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茫然自失  作者: 木介


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放心状態の彼女

とある病院の個室、扉を開けるとそこには一人の女性がベッドの上で寄り掛かるように座っている。

彼女の虚ろな瞳は一点を見つめ、目元には大きな隈が出来ている。

頬は痩せ、唇は割れており、その顔は土色であった。

肩まである黒いボロボロの髪は白髪が交じり、まるで絵本に出てくる老婆のような印象を受ける。

この見た目で彼女がまだ二十代前半の女性であると答えられる人はいないであろう。


彼女が入院したキッカケはあるトンネルで倒れているのを発見され病院へ運びこまれたのだ。

外傷などはなかったが彼女は心に何かしらの大きな傷を負ったらしく、誰が話しかけても反応なく一点を見つめているだけでいわゆる放心状態であった。


そこから改善が見られない彼女が入院し既に半年が経つ、入院してからというもの毎日のように同い年ぐらいの顔が整った恋人が病院まで会いにくる。彼は数分しか面会出来ないとしても必ず会って話すのだ。

彼女の両親がお金持ちだからとかそういった理由ではない、何故なら彼女の個室、その料金を払っているのが彼なのだ。


お金持ちの若い男が毎日やってくる光景は看護師の間で噂になり、彼女を羨む者も出てくる程だ。


だがある時その彼氏がパッタリと姿を見せなくなった。

これまでも一日だけ顔を見せない時などはあったが今回は一週間も顔を見せていない。

病気か怪我か、はたまた彼女に会うのが疲れたのか看護師達は想像を膨らませている。

その中に一人悪意をもった看護師がいた、自分の方が若く綺麗であるのに何故あんな女がいい男と付き合えているのか、その嫉妬心ゆえに看護師はある日、彼女に嫌みを言い始める。


「いつも来ている彼、一週間も姿を見せないなんてどうしたんですかねぇ~」


「…」


「病気とか怪我とかしてないといいですよねぇ~」


「…」


「それともぉ~若くてカッコいい男性ですから別に恋人作っちゃったとか?」


「…」


彼女の無反応が面白くないのかどんどん言葉が過剰になっていく。

何を言えば反応するのかと看護師は最も過激な言葉を彼女の耳元で囁いた。


「というか彼死んだらしいですよ」


「…」


これでも反応を示さない彼女に苛立ち、分かりやすく舌打ちした後、部屋を出ようとしたその時、ふと背後に気配を感じ振り返る。

すると彼女が亡霊のように側で立っていた。


「ひぃっ」と驚きのあまり立ち退くと彼女が立っているその奥に坊主頭で歯茎が剥き出しになっている人形ひとがたの何かが不自然に折れ曲がった首でこちらを見ている。

その瞳は白く濁り、まるで泥水の中からこちらを見ているかのようだった。

そしてその何かはこちらへ迫ってくる。

看護師は腰を抜かし座り込み部屋の隅へと逃げて目を閉じ丸くなる。


「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい」


誰にという訳ではなくただ謝罪の言葉を繰り返していた。

すると何の気配も感じられなくなり、看護師は少し目を開けて状況を確認した。

目の前には顔を目一杯近づけた彼女がおり、目が合うなり鬼の形相で言われた。


「嘘をつくなーーー!!!」


その光景を最後に看護師は意識を失ってしまった。

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