2.転生
女神様に意識を飛ばされてから、俺は新たな世界へと転生した。
転生した先に待ち構えるのは美人な女性と、屈強な男だ。
脳内に埋め込まれた人類支援型マイクロデバイス、コロルが俺のサポートをしてくれるが、どうにも言葉の裏にはとげが垣間見える。
ともあれ、新たに幕開けた俺の転生ライフは好調な出だしを迎える。
ここはどこだ……。
夢見心地な空間だ。白と茶色で構成された目の前の景色には、泣いている少女が俺の目を奪う。
白色のワンピースを着た幼い少女。
俯いている為、顔は見えないが短く切られた髪の下には涙が見える。
声は聞こえないが、嗚咽を出しているであろうその様子は俺の心に沁みる。
大丈夫か?
声を出そうとするも、俺の声帯はまるで石の様に動かなかった。
手を動かそうとするも体も動かない。ただただ目の前の少女も見つめる事しかできなかった。
「だから、いつまで寝てんのよ!」
うぅ……。お腹に広がる鈍い痛みに、思わずと声が漏れる。
目を開けると、女神様が腕を組み仁王立ちして目の前に立っていた。
顔を少し赤らめている。
同時に意識の落ちる前に視界に入ってた黒いパンツが脳裏に蘇r……
「パンツはもういいから!」
「すみません!」
反射的に返してしまった。一瞬、背筋に広がった寒気が、彼女がただ者ではないのだと直感させる。
「気になることもあるでしょうが、1つずつ話すわね。私の名前はレイリア……」
レイリアは口を開き、この空間の事や、俺が唯一選ばれた存在になる事、そして異世界での新たな生活……いわゆる異世界転生をし2度目の人生を送れるチャンスをくれた事を話してくれた。
要約すると、2度目のハッピーライフを送れるという訳だ。
「まだハッピーと確定した訳じゃないからね。」
俺の心は彼女、レイリアに筒抜けとなっている。
彼女の話によると、ここは次元の狭間にある空間で本来存在することのない空間を彼女の力で強引に作り上げているとの事だ。故にレイリアの力が満ちるこの空間では、彼女の体や意識と同化している状態に近い空間になっているとの事だ。
「あなたには新しい世界に迫る脅威を追い払って貰わないとダメなんだからね。」
そうだ、2度目の人生を送るうえでレイリアから求められた条件。
それが、世界に迫る脅威を退けることだった。
「もちろんです。ただ、その為には……僕には何の力もない。どうせ異世界なら、守れる力が欲しい。」
今のこの貧弱な体には、自分の身を守る事で精いっぱいだろう。
「そうね」
その言葉と共に、彼女は杖を軽く振りかざす。
淡い光と共に現れたのは、水色の水晶。
「これに手をかざしてちょうだい。そうすればあなたも力が授けてもらえるわよ」
水晶に手をのせると、水晶は淡い光を放つ。
何が起こっているのか全く分からないが、温かみを感じる光だ。
レイリア?そう呼ぼうとすると、彼女は水晶を覗き込み、悪戯な笑みを浮かべている。
「予想以上だわ……!」
レイリアの美しい顔は不気味に写っている。
「あなたにして正解だった!少し予定は早いけど、もう転生の時間ね。」
待って、俺には一体どんな力が授けられたというんだ。新しい世界の事もまだ聞きたい事が……。
「後はあなたが向こうで切り開きなさい。たまには私も行くから、私の力となりなさい」
その言葉を聞き終える前に俺の体は一瞬でどこかへと転移した。
──オギャァ、オギャァ。
赤ん坊の泣き声が聞こえる。甲高いその声には、一生懸命に産まれてきたんだと精いっぱいに叫ぶ声にも聞こえる。
「よく頑張ったね……」
震える女性の声だ。恐らくこの声の人が産んだのだろう。
目を開けると焦点が合わない。
必死で目を凝らすと、目の前には20代半ばくらいだろうか。
金色に髪を染めた女性が目に入る。
その女性は温かな視線を俺に送っている。
顔立ちの整ったその顔には、うっすらと涙が浮かんでいる。
「よく頑張ったな!」
がっちりとした腕が俺の視界を妨げる。折角、美人を拝んでいたというのに……。
「あなた、元気な男の子よ」
「ほんとだな、立派なものがしっかりとついているな」
俺の股間にひんやりとした指が触れる。
これは、美人な人が触っているのか!?それとも男なのか……!?
視界を遮っていた腕がなくなり、俺の体は一瞬にして空を舞う。
抱き上げられている……のか?
手を動かそうとするも全く思い通りに動かない。
「はーい!パパでちゅよ~」
目の前の男は無視し、なんとか手を動かそうと試みる。
やっとの事で動かせた腕は、色白くまるで発達のしていないパンパンの腕だった。
これが俺……なのか……。
──あなた様は転生されました。
脳内に響く懐かしさのある女性の声だ。
君は誰なんだ……?
──私のことをお忘れですか?29年間も人生を共にしたというのに。
転生前の記憶を思い出した。無機質な機械音から、唐突に変わった女性の声。
もしかしてコロル……か?
──その名前は私は嫌いです。
29年間、人生を共に……というより、俺に埋め込まれていたマイクロデバイスだ。
むっとしているであろう声に、少し張り合いたくなる。だったらなんて呼んだらいい?
──私のご主人様なんだから、ご主人様が決めて下さい!
名前なんか、生涯考えた事もなかったな……。
俺に任せてもいいのか?
──あなた様に決めてほしいんです。
それなら……。しばし考える……。シオン、はどう……?
──シオン……気に入りました。
恥じらいの感じる声にはどこか満足そうな感情も感じ取れる。
ところで、これは一体どういう状態なんだ?
視界には女性が俺を抱き上げる姿が映る。
──あなた様は転生されたのです。名前は……
「あなたの名前はフィル。フィル・ランドアールよ」
シオンの声に続いた女性の声には、この世の幸せを凝縮した様な温かさが溢れていた。
数日間俺は、とんでもない苦行を強いられていた。
日々変わる大人の顔を、拒否できる事もなく、眺め続けなければいけない。
自由に動く事もできなければ、喋ることもできない。
「あー!うー!」
喋れてもこれだけだ。どうやって意志の疎通をしろというのだ!
日に日に蝕まれていた俺の心を救ったのはシオンだ。
──ご主人様、今日も暇そうですね。
暇と言うより、どうやって過ごしたらいいんだ……。
毒舌な彼女だが、俺の唯一の話し相手だ。
──魔力の蓄え方でも練習してみてはいかがですか?
魔力?この世界には魔力があるのか?まさか、魔法が使える的な?
──そのまさかです。そうと分かれば早く鍛錬をすべきかと。
身体も何一つ自由に動かせないのに鍛錬なんて、どうすればできるのか。
──目を閉じてください……
目を閉じると、俺の脳内に何かが流れるイメージが沸く。水の様だがもっと荒い何か、砂の様なものが流れるイメージ。
──赤ん坊でも感じれますか?これが魔力です。今はこれだけしか流せませんが、より魔力を鍛錬できればもっと強く、もっと太い、深みを伴う力へと変わりますよ。
赤ん坊でもは余計な気もするが……。どうしたら鍛錬できるんだ?
──イメージです。今あなた様に流れた魔力は元は体中を駆け巡る魔力。その寄せ集めです。今のイメージを続けることで、魔力は強く、太く、深みが増していくんです。
イメージ……か。
心を落ち着け俺はイメージしてみる。
──初めてにしては上出来じゃないですか。
目を開くと、いつも通りの光景。美人な女性がほほ笑む姿だ。
何も変わってない様に思うが……。
俺の視界には入っていなかったが、部屋の隅に置かれた瓶の水がポーションへと変わっていた事に気づくのはまだ先の話だ。
拝読頂いてありがとうございました!
転生先はまさかの赤ん坊、魔力の使える世界に転生したからこそ、俺は必ずハッピーライフを迎えてやるんだ!
次回、美人な女性に魔力が暴h……
──いい加減、お母さんと呼んだらどうなのですか……気持ち悪い……
暴発してしまう!お楽しみに!




