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破格の依頼 国の思惑

 ギルドの中にある一室。その重厚な作りのドアがコンコンコン、とノックされる。それに対して部屋の中の人物が反応をする前に、



「で? 何のようだ、オッサン」


 と、急に呼び出されたことへの、不満のような疑問のような言葉を投げ掛ける。返事を聞く前にドアを開き、部屋の中に入って来た青年──ルーフ──は不機嫌さを前面に出しながら、件の人物。すなわち、ルーフを呼び出した者へと歩み寄る。

 目上の人物に対する態度ではないが、これは彼の礼儀がなっていない訳ではなく、彼の目の前にいる人物。

 彼が『オッサン』呼ばわりしている〈アルカディア〉のギルドマスター。『ゲイル・サジェスター』が堅苦しい礼儀などを嫌っているから、ゲイルの知り合いでギルドに加入している者たちはこういった態度を取っているのだ。



 もっとも、仮にゲイルが礼儀正しい態度を強要したとしても、ルーフのゲイルに対する態度を変えることはないだろう。散々厄介事を押し付けられた彼にとって、ゲイルへの敬意など微塵もないのだ。



 洗練されたデザインの机の上に両足を組み、不敵な笑みをルーフに向けるゲイルの姿は、彼のだらしなく開けられた、丈夫そうな作りの上着から覗く、一切の無駄なく鍛え上げられた褐色の肉体。短く刈り込まれた金色の髪。左の頬から胸にかけて刻まれた深い傷が、獣を思わせる精悍な顔つきと相まって、どこか超然とした雰囲気を漂わせていた。

 実年齢は明言していないが、五十などとうに越えている筈だが、どう見ても二十代後半程にしか見えない。全く衰えを感じさせない肉体だ。



「悪いな、依頼から帰った途端に呼び出して」



「欠片も思ってないことを言うなよ」



 不敵な笑み──ルーフからすればニヤニヤと笑ってるようにしか見えない──を浮かべたまま、ルーフを労うゲイルに、とっとと本題を言え、とばかりに彼は答えた。


「違いない。お前を呼び出した理由だが、簡単に言うと依頼だな」 くつくつと、含み笑いをしながらゲイルは言う。ルーフはその姿に軽い殺意を覚えたが、何時ものことだと自分に言い聞かせ、



「……内容は」



「おいおい、そんなに嫌そうな顔するなよ。今回の依頼は中々『愉快』な内容だぞ」



「帰っていいか?」



 ゲイルが『愉快』と言う依頼。今までの経験則から言えば、ルーフにとって最悪な内容になる。それを感じ取ったルーフはすぐさま逃亡許可を求めた。


「駄目だ。で、お楽しみの依頼内容だが──」



 ルーフの希望を一刀両断したゲイルは言葉を溜めて、



「勇者パーティーに付いて行け」



 どうだ、と言わんばかりの表情で言いはなった。ルーフは痛み始めたこめかみを抑える。どうも最近は運が悪い。今回のこれは最上級に付いていない。



「そんなもん、Aランク以上の奴らにやらせろよ」



「往生際が悪いぞ。それにお前なら分かるだろ? この〈ブレザリウス〉という国からの依頼の意味を」


 先程までのふざけた態度を一変させ、ゲイルはルーフを見据える。一見、ルーフを評価しているようなセリフだが、実際は違う。


 『この程度の話の裏を読めないならお前はいらない』そう、言外に告げているのだ。普段どれだけふざけていようとも、ゲイルはギルドマスターだ。軍隊を壊滅させる力を持つ、数少ないSランクの化け物達が、形式だけでも自分の上に立つことを容認した相手。



『ゲイル・サジェスター』〈アルカディア〉のギルドマスターであり、自身もSランクの化け物に名を連ねる者。それが、押し潰そうとするような『圧』を持ってルーフへと問いかけた。



「はぁ、めんどくせぇな。どうせ勇者の名を売るためだろ」



 ゲイルの放つ、一般人どころかある程度の実力を持った冒険者すら逃げ出しそうになる威圧を受けても、ルーフは変わらず怠そうに返す。ゲイルは満足そうに頷き、


「正解だ。〈ブレザリウス〉は五大国の一つだが、それは勇者の召喚が可能だからだ。逆を言えば、それしかない」 ああ、後は古いって事くらいか。というゲイルの言葉を受け、ルーフが話を続ける。



「だから、召喚した勇者の名を上げて国の名声を保つ。その為に、勇者のパーティーには国から優秀な人材を出す。が、国にいる優秀な奴らは能力が高くても、一部の奴以外、個人や少数での旅なんざしたことがない。有ったとしてもせいぜい集団での遠征程度だろ。そんな奴らだけのパーティーじゃ、勇者サマが死ぬかもしれない。なるべく旅なれた人材が欲しい。が、優秀でも他国から来た(やつ)や旅なれた志願兵を付けるのも、国としては心もとない。忠誠心が本当にあったとしても、それは代々続いてきた騎士サマ、貴族サマのようなモノじゃあない」


「それで?」



「……旅なれてても、勇者サマに付けるパーティーに礼儀がなってないような奴らを推薦したと思われたら、国としては些か具合が悪い。それなら旅なれた人材で、国から『直接』推薦した訳じゃない。文句を言われても『間に』挟まれる、矢面に立たせるような便利なモノ。今回はギルドか、に依頼した方が手っ取り早くて確実だ。けど、Aランク、もっと言えばSランクの奴らなんか雇ってパーティーに入れたら、勇者サマの名声がそいつらのお陰ってことになりかねない。だから、Aランク以上の奴らには依頼が行かないとかそんな所だろ。細かい思惑は抜きにしてならな」



 疲れた、と言い、ルーフはそこで話を切る。



「そういうことだ」



「で、何で俺なんだよ。俺はCランクの雑魚なんですが?」



「なに、単なる嫌がらせだ」



 チャキ、とルーフは腰のロンクソードに手をかける。大丈夫、今なら殺れる。あのムカつくニヤケ面を叩き斬れる。



「冗談だ、冗談」


 さすがにやり過ぎたと思ったのか、ゲイルが手を出しながら止める。全く冗談に聞こえなかったことから、半分以上は本気だったのだろう。



「お前を指命したのは報酬がお前が必要としてるもので、この依頼はお前以外では難しいからだ」



「どんな報酬だ?」



 ルーフはひとまずロンクソードから手を放して、ゲイルの言葉を待つ。



「王城の魔術書の閲覧許可と、【禁止霊域】への侵入許可証だ」



 ルーフは眠たげだった目を見開き、ゲイルを見る。王城の魔術書の閲覧許可だけでもかなりの報酬だと言うのに、【禁止霊域】への侵入許可だ? ふざけているとしか思えない。だが、ふざけているとしか思えないような報酬を出すほど、切羽詰まっているとも考えられる。いや、むしろ──



「………………なるほどな。正しい依頼の内容はなんだ?」



 暫く呆然としていたルーフだが、何かを感じ取ったようにゲイルに聞く。



「クックック、やっぱ分かるか。まぁ分からなかったらお前に依頼を回してないけどな」



 ゲイルは今度は本当に楽しそうに笑いながら告げる。



「正しい依頼は────」










 ゲイルから(・・)された依頼を、舌打ちと共に了承する。ああ、ああ、分かってはいたがやっぱりめんどくさい内容かよ、忌々しい。部屋を後にし、苛々と歩きながらルーフは思う。これは絶対に、何回か死にかける、もしくは死ぬような依頼だと。そして、そんな依頼を受けなければならない状況に陥る程、自分は余裕がないんだな、と。



 声をかけてくるギルドのメンバーを適当にあしらいながら、自分の拠点へと向かう。王城に行くのに、今の姿や格好では下手をしなくても門前払いだ。ある程度の体裁を整えるために、一度戻らなくてはならない。自分の不運を嘆くべきか、不運を運んで来る奴ら──ゲイル筆頭に複数──を恨むべきか。後者一択だな、と逡巡(しゅんじゅん)すらなく結論を出したルーフは、ため息を吐きながら、雑踏の中を進んで行った。

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