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茫然自失  作者: 木介


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2/2

彼女に起きた出来事

また彼がやってくる、私が入院してからというものほとんど毎日顔を見せてくる。

こんな状態にならなければ半年の間に結婚していたであろう、私に降りかかった悲劇は突然であった。


半年前、遅くまで残業をしていた私は終電ギリギリまで粘り、電車には乗れるように急いで会社を出た。


『機器トラブルの影響で現在復旧の見通しがたっておりません…ーー』


「うそ…」


こうゆう時に限って電車のトラブルだ。

タクシー乗り場は混雑しており私は迷った。

というのも家に着くのに歩けば一時間、遅くまで働いた体には確かに辛いが、いつ乗れるかわからないタクシーを待つよりかは歩いた方がいいと考えたのだ。


いつもは歩かない道、地図アプリを見ながら自宅へと帰っていく道中に短いトンネルがある。

目の前に来た時、本能的に嫌な感じはあったがそこから遠回りする気力はなく中へと入る。


トンネルの中は暗く寒い、頼りになるのは出入口から差す月明かりのみだ。

半分まで歩いた所で私が入ってきた入り口から誰かが立ちその影が私を暗く包み込む。


(こんな夜中に出歩く人がいるんだ)


私は不安になり少し後方を見た。

そこにいたのは誰かではなく人形ひとがたの何かだった。

私がそう思ったのはその大きく折れ曲がった首だ。あんな状態で生きていられる人間など存在しないのだ。


見てはいけない者を見た私は早足でその場から立ち去ろうとするが、不思議な事に出口までの距離が縮まらない。

その現象に気づいた時、遠くでサイレンのような音が聞こえる。


「一体なんなの…」


泣きそうになりながらも私は足を止めず歩き続けた。そのサイレンの音はどんどん大きくなりやがて分かる。それはサイレンではなく言葉だと。


【しゅきしゅきしゅきしゅきしゅきしゅきしゅきしゅきしゅきしゅきしゅきしゅきしゅきしゅきしゅきしゅきしゅきしゅきしゅきしゅきしゅきしゅきしゅき】


先程の何かがそんな声をあげながら走って追ってきているのだ、私も永遠に続くトンネルを走り出す。


そして私は何かに捕まり刃物で滅多刺しにされて死亡した。


気が付くと私はトンネルの中央で倒れていたらしい。


(夢?)


痛みすらリアルに感じた夢。

(最悪の気分…)そんな事を考えながら立ち上がると遠くからサイレンのような聞き覚えのある音が聞こえる。


「えっ?なんで?…」


後方を見ると先程の何かがまた私を追ってきていた。

泣きながら再度逃げるが、いずれは捕まり殺される。

そしてまた同じトンネルの中央へ戻される。

私はこれを何十いや何百回と繰り返したのだ。


現実へ戻った時にはもう私は生きる気力を無くしていた。

そしてその何かは今も尚、私に付いてきている。私が自ら死ぬのを期待し、その折れた首で顔を覗き込んでくる。


いつ死んでも構わない、そう思いながらも実行しないのは彼がいるから、自分でも分かる程に魅力はなくなり変わってしまった私を愛してくれている。


彼は私の生きている意味だった。


そんな彼が私に何も告げず一週間が経った時、放心状態の私をある看護師の言葉が目覚めさせる。

「というか彼死んだらしいですよ」

一看護師がそんな事を知っている筈がなく、嘘である可能性が高い言葉であったが私は立ち上がり看護師を怒鳴りつけた。


すると看護師は気絶し私は何かと初めて目を合わせ伝えた。


「仕切り直しよ」


その言葉の通り私は走る、あのトンネルすべての元凶の場所へと。

病院からトンネルへの道など知るよしもなかったが導かれるように目的地へと着いた。

着いた頃には辺りは暗く、あの時を思い出す。

中に入ればその記憶は鮮明になり、時間が戻っていくのを感じる。

トンネルの中央に着いた所であの時と同じように伸びた影が私を包んだ。


後方を見ると何かがそこにいてあの奇妙な言葉を発しながら私に向かって走り出した。

あの時と大きく違い彼女には恐れなどない、こちらも何かに向かって走り出す。


「今まで苦しめられた分だ!」


彼女はその何かに向けて拳を振り下ろした。

するとそこには何も存在はしていない。


「…やったの?」と疑問に思いながらも少し安心していると彼女は後ろから刺される。


【しゅきしゅきしゅきしゅきしゅきしゅきしゅきしゅきしゅきしゅきしゅきしゅきしゅきしゅきしゅきしゅきしゅきしゅきしゅきしゅきしゅきしゅきしゅき】


その言葉を聞きながら意識を失い、彼女はまた何十何百と同じ事を繰り返したのだ。


「良かった…大丈夫?身体は何ともない!?」

「君が倒れたって聞いて…俺…」


目の前には半年前の彼がいた。

あの後、私は救急車で運ばれて今は病院らしい。

周りを見渡しても今度は何かの姿は確認出来ない。


(終わったんだ…)


彼女は今回、何十何百と繰り返した中でも諦める事はなかった。この想いが何かを退け、最悪の未来を変えたのだ。


彼女は人目を気にせず彼に泣きながら抱きつく。

「怖かった」と大声で泣く彼女を彼は強く抱きしめて応える、すると彼女は突然聞いてきた。


「私の事好き?」


人目があるなかで彼女がそんな事を聞いてくるのは初めてで、彼女はどちらかといえば人前でスキンシップを好む人ではなかった。

彼はそれほど怖い経験をしたのであろうと思い、恥ずかしさもあったが真剣に応える。


「あぁ、好きだよ」


「どのくらい?」


「そりゃもうこんくらい」


と恥ずかしい気持ちを抑えながら大きく両手を広げて表現してみせる。


「私も好き」


そう言って彼女は彼の胸に飛び込み再び抱きしめあう。


「好き好きしゅき」


自然と出た言葉に彼女は違和感を感じながらも今は彼との時間を大切にした。


(了)

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