1.悪魔の様な女神様
科学文明が発達しきったこの時代、2150年。
人類の98%はAIに代替される世の中に、俺は生まれながらにして人生のレールをひかれていた。
そんな折に、突如直面した事のない異変に遭遇し、俺の人生はレールから外れていく。
生きた奴隷としての人生から、突如現れた悪魔の様な女神様に俺は出会い……。
時は2150年。
科学文明の成長が青天井に広がっていたといわれる昔の時代とは異なり、今では新しく発見されるものはないといわれている。
脳内に響く無機質な女性の声。
「午後13時を迎えました」
理由がこいつだ。
脳内には人類支援型マイクロデバイス、通称コロルが埋め込まれている。
AIの進歩は凄まじく、現代では人類の知能を遥かに上回るレベルまで進化している。
世の中に隠されていた未発見な物や事象は、AIによる無限にも及ぶ網羅的な開発により全てを発見し尽くされたといわれている。
人類にとって変わる働き手であり、次世代の資産。それが現代のAIなのだ。
日本はおろか、全人類が生まれた瞬間に埋め込むことを強要される。
何でも数億人にも及ぶ国民の体調管理や、疫病などの病の早期発見を目的とは言われているが、実際はGPS機能を利用した万が一の追跡手段や反逆思想への警戒にあたるだろう。
ただ、強要といっても、日常生活を送る上では不自由なことはない。
視界には仮想現実上に支援画面が表示されており、現在時刻、連絡、スケジュール、設定など、全てが脳内に埋め込まれたデバイスで完結できるようになっている。
もちろん、1歩も動くことなく連絡を送る事もできれば、15時のおやつの依頼だってする事も可能だ。
再度言おう。不自由はない。
不自由はないのだが、AIによる進化で、世の中の98%の物事はAIが人類に変わって完結される世の中になっている。故に、時間が有り余っているのだ。
産まれて29年、仕事というものを経験したことがない。通貨を稼いだこともない。
上層国民は凄く満喫できる暮らしを送っているそうだが、俺たち一般国民には、生活できる基盤を作る事すらできない。
故に、今こうして機械の一部としてしか生き続けることのできない、生きた部品としての生涯を全うしている。
──ピピッ──
脳内に響く微かなアラーム音。
いつの間にか眠ってしまっていたようだ。
同時に目の前の透明なチューブには、ゼリー状の茶色い液体が流れ込んできている。
チューブは俺の胃へと繋がっており、ゼリー状の液体は俺の身体へと流れ込んできている。
普段流れ込んできている感覚、何とも味気ない食事だ。
金属質で、かつこの膨大な空間にはぴったりといえる味だろう。
目から涙が溢れる。
いつか自由に生きてみたい。外の世界というものを経験できる日がくるのなら……。
零れた涙が遥か下へと落ちていく。
その時俺は初めて気づいた。遥か下の地面で、優に50体は超える自立機能型ロボットが慌ただしく動き回る姿に。AIは完璧だ。今までだって1度たりともエラーになんか直面した事もなかった。
ただならぬ異変だと肌で感じる。
突如白い光が視界を遮る。一瞬で白い光は強烈な赤色へと変貌し、黒煙が迫る。
鼻腔に焦げ臭さを感じると同時に脳内に伝播するびりびりとした感覚。
微かな痛みと共に俺の意識は暗闇へと落ちていった。
──ピピッ──
脳内に聞き馴染みのある音が響く。
意識が落ちていたようだ。同時に体のだるさを感じる。
今はもう少しだけ寝かせて。
瞼を開けることもなく、再び意識を深い所へと戻そうとしていた時、脳内に女性の声が響く。
「午後15時を迎えました」
いつもは無機質な声が、可愛らしくそれでいて凛とした、落ち着きのある声に変わっている。
何かいつもと声変わってないか?意識下で感じていると、また違う女性の声が聞こえる。
「早く起きなさいよ!せっかく2度目の人生にチャンスをあげようというのに!」
俺の体調とは相反し、活力に満ちた声。
思い瞼を開ける。瞼の外側からは白い光が差し込み、俺の視界を埋め尽くしている。
数秒待っていると、普段とは違う、無機質な白い空間を目にした。
起伏もなければ、物1つ何もない、平坦な白い世界。
そんな平坦な世界に、場違いにも金色の椅子がぽつんと佇む。
同時に視界の上からゆっくりと舞い降りる女性。
黒と赤色のドレスの様な衣服を着ているその姿はまるで女神の様だった。
女神とは思えない、禍禍しい杖を片手には添えているが……。
そして金色の椅子に着地したかと思うと、こちらを見て悪戯な笑みを浮かべている。
「2度目の人生へようこそ。私の世界の為に尽力しなさい!」
世界?何を言ってるんだ?
確かにあこがれた。ファンタジーの世界みたいに自由に生きることができればどれ程幸せなのか、と。
でもそんなのはあくまでも空想の世界。現実で起こりえる話ではない。
脳裏に増える疑問を問いかけようと口を開くと同時に、目の前の女神様が遮る。
「質問は後。あなたに選択肢はないのだから。やるなら生かす。断るなら殺す。どっちにするの?」
脚を組み、悪戯な笑みを浮かべる女神様。
まるで勝てるゲームで高見の見物でもしているかの様なその姿には、美徳とすら感じるものがある。
不安はあるが、俺の答えは決まっている。あんなくそな人生からやり直せるっていうんだ。
「やります、尽力させて頂きます」
答えと同時に、組まれた脚の隙間に広がる楽園が見えた。
パンツの色は黒、か……。
──……──
「この空間では、意識は私に筒抜けなの」
震える女神様の声が、俺の数秒後の姿を強制的に予見させる。
「1回死になさい!」
振り上げられた杖が、目にもとまらない速さで振り降ろされた瞬間、鈍い痛みと同時に同時に俺の意識は再び深い闇へ落ちていった。
拝読して頂きありがとうございました!
今までにはないジャンルを目指して、今後とも執筆していこうと考えています!
まだまだ新参者ですが、今後に期待して頂けたらと思いますので、引き続きよろしくお願いします!




