅せなければならない。
そして、例え何があろうとも。勇者は、最後には笑って(・・・)いなければならない。
勇者は愚者であり、標(贄)であり続ける。それが、弱者(観衆)たる我々の願い(呪い)であり、理想(狂想)である。
──故に
──勇者が歩む道は
『邪道』ではなく
『忌道』はなく
『外道』にあらず
『奇道』ですらなく
『詭道』にふれず
『蛇道』とならず
『戯道』とまざらず
『正道』たらず
『誠道』にこがれ
どこまでも、いつまでも、ただただ、ひたすらに、いたずらに、なすがままに、あるがままに。
哄笑され、嘲笑され、冷笑され、失笑され、狂笑される、
──『王道』である。
ファーニラル・ライニック著