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第一話 星なき世界に生まれて

お久しぶりです。マイペースにゆっくり投稿していきますので宜しければレビューなど頂ければ改善に繋がりモチベにもなるのでよろしくお願い申します。



朝は、警報の轟音から始まる。


夜明けを告げる代わりのように、老朽化したスピーカーが悲鳴を上げ、

「安全が確認されました」という無機質な音声が、街全体を叩き起こした。


誰も、それを信じてはいない。


それでも人々は立ち止まらず、

耳を塞ぐこともなく、

ただ“いつもの音”として受け流し、それぞれの生活へと戻っていく。


彼も、その一人だった。



「遅いぞ、久遠」


鉄柵越しに、初老の男が言った。


人工フェイタル管理施設・第三支部。

少年は息を切らしたまま、半ば閉じかけたゲートを滑り込む。


彼の名は、夜天久遠よぞら・くおん


星の名を冠するには皮肉なほど、

星の存在しない時代に生まれた少年だ。


「すみません……」


「昨日の件だ。報告書を三枚。それと——」


男は一度、言葉を切る。


「次に勝手な行動をすれば、保護対象から外す。

分かっているな、久遠」


久遠は小さく頷いた。


反論はしない。

反論できる立場ではない。


彼はフェイストではない。

正確には——フェイタル未確認者。


政府の名の下に管理される、

“何かを持っているかもしれない存在”。


だから、ここにいる。



施設の廊下は白かった。


清潔で、無機質で、

人の価値が数字と報告書で測られる場所の色をしている。


昨日——

リージングとの遭遇があった。


久遠が提出した報告書には、こう記されている。


『偶発的な崩壊により、対象は消失』


嘘ではない。

だが、真実でもなかった。


あの瞬間。

確かに、世界は止まった。


音も、動きも、意味も失って。

そして——


“決まった”。



「次の検査だ。入れ」


白衣の女が、淡々と告げる。


年齢は分からない。

感情を削ぎ落としたような目だけが、久遠を映していた。


椅子に座らされ、ヘッドギアを装着される。


「今回は脳波観測。

過度な抵抗は禁止されています」


「……はい」


禁止されていなくても、抵抗はできない。


光が走る。

電子音が重なり、

視界が、ゆっくりと沈んでいく。



暗闇の中で、久遠は気づいた。


見られている。


監視カメラの視線とは違う。

もっと深く、もっと遠くから——


――まだ、確定していない。


声だったのか、概念だったのかは分からない。

低く、静かで、怒りも優しさもない。


久遠は、無意識に問いかけていた。


「……誰だ」


返事はない。


ただ、

“何か”がこちらを観測しているという感覚だけが残った。



検査が終わる。


白衣の女がモニターを見つめ、眉をひそめる。


「……脳波に異常があります」


「フェイタル反応か?」


初老の男が問う。


「……いいえ」


一拍の沈黙。


「未分類です」


男は久遠を一瞥し、すぐに視線を外した。


「記録しろ。

暫定——異常なしだ」


女は一瞬だけ躊躇したが、

それ以上は何も言わなかった。


久遠は、解放される。



夕方。


街は相変わらず灰色だった。


フェイストがリージングと戦う映像が、

ニュースで英雄譚のように流れている。


人工フェイタル実験の成功例。

人類はまだ戦えている、という希望。


久遠は、それを少し離れた場所から見ていた。


「……星って、どんなだったんだろうな」


隣で、同年代の少女が言う。

施設で雑用をしているだけの一般市民だ。


「見えた時代があったらしいよ。

昔は、空にたくさん」


「昔か……」


久遠は空を見上げる。


雲。

巡回ドローン。

光害。


星は、どこにもない。



夜。


警報が鳴った。


今度は、本物だ。


「施設外縁部でリージング反応確認!

住民は直ちに避難せよ!」


人波が乱れる。

フェイスト部隊が出動する。


その中で、久遠は——

気づけば逆方向へ走っていた。


理由は分からない。


ただ、

“まだ、確定していない”

あの感覚が、頭から離れなかった。



瓦礫の裏。


リージングがいた。


昨日より、明らかに強い。


勝てない。

逃げられない。


足が、止まる。


それでも、不思議と崩れなかった。


怖いのに、

身体は、立っている。


「……またか」


世界が揺れる。


時間が、意味を失う。


リージングの動きが、

**“失敗した結末”**へと滑っていく。


久遠は、何もしていない。


ただ——

「そうなる未来」が、選ばれただけだ。


リージングは、音もなく崩壊した。



その瞬間。


どこか、遠い場所で——

何かが、目を開いた。


――ようやく、見つけた。


星ではない。

神でもない。


ただ、

“観測を引き継ぐ者”。


夜天久遠は、まだ知らない。


自分がこの世界で、

最も厄介な存在であることを。



夜空は、今日も星がない。


それでも世界は、

確かに、動き始めていた。


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